[NEWS REPORT]
シャープの面目躍如、中小型液晶が回復を牽引
2014年12月2日

経営再建の途上にあるシャープだが、髙橋興三社長就任以降の構造改革が着実に進展。2014年度上期の業績は期初予想を下回ったものの4年ぶりに最終黒字を達成した。その中でも液晶事業は構造転換に成功し、成長市場の波に乗る形で業績回復に大きく貢献している。
中小型液晶がシャープの営業利益の大半を叩き出す
液晶のシャープは、やはり液晶のシャープだった。
シャープは2014年度中間期の決算を発表。売り上げ、利益ともに期初の予想を下回ったが、経常利益が前年同期比で大幅に改善し、純損益は4年ぶりに黒字転換を果たした。
収益面で特筆すべきは、上期の営業利益292億円のうち、液晶事業の営業利益は208億円で、そのほとんどを中小型液晶が叩き出していることだ。

髙橋興三・シャープ社長
シャープの液晶事業と言うと、かつてはテレビ向けの大型液晶に傾倒し、堺工場(大阪府)の大型投資が失敗したことで経営状態を悪化させた。
このため、13年度以降は中小型液晶事業を柱とした構造改革を推進してきた。上期の液晶事業の売上高の内訳は中小型液晶が70%、大型液晶が30%。下期は中小型液晶が75%にまで拡大するという。
現在の中小型液晶の需要はスマートフォンやタブレットが牽引しているが、民生機器向け液晶への偏重は一見すると、テレビ向けの大型液晶の轍を踏むとの危惧がある。しかし、デバイスグループを統括する方志教和専務は「大型液晶と中小型液晶とは全く世界観が違う」とそうした見方を一蹴する。
大型液晶ではパネル自体に付加価値が生まれにくく技術面で海外メーカーにキャッチアップされ価格勝負に陥り、収益が悪化した。中小型液晶でもスマホやタブレットの普及に伴い価格下落は起こっているが、大型液晶に比べて付加価値で勝負できる余地が大きく、単に同じ状況にはならないという。
付加価値については、高精細のフルHDの中小型液晶を供給できるのは現在、シャープとジャパンディスプレイと韓国LG Displayの3社のみ。しばらくは3社の優位性が続く見込みだ。高精細以外の付加価値として、タッチパネル性能やデザイン性能の向上などで競争力を高めている。
シャープでは、「フリードローイング」と称するタッチパネル技術を開発。また、狭額縁フレームレスパネルを自社のスマホ「AQUOS CRYSTAL」に搭載している。
シャープでは今後も先行して開発を進め、中小型液晶の付加価値を高めていく構えだ。「IGZO」に加え、「MEMSディスプレイ」や「フリーフォームディスプレイ」など独自技術の開発を進めている。
中国市場の拡大がシャープの液晶事業の追い風に
中小型液晶事業の成長には、追い風も吹いた。その1つが中国市場の拡大だ。
シャープは大型液晶の失敗の1つに大手の顧客に偏重し過ぎ市場の変動性のリスクが高かったことを挙げる。このため、中小型液晶へシフトしていくに当たり、顧客ベースを増やし変動性を希釈させている。
成長する中国市場への展開も顧客ベースを拡大し、スマホ用液晶の中国メーカーは14年度上期の8社から下期には15社に拡大する。さらに中国で15年に発売を予定している25機種への供給を交渉中で、交渉がまとまれば1〜3月期の売り上げに計上され、通期の業績を押し上げる可能性がある。
中国メーカーの特徴として、新興メーカーは競争優位性を求めるため、高精細パネルやIGZOの導入にも積極的だという。
シャープでは新興メーカーをターゲットの1つととらえ展開している。その中の1つ、小米科技(シャオミ)とは小さなメーカーの頃からアプローチし一緒に伸びてきた。中国市場にはさまざまなリスクが懸念されるが、今のところシャープは最先端デバイスを求める新興メーカーの成長の波にうまく乗っている。
もう1つの成長要因が、シャープだけが量産化に成功しているIGZO技術だ。IGZOは従来の液晶パネルより消費電力を抑えることが長所。IGZOを搭載したスマホは低消費電力が強みとなっている。
IGZOの量産化にあたり、シャープでは亀山第2工場(三重県)の製造ラインをテレビ用の大型液晶用から中小型液晶用に転換した。
亀山第2工場はテレビ用に導入した第8世代の大型パネルで製造する。大型基板から中小型液晶パネルを作り込むことにシャープの技術力が生きるが、これがコストダウンにつながる。
「亀山第2を中小型にしていったのは今までのところ正解だった」と髙橋興三社長は語る。さらにIGZOの生産は既存設備の改造で対応できるため、「1桁少ない投資で済む」(方志専務)という。
さらにIGZOでは高精細化の技術開発が進んでいる。シャープは高精細用途は独自のLTPS(低温ポリシリコンパネル)の「CGシリコン」、低消費電力用途でボリュームゾーンに近い領域をIGZOと考えていた。
しかし今回IGZOがLTPSに匹敵する700ppi以上の高精細を実現。これにより、低コストのIGZOで高精細の需要を取り込むことができる。現在、中小型液晶に占めるIGZOの比率は50%で、まだまだ拡大の余地がある。
IGZOはコスト・性能の両面でシャープの業績回復に大きく貢献している。シャープではIGZOの潜在能力を高く評価し期待を寄せる。IGZOをはじめ付加価値技術をいかに発展・実用化できるかが、今後のシャープの鍵を握っている。
(文=本誌/村田晋一郎)
雑誌「経済界」定期購読のご案内はこちら
経済界電子版トップへ戻る
好評連載
深読み経済ニュース
一覧へ増刷率9割の出版プロデューサーが明かす「本が売れない時代に売れる本をつくる」秘訣
[Leaders' Profile]

