政治・経済

 参入障壁が高い製造業の分野で、まずは東南アジアをターゲットに、電動バイクで勝負を懸けるテラモーターズ。徳重徹社長は2年前、『経済界』が主催する「金の卵発掘プロジェクト」で審査委員特別賞を受賞。さらにパワーアップして、日本発のグローバルメガベンチャーとなるべく闘志を燃やす。

徳重 徹氏(テラモーターズ社長)×夏野 剛氏(慶応義塾大学特別招聘教授)〜ベンチャー起業のあるべき姿〜

徳重 徹

徳重 徹(とくしげ・とおる)
1970年生まれ。九州大学工学部卒業後、住友海上火災保険(現:三井住友海上火災保険)に入社。29歳で退社後、米国留学しMBAを取得。シリコンバレーのインキュベーション企業の代表として IT・技術ベンチャーのハンズオン支援を行う。2010年4月にテラモーターズを創業。電動バイクなどElectric Vehicle(EV)の開発・販売を手掛け、現在、東南アジアを中心に事業拡大に取り組んでいる。

夏野 「金の卵発掘プロジェクト」では、僕は断トツで徳重さんをグランプリに推したんですが、もう卵の段階じゃないという理由で特別賞になってしまいました。でも、世界レベルで言えばまだ卵ですよね。

徳重 自分たちは世界を見ているので、そのレベルで言えばまだ卵だと思ってます。

夏野 一方で、もう1部上場までいっているのにベンチャーを名乗ってるアホな経営者がいるのも日本の情けないところです。徳重さんの場合はバイク業界というものすごくエントリーバリアの高いところに入っている。一番困難なところにあえて戦いを挑んでいる感じがするんですが、それはなぜですか。

徳重 起業する時に、気持ちが入っているエリアでないと続かないと思ったからです。僕は大学浪人したんですが、その時に読んだ本田宗一郎さんや盛田昭夫さんなどの本が大好きだったんでそこからきてると思うんですが、結局「グローバル」と「イノベーション」ということがずっと好きだったんです。

夏野 トヨタ、パナソニックよりは、ホンダ、ソニーなわけだ。

徳重 大学生だった20年前はそうでした。今、僕がクレイジーなことをやっているのはよく分かっていて、起業してからはホンダやヤマハとどう戦うんだと100回以上言われました。だけど誰かが突破しないといけない。今アメリカのテレビ市場でトップを走っているのはソニーでもパナソニックでもサムスンでもなく、ビジオというベンチャー。フォックスコンなんかも1990年代は単なる中小企業だったのが、今や売上高10兆円を超えていますからね。ああいうのを見ていると、何で日本人はできないのかと思ってしまいます。フィリピンやベトナムやインドをまわっていると、圧倒的に日本の会社、特に大企業が負けていると感じます。

夏野 剛

夏野 剛(なつの・たけし)
1965年生まれ。早稲田大学政治経済学部卒業後、東京ガス入社。95年米ペンシルバニア大学経営大学院ウォートンスクールでMBAを取得。ITベンチャー企業を経て、97年NTTドコモ入社。Iモードビジネスを立ち上げ「iモード生みの親」と呼ばれる。2008年同社退社後は、ドワンゴほか数社の取締役を務める傍ら、慶応義塾大学特別招聘教授として教壇にも立つ。

夏野 でも、日本に対する信頼は厚くないですか。

徳重 それはもう、すごいんですよ。仮に僕らの会社の価値が100だとすると、日本だと大手志向だからせいぜい30にしか評価されない。でも、アジアに行くと300にも400にもなる。ビジネスにおいては信頼が第一だから、みんな日本企業と一緒にやりたいんです。ところが一方で、それを全部なしにするぐらいのマイナスポイントがあって、僕がどこの国でも言われるのが、日本人は「NATO」だというんです。「ノー・アクション・トーク・オンリー」の略ですね。僕に言わせたら「ノー・アクション・リサーチ・オンリー」じゃないかと思うんですが。リサーチにだけ来られても、現地の人からしたらえらい迷惑なんですよ。

