マネジメント

BOPこそ未来のマーケット

 BOP(Base of Pyramid)とは、世界人口の中で最下層を占める約40億人を指す。彼らは1日2㌦以下で生活する貧困層であり、20世紀まではビジネスの対象には絶対にならないと信じられてきた。しかし、1日2㌦以下といっても、集計すれば1日80億㌦(約8千億円)が毎日消費されている。

 この層の重要性を初めに発見したのは、ミシガン大学にいたインド出身の故C・K・プラハラッド教授だった。彼は2005年の『ネクスト・マーケット』という著作の中で、この広大なマーケットの可能性について実に生き生きとした描写を行った。例えば、インドの貧困層でもやはりシャンプーで洗髪をしたい。しかし、先進国のように大きなボトルは購入できないので、P&Gはそれを小袋に小分けにして大成功した。また、先進国の常識を超えるようなイノベーションも起こっている。大量の白内障患者を抱えるインドの病院では、簡便で効率的な手術療法を取り入れ、1日に数十人単位の治療を可能にしている。

 こうした事例をさらに研究して出てきた概念がビジャイ・ゴビンダラジャンとクリス・トリンブルによる『リバース・イノベーション』である。彼らは、BOP向けに開発されたイノベーション、あるいはBOPの中で生まれたイノベーションは先進国にとっても重要な意味を持つことを明らかにした。例えば、インドの白内障手術の事例は先進国にとっても重要であるし、簡便で省エネルギーの医療機器が役に立つのは先進国もBOPも同じである。事実、GEがインドや中国市場向けに開発した携帯用小型超音波診断器(エコー)が一番売れているのは日本である。もともと日本では往診という概念があった上、高齢化社会の進展や東日本大震災後の仮設住宅で「往診」が頻繁となっている。この小型の超音波診断器が貴重な戦力となっているのだ。

 また、「シンプルで壊れにくく、少しのエネルギーで長く使える」という商品コンセプトはどこの国でも普遍であるし、今後ますます重要になっていくだろう。要はBOPこそ人類全体にとっての未来のマーケットなのである。特に、少子高齢化が進み、エネルギー資源に乏しい日本こそ、BOPマーケットを自分たちの未来だと認識して開拓することが必要なのである。

新しいマインドセット(心構え)

 前回紹介したプレトリア大学のイスマル女史らはこの巨大な市場への進出に当たって、企業がその「マインドセット(心構え)」を変える必要性を指摘した。その指摘を具体的に考えてみよう。その基本的考えとは、

①BOP市場とは、地理的・政治的・経済的・社会的にも全く異なるところだということを徹底的に認識すること。

 インドやアフリカなどBOP市場は、これまで以上の現地化や長期的コミットメントを要求する。その覚悟をしっかりと決めていかないと中途半端なまま撤退に追い込まれることとなる。

②貧困層だからこそ品質が重要。彼らは何度でも消費できるわけではない。だから、品質が重要なのである。決しておざなりの商品戦略を立ててはいけない。

 貧困層が品質を重視するという指摘は日本企業にとっては朗報だ。価格だけでは中国をはじめとする新興勢力に勝ることは難しい。しかし、品質を中心に丁寧なマーケティング戦略を立てれば、日本企業にも進出の余地はあるということだ。その時

以下の指摘が重要となる。

③貧困層は単にものを買う層ではなく、消費以上の購買体験を求めている。

 これは先進国でも同じだが、消費者は単にものを買うだけの存在ではない、一人ひとりが人格を持った掛け替えのない個人なのである。多少高くても消費者が満足するような品質とは何なのか。品質保証に加えて、丁寧な説明や現地での長期的な教育投資などが日本企業の21世紀戦略であることは間違いない。

④貧困層が考えるように考え、行動するように行動する。第三者視点の戦略では決して成功を勝ち得ることはできない。

 BOPマーケットで成果を上げるには、彼らがどのような価値観を持ち、どのようなライフスタイルを好み、どのような生活環境で暮らしているのかを徹底的に理解する必要がある。そのためには、やはり現地に長期滞在をしてコミュニティーに入り込むことが重要となる。2年くらいの任期でくるくる担当が変わるようでは、現地の情報も信頼も得ることはできない。サムスンではないが現地支店長は片道切符で行くような覚悟が必要であろう。一方、日本にやって来た留学生を活用することも重要だ。インドやアフリカからの留学生が日本企業でまだ十分活用されていないのは残念だ。

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