テクノロジー

サイバー空間での規制では時には米国と一線を画す是々非々路線をとるべきだ

国際会議では米国とロシア・中国などが対立

 今回は、NEC(日本電気)系列の民間シンクタンク「国際社会経済研究所(IISE)」の原田泉情報社会研究部長・主幹研究員の2回目。原田氏は、サイバー空間での規制に関して、日本は国際会議の場で米国に追従するだけでなく、時に日本の国益を守るために米国と一線を画す是々非々路線をとるべきだと主張した。

-- 原田さんは前回、サイバー空間で国益を守るために日本は独自の立場を打ち出し得ていない、と言いました。では日本はどうすればいいのでしょうか。

原田 国益を守るという点に関して昨年12月の政権交代で安倍晋三・自民党政権が誕生した後、矢継ぎ早に警察庁や防衛省にサイバー対応の専門部隊を作るなど具体的な措置がとられてきたことは事実です。しかし、まだ十分ではありません。

 インターネットの特色は、国境や時間を越えたり、あるいは追跡ができなかったりといった性格を持っていることです。あたかも無国籍のようでもあります。

 しかし、サイバー犯罪や、イランの核施設が攻撃された「スタックスネット事件」のようなサイバー戦争が起き始める中で「サイバー空間を秩序立てていかなければならない」という主張が出てきました。

 その急先鋒はロシアや中国、さらには中東地域、アフリカなどの開発途上国であり、そうした国々は、サイバー空間における国家主権を、分かりやすく言えば検閲を行う権利を主張しているわけです。これ対して欧米諸国や日本は「検閲はよくない」「自由でなければならない」と反論してきました。このような対立から英国ロンドンでの最初の「国際サイバー会議」(2011年11月)開催へとつながっていきました。

 しかし、米国国家安全保障局(NSA)による「PRISM(プリズム)問題」が起きてはっきりしたように「サイバー空間は自由で国境もないのがいい」などと主張することは米国の国益だけを守ることにならないか、日本の国益は守られていないのでは、というのが私の見方です。ですから私は、検閲は論外としても、国家主権が守られるようにサイバー空間をある程度、規制されたものにした方がいいと考えています。

-- 日本は、単に米国に追従するのではなく、是々非々で対応していくべきだということですか。

原田 そのとおりです。インターネットの世界は、弱まりはしたものの現在でも米国の一極覇権が続いています。インターネットの大動脈であるルートサーバーは全世界に13台ありますが、うち10台は米国政府の監督下で運営されています。欧州には2台、日本には1台しかありません。中国が別に1台作ろうとしましたが、米国は許そうとはしませんでした。

 私たちのシンクタンクでは11年からインターネット上の個人情報保護問題を研究するなど日本電子機械工業会の提言作りを手伝っています。この問題に関してEU(欧州連合)は1995年に「EUデータ保護指令」を出しました。12年にはそれを強化・改定した「EUデータ保護規則」案を公表し、現在も審議が続いています。そこには米グーグル社やアマゾン社などの米国企業を規制したいというハラがあります。

 そういう問題に関しても米国は、当然ながら「自由でいい」と主張しています。問題は日本です。自由のままでいいのか、それとも規制をかけるのか、その場合、どの程度、規制するのか。日本の国益を考えずに米国に追従しているだけでは良くないと思います。最低限、日本の国益確保の視点から具体的な議論を国内でやっておき、国際会議の場で表明すべきです。

エシュロン対抗策としてのサイバー犯罪条約

-- 欧州各国はPRISM問題について米国に反発しましたね。

原田 英国は「エシュロン」(末尾の注参照)では米国と緊密な関係を維持していますが、PRISM問題に関しては米国に対して是々非々の態度です。しかし、日本は在米大使館を盗聴され、主権が犯されたに等しいというのに抗議もしていません。日本は本当に独立国かと思われても仕方がないんじゃないでしょうか。

 もっとも英、仏、独の各国も「自国民を盗聴していた」などと報道されています。ですから各国ともダブルスタンダードでやっている面があります。しかし、そうだとしても、PRISM問題では米国に抗議しました。日本は同盟国として米国と協力すべきところは最大限協力すべきですが、欧州各国のように、抗議すべき時は抗議するような大人の対応をとるべきではないでしょうか。

-- さてサイバー空間での国際ルール作りについてですが、まずサイバー犯罪からスタートしたようですね。

原田 01年に欧州評議会がエシュロンに対抗するために発案したともいわれています。目的は、ネットワークだけではなくコンピューターシステム全般への不正アクセスを禁止し、組織犯罪の捜査、犯罪人引き渡しなどの面で国際協力を進めようというもので、日本では国会での批准承認や関連国内法の整備などが行われ、12年11月に発効しました。

-- その詳細や、それ以降の国際ルール作りについて次回、伺いましょう。

【注】 エシュロン=米、英、カナダ、豪州、ニュージーランドの英語圏(アングロサクソン)5カ国で構築された軍事目的の通信傍受システムの暗号名。米国の国家安全保障局(NSA)が主体となって運営している。赤道上に配置された商業通信衛星インテルサットの電波を地上で受信、分析している。電話、ファックス、Eメールなど世界中で行われている通信の90%を受信が可能といわれている。
日本との関係では1989年、インドネシアの電話網整備でNECのシステムが採用されそうになった際、エシュロンで得た情報を元に米国が割って入り、最終的に契約はNECと米国企業で半分ずつ分割された。また95年の日米自動車交渉では日本の基本方針が米国に筒抜けだったことが有名。