夏野 企業訪問して、1時間相手させて……。

徳重 で、中途半端な回答して、期待させて、結局何もしない。

夏野 日本企業はトップがそれをやっちゃうから。大企業のトップがスティーブ・バルマーに会っても、何も要件がないみたいなこともある(笑)。

徳重 向こうは、リアルビジネスで動いていますからね。日本の良いイメージがそういうので相殺されてしまうんです。僕の場合は単身乗り込んで、いきなりビジネスの話をするから、彼らも関心があれば最初から合弁の提案とかがくる。こっちもイエス、ノーをはっきり言うから分かりやすい。すごい日本人が来たなということで、モテモテなんですよ(笑)。

徳重 徹氏(テラモーターズ社長)×夏野 剛氏(慶応義塾大学特別招聘教授)〜オリンピックモデルを作ったら面白い〜

夏野 なぜ僕が徳重さんに頑張ってほしいかというと、ガソリンから電動への置き換えは、中国がすさまじいじゃないですか。上海でみんな電動バイクに乗っているのを見て、日本のバイクが全部置き換えられるぞと思ったからです。

徳重 そのとおりですね。

徳重 徹夏野 でも、電動バイクは技術が必要なので、これは日本がやるしかないと。

徳重 ありがたいことに、東南アジアではホンダとヤマハの市場シェアが9割あるんですよ。だから日本メーカーである僕らにはアドバンテージがあって、そこに良い製品を作って良いブランディングを行って展開するのは理にかなっている。現場のオペレーションは大変ですが。

夏野 ちなみに、国内でやるとしたらいくら必要ですか。

徳重 お金ですか? ただ、国内でやるのは海外よりはるかに時間がかかると思っているので。

夏野 そうかなあ。例えば東京だけで、モデルもちょっと変えないといけないとは思うけど、できませんか。国内では、高級品だけでもいいかなと思っていて、例えば最近ではイタリアの高級自転車が飛ぶように売れているわけですよ。でも実用性を考えたら、電動バイクのほうが全然いい。車の免許を持っているけど運転しない東京都民を対象に、ウェブ販売すれば結構いけるんじゃないかと。1台30万円で年間1万台の販売でいいと思うんですよ。お金があれば人材は集められるから、全部でいくらあったら国内でできるのかなって。

徳重 まぁ、車体開発で3億円くらいですかね。

夏野 全部で30億あればできる? 僕が調達してきますよ。

徳重 (笑)。

夏野 こんなことを言うのは、東南アジアで販売するときに「日本でどんなもの売ってるの」と絶対聞かれると思うからです。国内向けを見せ球として持っておくのはいいと思う。オリンピックも近いし、東京モデルがあるとオリンピックのときに移動手段として公式採用される可能性もありますよ。僕は、一応東京オリンピック組織委員会でIT担当の参与もやってますし。

徳重 いろんなところに顔出してますね(笑)。

夏野 交通機関をどうするのとなったときに、関係者を車で移動させたくないわけですよ。電動バイクならエコですし。東京オリンピックモデルやりたくないですか。

徳重 いいかもしれないですね。ぜひぜひ。

夏野 国内に別会社をつくってもいいかもしれませんね。日本の力を海外で発揮するのは、すごく大事だけど、日本も大事にしてほしいなあとすごく思うんですよ。

徳重 僕もそう思います。

徳重 徹氏(テラモーターズ社長)×夏野 剛氏(慶応義塾大学特別招聘教授)〜成功例が出れば空気が変わる〜

夏野 やっぱり、有望なベンチャーには確実にお金が回ってほしい。テラさんにはその見本になってほしいと思います。

徳重 僕も、もっと日本はチャレンジしろよと思っていて、そのためにやっているようなところもあります。ポジティブな要素としては、人材の部分ですね。夏野さんは慶応で教えているから分かるかもしれませんが、僕らの時より学生がもっと保守的になっていて、アグレッシブなのは5%くらいしかいないけど、その5%の連中がメチャクチャ尖っている。すごく勉強してるし、英語はできるし、海外に行きたいという願望も強い。

