政治・経済

 ソニーが苦境に立たされている。2015年3月期は、2300億円の最終赤字となる見通しだ。平井一夫社長は業績の立て直しに本腰を入れるが、世界で競争が激化する中、構造改革を実現し、ソニー復活の足がかりにできるかは不透明だ。

 

スマホ事業に再生請負人を配置したソニー

 

 「私は、問題を先送りしないことを社内に徹底してきた」

 11月18日、東京都港区のソニー本社。投資家向け説明会で登壇した平井一夫社長はこう強調した。

 しかし、スピーチの内容はこれまでの焼き直しにすぎず、質疑もなし。参加者からは失望の声も漏れた。説明会は翌週にも予定され、各事業のトップが方針を打ち出すため、抽象的な内容にとどめざるを得なかったとの見方もあるが、トップのスピーチとして、投資家の期待に応えるものでなかったとの見方は多い。

正念場を迎えた平井一夫・ソニー社長

正念場を迎えた平井一夫・ソニー社長

 平井社長は「赤字事業の止血や構造改革について、ある程度の進捗と手応えを感じている」とも述べた。確かに、ソニーは〝お荷物〟になっていた「VAIO(バイオ)」のパソコン事業を売却。テレビも分社化して独立採算制を徹底した。2014年9月中間決算では、スマホ事業の減損処理がなければ、エレクトロニクス(電機)事業全体で黒字を確保していた。

 問題はスマホだ。12年春の平井社長就任とほぼ同時に、同事業を行う子会社の社長に鈴木国正氏が就任。拡大戦略を推し進めたが、北京小米科技(シャオミ)などの中国勢が低価格製品で攻勢をかけると、比較的価格の高いソニーのスマホの販売は一気に落ち込んだ。

 期初で5千万台を目指していた販売台数は、減損処理に伴い4300万台に引き下げた。さらに、10月末の中間決算発表時に4100万台に下方修正せざるを得なかった。

 こうした事態を受け、平井社長は重い腰を上げる。鈴木氏を事実上更迭し、後任に十時裕樹業務執行役員を充てる人事を、中間決算発表前日の10月30日に発表したのだ。9月、ドイツの見本市で平井社長は鈴木氏の続投を明言していただけに、市場関係者は驚きを隠さなかった。

 十時氏はソニー銀行の創業に携わり、その後は吉田憲一郎・現CFO(最高財務責任者)とともに子会社のソネットに移った。そして昨年12月に吉田氏とともにソニーに戻り、構造改革を主導した「再生請負人」だ。  1958年の上場以来、初の無配とした決断にも、吉田、十時ラインの意向が強く働いたとみられる。社内の危機感を強めるためだ。

 具体的に、スマホ事業をどうするのか。吉田CFOは中間決算説明会で、「中国専用モデルの開発中止」を表明。平井社長は「地域、国事に事業戦略を再構築する」と述べた。

 つまり、低価格製品と正面から競争することは避け、高付加価値品で勝負するというのが基本方針とみられる。

 日本ではソフトバンク、米国ではベライゾン・ワイヤレスという大手通信会社を通しての販売を新たに始めるなど、先進国での販路は徐々に拡大している。

 しかし、中国をはじめ、市場拡大が望める新興国での勝負を放棄することは、スマホ事業で収益を上げる道を自ら閉ざすことにもつながりかねない。4100万台をさらに下方修正したり、追加のリストラを打ち出せば、吉田、十時ラインに集まっている市場の期待がしぼみ、株価が急落する可能性もある。

 

ソニーに問われる成長戦略の具体性

 

 ソニーの経営に変化はみられるのか。それはイエスであり、ノーでもある。

 変化を示すのは鈴木氏の更迭だ。鈴木氏は12年にはパソコン事業の責任者も務めていたが、拡大戦略に失敗。それでも、この時は責任を問われた形跡がなく、重要なスマホ事業の責任者を続けた。今回は曲がりなりにも、責任の所在を明確にする意思がみられる。

 11月18、25日の投資家向け説明会も、初めての開催。もともとはソニー株を取得した米ヘッジファンド、サード・ポイントがエンターテインメント事業の分社化と上場を提案する一方、事業の説明が不十分だとの批判を強めたことを受けて、昨年、エンタメ事業について開催。今年は問題のエレクトロニクス事業の各分野について責任者が説明することになり、ここに「説明責任を重視するようになった」(アナリスト)というソニーの変化を感じ取ることも可能だ。

 一方で、平井社長のスピーチが具体策に乏しかったように、改革のスピードは依然、スローペースと言える。スマホ事業が改善すれば16年3月期のソニー決算が黒字化する可能性は高いのは確か。

 しかし、「V字回復」と胸を張って言える水準の黒字額を計上できるかは、現時点では否定的な見方が強い。

 高い成長が見込めるのは「プレイステーション4」の販売が海外で好調なゲーム部門や画像の撮影に使うイメージセンサーについて、スマホメーカーへの外販が好調なデバイス部門くらいだ。スマホ改革も赤字の垂れ流しを止める〝止血〟が優先。業績を牽引するような収益部門に戻ることは考えにくい。

 経営不振に陥りながらもいまだ、「ソニー」という響きに何か、特別なものを感じる消費者は多いだろう。そうしたブランド力が残っている間に再び、画期的な商品を投入することができるか。

 平井社長はスピーチで、

「皆さまが私に期待しているのは、成長戦略のロードマップを示すことだと考えている」と語ったが、その期待にいかに、具体的な内容で応えられるかが問われている。

(文=ジャーナリスト/星和夫)