関連記事

好評連載

エネルギーフォーカス

一覧へ

緑の経済成長とエネルギー

[連載] エネルギーフォーカス

Energy Focus

[連載] エネルギーフォーカス

電力業界のイノベーション

[連載] エネルギーフォーカス

今後、10年後の電力業界の様相(2)

[連載] エネルギーフォーカス

発電単価から既存原発の経済性を考える

[連載] エネルギーフォーカス

日本は再生エネルギーで世界トップとなる決断を

テクノロジー潮流

一覧へ

科学技術開発とチームプレー

[連載] テクノロジー潮流

テクノロジー潮流

[連載] テクノロジー潮流

エボラ出血熱と情報セキュリティー

[連載] テクノロジー潮流

21世紀の日本のかたち 農電業と漁電業

[連載] テクノロジー潮流

工学システムの安全について

[連載] テクノロジー潮流

エネルギー移行と国民の価値観の変化

ビジネストレンド新着記事

注目企業

一覧へ

次世代の医療現場を支える病院経営の効率化を推進――保木潤一(ホギメディカル社長)

1964年にメッキンバッグを販売して以来、医療用不織布などの、医療現場の安全性を向上する製品の普及を担ってきた。国は医療費を抑える診断群分類別包括評価(DPC制度)の導入や、効率的な医療を行うため病院のさらなる機能分化を実施する方針を掲げており、病院経営も難しい時代に入っている。ホギメディカルは手術室の改善か…

刺激を浴びて徹底的に考え抜くことで自らを変革する―― 鎌田英治 グロービス 知命社中代表

ワンストップで手厚くサイトの売却をサポートするサイトマ――中島優太(エベレディア社長)

新社長登場

一覧へ

地域に根差した証券会社が迎えた創業100周年―藍澤卓弥(アイザワ証券社長)

中堅証券会社のアイザワ証券は今年7月、創業100周年を迎えた。この記念すべき年に父からバトンを受け継ぎ新社長となったのが、創業者のひ孫にあたる藍澤卓弥氏。地域密着を旗印に掲げてここまで成長してきたアイザワ証券だが、変化の激しい時代に、藍澤社長は何を引き継ぎ、何を変えていくのか。聞き手=関 慎夫 Photo:西…

メディカル事業を横串にすることでシナジーを発揮し、顧客満足度向上へ 伏見有貴(リゾートトラスト社長)

新事業の芽を伸ばすことでさらに大きな個性的な会社を目指す――日髙祥博(ヤマハ発動機社長)

イノベーターズ

一覧へ

日本人の英語学習の課題解決に向け、学習者目線のアプリを開発―― 山口隼也(ポリグロッツ社長)

グローバル化が進む中、多くのビジネスパーソンにとって英語力の向上は大きな関心事の1つ。日本人が相変わらず英語を苦手とする理由と解決策について、英語学習アプリで展開するポリグロッツの山口隼也社長を取材すると共に、同社が提供するサービスについても聞いた。(取材・文=吉田浩)日本でますます高まる英語学習熱  201…

老舗コニャックメゾンがブランド強化で日本市場を深耕――Remy Cointreau Japan代表取締役 宮﨑俊治

リグナ社長 小澤良介 家具のEC販売から様々な展開へ

大学の挑戦

一覧へ

専門分野に特化した“差別化戦略”で新設大学ながら知名度・ブランド力向上を実現――了徳寺大学・了徳寺健二理事長・学長

2000年設立で、了徳寺大学が母体のグループ法人。医療法人社団了徳寺会をグループ内に持つ。大学名の「了」は悟る、了解する、「徳」は精神の修養により、その身に得た優れた品性、人格を指す。「了徳寺」は人間としての品性、道を論す館の意味を込めた大学名だ。 聞き手=本誌/榎本正義 、写真/佐々木 伸教育部…

大学の挑戦

創立100周年、西南学院大学・K.J.シャフナー学長「世界に貢献しインパクトを与える人材を育てる」〜国際交流・就職支援・インターネット出願〜 

「“STAND BY YOU”のスローガンの下、学生一人ひとりに寄り添う教育を」――中央学院大学・佐藤英明学長

経済界からのお知らせ

最新号のご案内

経済界2018年12月号
[特集]
平成 ランキングで振り返る“時代”の経営者

  • ・バブル破裂で顔ぶれ一新 平成人気経営者の系譜
  • ・次の時代を創るリーダーとは?

[Special Interview]

 榊原定征(2025日本万国博覧会誘致委員会会長)

 「誘致決定まで1カ月 大阪万博を日本経済の起爆剤に」

[NEWS REPORT]

◆コンビニ軽減税率適用で激化する「外食VS中食」の戦い

◆「液晶のシャープ」が有機ELスマホを発売 初の国産パネルで攻勢をかける

◆「世界一高い」と認定された日本の携帯料金のこれから

◆チャネル政策を見直すトヨタ自動車の危機感

[特集2]

 北海道・新時代の幕開け

ページ上部へ戻る