夏野 結局、大企業に夢がなくなってしまったからでしょう。一番トップの人材はベンチャーのほうが採れるんです。足りないのはお金だけです。

徳重 次の実績が出たら、またドカンと新規調達をやりたいと思っています。

夏野 その目玉のひとつは日本版を出すこと。価格は変に安くせずにオリンピックに間に合わせる。2020年までに、電動バイクを大量に供給しようと思ってる企業はほかにないでしょう。

徳重 ないですね。この分野でありがたいのは韓国勢がいないこと。サムスンやLGは、現場で見ていてもやり方がうまいと思いますよね。気合の入り方も違うし。日本とアジアを行ったり来たりしてるから分かりますが、すごく日本はおっとりしてるなと。戦うことが悪いみたいな世の中になってるというか。

夏野 それをひっくり返す必要はないけど刺激していくためには、成功例が出ることです。通信業界では孫正義さんという桁外れの実例があり、ほかの会社は太刀打ちできなくなって、孫さんがベンチマークになっている。ほかの分野でもこれが起きてほしいなと。

対談を終えて徳重 一番の問題は、チャレンジするメンタリティーが不足してるというか……。

夏野 大丈夫、慶応SFCが人材を供給します(笑)。やっぱり、人材の底上げって無理だから上を伸ばさないとダメだと思うんです。やりたい奴に機会を与えるほうが大事で、そこから成功例が3つぐらい出てくれば自分もできるんじゃないかと思う人間がたくさん出てくる。

 僕がモノづくりが好きなのは、システムとして完成されている必要性があり、1つ成功パターンが出るとその業界全体に強いインパクトを与えることができるから。モノづくり系のベンチャーは少ないけど、モノづくりとソフトウエアの価値をくっ付けていくところが日本の強みなので、ぜひ頑張ってください。

徳重 日本企業はきちんとやる部分は評価されていますが、リスクを取らないとかスピード感がないとかいう部分でダメなんで、そこをうまくやっていきたいと思います。ありがとうございます。

(構成=本誌編集長・吉田浩 写真=森モーリー鷹博)

 

雑誌「経済界」定期購読のご案内はこちら

経済界電子版トップへ戻る

関連記事

好評連載

深読み経済ニュース

一覧へ
一般社団法人かぎろい出版マーケティング代表 西浦孝次氏

[連載] 深読み経済ニュース解説

2015年の経済見通し

[連載] 深読み経済ニュース解説

再デフレ化に突入し始めた日本経済

[連載] 深読み経済ニュース解説

消費税率引き上げ見送りの評価と影響

[連載] 深読み経済ニュース解説

安倍政権が解散総選挙を急ぐ理由

実録! 関西の勇士たち

一覧へ

稀有のバンカー、大和銀行・寺尾威夫とは

[連載] 実録! 関西の勇士たち(第20回)

実録! 関西の勇士たち

[連載] 実録! 関西の勇士たち(第17回)

三和銀行の法皇・渡辺忠雄の人生

[連載] 実録! 関西の勇士たち(第14回)

住友の天皇・堀田庄三の人生

[連載] 実録! 関西の勇士たち(第11回)

商売の神様2人の友情 江崎利一と松下幸之助

[連載] 実録! 関西の勇士たち(第7回)

関西財界の歴史―関経連トップに君臨した芦原義重の長期政権

ビジネストレンド新着記事

注目企業

一覧へ

不動産のノウハウや技術を生かしサステナブルインフラへ―いちご

現存の不動産に新しい価値を創造する「心築(しんちく)事業」とJ‐REIT運用、太陽光などのクリーンエネルギー事業が主力。社名の「いちご」は一期一会に由来しており、サステナブルインフラを通じて日本の社会を豊かにすることを目指している。文=榎本正義(『経済界』2019年9月号より転載) 長谷川拓…

次世代車向け先進技術を応用する日本発プラットフォーマー ―イーソル

社員に奨学金を提供―ミツバファクトリーが実践する中小企業が勝つための福利厚生とは

新社長登場

一覧へ

「若者需要の開拓でビール市場を盛り上げていく」塩澤賢一(アサヒビール社長)