[連載] 深読み経済ニュース解説
2015年の経済見通し
[連載] 深読み経済ニュース解説
再デフレ化に突入し始めた日本経済
[連載] 深読み経済ニュース解説
消費税率引き上げ見送りの評価と影響
[連載] 深読み経済ニュース解説
安倍政権が解散総選挙を急ぐ理由
霞が関番記者レポート
一覧へ財務省が仮想通貨の規制に二の足を踏む本当の理由――財務省
[霞が関番記者レポート]

[霞が関番記者レポート]
加熱式たばこ増税に最後まで反対した1社――財務省
[霞が関番記者レポート]
下水道に紙おむつを流す仕組みを検討――国土交通省
[霞が関番記者レポート]
NEMの大量流出で異例のスピード対応 批判をかわす狙いも――金融庁
[霞が関番記者レポート]
バイオ技術活用提言 遺伝子の組み換えで新素材や医薬品開発――経済産業省
永田町ウォッチング
一覧へ流行語大賞に見る2017年の政界
[永田町ウォッチング]

永田町ウォッチング
支持率低下で堅実路線にシフトした安倍改造内閣の落とし穴
[永田町ウォッチング]
政治評論家、浅川博忠さんの「しなやかな反骨心」で切り開いた政治評論家への道
[永田町ウォッチング]
無党派層がカギを握る東京都議選の行方
[永田町ウォッチング]
東京都議選は“小池時代”到来の分岐点か
地域が変えるニッポン
一覧へ科学を目玉に集客合戦 恐竜博物館に70万人超(福井県勝山市、福井県立恐竜博物館)
[連載] 地域が変えるニッポン(第20回)

[連載] 地域が変えるニッポン(第19回)
コウノトリで豊かな里山 自然と共生する町づくり(福井県越前市、里地里山推進室)
[連載] 地域が変えるニッポン(第17回)
植物工場、震災地で威力 雇用創出や活性化に効果(岩手県陸前高田市、グランパ)
[連載] 地域が変えるニッポン(第16回)
道の駅を拠点に村づくり(群馬県川場村、川場田園プラザ)
[連載] 地域が変えるニッポン(第15回)
好評ぐんぐん、高糖度トマト「アメーラ」が地域に活気、雇用を創出(静岡市、サンファーマーズ)
実録! 関西の勇士たち
一覧へ水辺に都市が栄える理由と開発の事例を探る
[特集 新しい街は懐かしい]

[連載] 実録! 関西の勇士たち(第20回)
稀有のバンカー、大和銀行・寺尾威夫とは
[連載] 実録! 関西の勇士たち(第17回)
三和銀行の法皇・渡辺忠雄の人生
[連載] 実録! 関西の勇士たち(第14回)
住友の天皇・堀田庄三の人生
[連載] 実録! 関西の勇士たち(第11回)
商売の神様2人の友情 江崎利一と松下幸之助
ビジネストレンド新着記事
注目企業
一覧へ総合事業プロデューサーとして顧客と共に成長する―中尾賢一郎(グランドビジョン社長)
広告やマーケティング、ブランディングを事業プロデュースという大きな枠で捉え、事業が成功するまで顧客と並走する姿勢が支持されているグランドビジョン。経営者の思いを形にしていく力で、単なる広告代理店とは一線を画している。 中尾賢一郎・グランドビジョン社長プロフィール &nb…

新社長登場
一覧へ森島寛晃・セレッソ大阪社長が目指すクラブ経営とは
前身のヤンマーディーゼルサッカー部を経て1993年に創設されたセレッソ大阪。その25周年にあたる2018年12月に社長に就任した森島寛晃氏は、ヤンマー時代も含めて通算28年間セレッソ一筋、「ミスターセレッソ」の愛称を持つ。今も多くのファンに愛される新社長が目指すクラブ経営とは。聞き手=島本哲平 Photo=藤…

イノベーターズ
一覧へ20歳で探検家グランドスラム達成した南谷真鈴さんの素顔
自らの手で未来をつかみ取る革新者たちは、自分の可能性をどう開花させてきたのか。今回インタビューしたのは、学生でありながら自力で資金を集め、世界最年少で探検家グランドスラムを制した南谷真鈴さんだ。文=唐島明子 Photo=山田朋和(『経済界』2020年1月号より転載)南谷真鈴さんプロフィール&nbs…

大学の挑戦
一覧へ専門分野に特化した“差別化戦略”で新設大学ながら知名度・ブランド力向上を実現――了徳寺大学・了徳寺健二理事長・学長
2000年設立で、了徳寺大学が母体のグループ法人。医療法人社団了徳寺会をグループ内に持つ。大学名の「了」は悟る、了解する、「徳」は精神の修養により、その身に得た優れた品性、人格を指す。「了徳寺」は人間としての品性、道を論す館の意味を込めた大学名だ。 聞き手=本誌/榎本正義 、写真/佐々木 伸 …