 
経済界 電子雑誌版のご購入はこちら!
雑誌の紙面がそのままタブレットやスマートフォンで読める!
電子雑誌版は毎月25日発売です
Amazon Kindleストア
楽天kobo
honto
MAGASTORE
ebookjapan
 

雑誌「経済界」定期購読のご案内はこちら

経済界電子版トップへ戻る

関連記事

好評連載

深読み経済ニュース

一覧へ
一般社団法人かぎろい出版マーケティング代表 西浦孝次氏

[連載] 深読み経済ニュース解説

2015年の経済見通し

[連載] 深読み経済ニュース解説

再デフレ化に突入し始めた日本経済

[連載] 深読み経済ニュース解説

消費税率引き上げ見送りの評価と影響

[連載] 深読み経済ニュース解説

安倍政権が解散総選挙を急ぐ理由

実録! 関西の勇士たち

一覧へ

水辺に都市が栄える理由と開発の事例を探る

[特集 新しい街は懐かしい]

水辺に都市が栄える理由と開発の事例を探る

[連載] 実録! 関西の勇士たち(第20回)

稀有のバンカー、大和銀行・寺尾威夫とは

[連載] 実録! 関西の勇士たち(第17回)

三和銀行の法皇・渡辺忠雄の人生

[連載] 実録! 関西の勇士たち(第14回)

住友の天皇・堀田庄三の人生

[連載] 実録! 関西の勇士たち(第11回)

商売の神様2人の友情 江崎利一と松下幸之助

ビジネストレンド新着記事

注目企業

一覧へ

次なるステージを駆け上がる日本電子「70年目の転進」–日本電子

 最先端の分析機器・理科学機器の製造・販売・開発研究等を手掛ける日本電子(JEOL)は、ノーベル賞受賞者を含むトップサイエンティストや研究機関を顧客に、世界の科学技術振興を支えてきた。足元の業績は2019年3月期で連結営業利益、同経常利益、同最終利益がいずれも過去最高を更新。かつては技術偏重による「儲からない…

独自開発のホテル基幹システムで業務効率化と顧客満足度を向上–ネットシスジャパン

逆転の発想で歴史に残る食パンを 生活に新しい食文化をもたらす–乃が美ホールディングス

新社長登場

一覧へ

森島寛晃・セレッソ大阪社長が目指すクラブ経営とは

前身のヤンマーディーゼルサッカー部を経て1993年に創設されたセレッソ大阪。その25周年にあたる2018年12月に社長に就任した森島寛晃氏は、ヤンマー時代も含めて通算28年間セレッソ一筋、「ミスターセレッソ」の愛称を持つ。今も多くのファンに愛される新社長が目指すクラブ経営とは。聞き手=島本哲平 Photo=藤…

森島寛晃・セレッソ大阪社長

カリスマ創業者の後任として描く「新しいマネックス証券像」― マネックス証券社長 清明祐子

「若者需要の開拓でビール市場を盛り上げていく」塩澤賢一(アサヒビール社長)

イノベーターズ

一覧へ

非大卒就職マーケットの変革に挑む元教師の挑戦―永田謙介(スパーク社長)

日本企業の年功序列と終身雇用が崩壊に向かう中、制度を支えてきた大学生の新卒一括採用の是非もようやく議論されるようになってきた。一方、高校卒業後に就職する学生のための制度は旧態依然とし、変化の兆しがほとんど見えない。こうした現状を打ち破るべく、非大卒就職マーケットの改革に挑戦しているのがSpark(スパーク)社…

起業家にとって「志」が綺麗ごとではなく重要な理由―坂本憲彦(一般財団法人立志財団理事長)

勉強ノウハウと法律知識で企業の「働き方改革」を促進する―鬼頭政人(サイトビジット社長)

大学の挑戦

一覧へ

専門分野に特化した“差別化戦略”で新設大学ながら知名度・ブランド力向上を実現――了徳寺大学・了徳寺健二理事長・学長

2000年設立で、了徳寺大学が母体のグループ法人。医療法人社団了徳寺会をグループ内に持つ。大学名の「了」は悟る、了解する、「徳」は精神の修養により、その身に得た優れた品性、人格を指す。「了徳寺」は人間としての品性、道を論す館の意味を込めた大学名だ。 聞き手=本誌/榎本正義 、写真/佐々木 伸 …

大学の挑戦

創立100周年、西南学院大学・K.J.シャフナー学長「世界に貢献しインパクトを与える人材を育てる」〜国際交流・就職支援・インターネット出願〜 

「“STAND BY YOU”のスローガンの下、学生一人ひとりに寄り添う教育を」――中央学院大学・佐藤英明学長

経済界からのお知らせ

最新号のご案内

経済界2020年5月号
[特集] 巻き込む力
  • ・高岡浩三(ネスレ日本社長兼CEO)
  • ・唐池恒二(九州旅客鉄道会長)
  • ・河野 仁(防衛大学校教授)
  • ・入山章栄(早稲田大学大学院・ビジネススクール教授)
  • ・出口治明(立命館アジア太平洋大学学長)
  • ・中竹竜二(日本ラグビーフットボール協会理事)
  • ・時代も国境も超えた普遍のリーダーシップを学べるベストブックス
[Special Interview]

 小林喜光(三菱ケミカルホールディングス会長)

 イノベーションを起こすために「人間とは何か」を問う

[NEWS REPORT]

◆零細企業でも活用できるインターネットM&A最前線

◆業界再編はあるのか 日本製鉄、巻き返しへの一手

◆技術研究所を解体してホンダは何を目指すのか

◆新型コロナウイルス治療薬 なぜ日本企業は創れないのか

[特集2]

 経営者に贈る「イロとカネの危機管理」

ページ上部へ戻る