アサヒグループ食品の副社長から、この3月にアサヒビールの社長に就任した塩澤賢一氏。長年、ビール営業畑を歩み、マーケティングを兼ねた繁華街歩きを趣味にしている。街の変化から世の中の流れを読む塩澤新社長が挑むのは低迷するビール市場の活性化。若者需要を伸ばしつつ、スポーツイベントを商機として攻勢をかけていく。聞き手…

「事業部門の連携を活性化させ営業利益100億円を目指す」 内藤宏治(ウシオ電機社長 )

地域に根差した証券会社が迎えた創業100周年―藍澤卓弥(アイザワ証券社長)

イノベーターズ

一覧へ

シリコンバレーへの挑戦が生んだ「起業家と投資家が待ち望んだサービス」― 戸村光・ハックジャパンCEO

起業家のスタンスとして、画期的な技術やビジネスモデルを社会で活かすことを目的としたイノベーション先行型もあれば、社会課題解決を最優先とし、そこに必要な技術やノウハウを当てはめていくやり方もある。ハックジャパンCEOの戸村光氏の場合は後者。対象となる課題は「身の周りの気付いたことすべて」だ。(取材・文=吉田浩)…

「測量美術」が起こす道路工事のイノベーション―草木茂雄・エムアールサポート社長

IT化で変革する産業廃棄物処理の世界―福田隆(トライシクルCEO)

大学の挑戦

一覧へ

専門分野に特化した“差別化戦略”で新設大学ながら知名度・ブランド力向上を実現――了徳寺大学・了徳寺健二理事長・学長

2000年設立で、了徳寺大学が母体のグループ法人。医療法人社団了徳寺会をグループ内に持つ。大学名の「了」は悟る、了解する、「徳」は精神の修養により、その身に得た優れた品性、人格を指す。「了徳寺」は人間としての品性、道を論す館の意味を込めた大学名だ。 聞き手=本誌/榎本正義 、写真/佐々木 伸 …

大学の挑戦

創立100周年、西南学院大学・K.J.シャフナー学長「世界に貢献しインパクトを与える人材を育てる」〜国際交流・就職支援・インターネット出願〜 

「“STAND BY YOU”のスローガンの下、学生一人ひとりに寄り添う教育を」――中央学院大学・佐藤英明学長

経済界からのお知らせ

最新号のご案内

経済界2019年9月号
[特集] 東京五輪以降──ニッポンの未来
  • ・2度目の東京五輪 今度はどんなレガシーが生まれるのか
  • ・高岡浩三 ネスレ日本社長兼CEO
  • ・脱CO2の切り札となる水素活用のスマートシティ
  • ・五輪契機にテレワーク普及へ「柔軟な働き方でハッピーに」
  • ・ワーケーション=仕事×余暇 地域とつながる新しい働き方
  • ・「ピッ」と一瞬で決済完了! QRしのぐタッチ決済の潜在力
  • ・東京五輪で懸念される調達リスク
  • ・フェアウッド100%使用にこだわる佐藤岳利(ワイス・ワイス社長)の挑戦
[Special Interview]

 原田義昭(環境大臣・内閣府特命担当大臣)

 世界の脱炭素化、SDGs「環境」が社会を牽引する

[NEWS REPORT]

◆フェイスブックの「リブラ」で仮想通貨も「GAFA」が支配

◆脱炭素社会へ 鉄リサイクルという光明

◆PBの扱いを巡り業界二分 ビール商戦「夏の陣」に異変あり

◆中国の次は日本に矛先? トランプに脅える自動車業界の前途

[特集2]

 北の大地の幕開け 北海道新時代

・ 鈴木直道(北海道知事)

・ 岩田圭剛(北海道商工会議所連合会会頭)

・ 安田光春(北洋銀行頭取)

・ 笹原晶博(北海道銀行頭取)

・ 佐々木康行(北海道コカ・コーラボトリング社長)

・ 會澤祥弘(會澤高圧コンクリート社長)

・ 佐藤仁志(北海道共伸特機社長)

・ 内間木義勝(ムラタ社長)

ページ上部へ戻る