マネジメント

 ヤフーを筆頭に、インテリジェンス、アサヒビール、日本郵便、電通北海道の5社が、北海道の美瑛町と共同で行った次世代のリーダーを育成する「地域課題研修」が終了した。人事関係者のみならず注目を集めたこの研修がもたらしたものとは。

人材育成において画期的な課題解決研修とは?

 企業の盛衰は突き詰めていくと、必ず「人材」という要因にたどり着く。そのためにすべての会社、組織は、採用はもちろん人材の育成に力を入れる。

 『経済界』2014年8月26日号で特集した「地方から変える日本の未来」の中で取り上げた北海道美瑛町を舞台に行われた人材育成研修「地域課題解決」研修も、10月25日に6カ月に及ぶ研修の最終プログラムを迎え、ミッションである美瑛町の課題解決に向けたプレゼンテーションを行った。会場には審査を行う浜田哲・美瑛町長をはじめ、180人強の町民も参加。今回の研修が町全体から注目され、大きな期待を背負ったプロジェクトだったことをあらためて感じさせた。

最終プレゼンには多くの町民も集まった

最終プレゼンには多くの町民も集まった

 プレゼンの中には、新規就農者を増やすような提案や、観光客の減る冬期にシニアの写真家を積極的に呼ぶ施策、地元の高校で参加企業であるヤフーが技術支援し美瑛を紹介するアプリをつくるなど、「観光」のみならず「農業」、「教育」などの課題に対しての解決案が出された。結果的に浜田町長は6チームすべての案を採用し、今後、実際にどう実行していくかを役場で検討していくようだ。

 この課題解決研修が画期的だというのには、大きく2つの理由が挙げられる。

 まずは、長期にわたる異業種のコラボレーションであることだ。日本を代表する5社に加え、美瑛町の職員や商工会、農協などの代表も参加。各社バラバラに5〜6人ほどの6チームに分かれ、チームとしての活動が求められた。

 参加者はすべて30代前半から40代前半の将来の幹部候補ではあるが、社会に出て10年以上たつ中で、組織の色や業界の慣習に少なからず染まっている。つまり、自分とは違った常識や価値観を持つ者と協力し、チームをつくりあげる苦労は、自社内での研修と比べ、一層の努力とコミュニケーション能力が必要となる。

 もうひとつが、答えのまだ見つかっていない社会の抱える課題に取り組んだことだ。企業の目的から言えば、いかに「稼ぐ」かが大事なことであり、一般的な人事研修であれば課長、部長研修といった役職に応じたスキルに重点が置かれる。ところが、現実のビジネスはスピードが速く、将来の予測が立たない。

 想像もつかない未来に対応する力を得ようとすれば、「どんな問題にも対処できる」人物が求められる。幹部候補であればなおさらだ。

 そこで課題として選ばれたのが「社会課題」というわけだ。自分の仕事の領域とは違う課題と向き合うことは、未知なる難問と向き合うこと。その問題を解決しようと思えば、今までのビジネスで培ってきた技術よりも、これまでの人生そのものが問われる。

 舞台となった美瑛町は旭川市に隣接する農業と観光が中心の人口1万人の小さな町。丘をそのまま農地にした景観は雄大で美しく、そのまま観光資源となっている。人口に比べて知名度も高いが、地方の課題である少子高齢化にともなう生産人口の減少、農業などの後継者不足など多くの課題を抱えている。

企業の本質とつながる人材育成と研修への期待

 今回の研修がどんなに「すごい」と言ってみても、すぐに人材が育つわけでも、地域の課題を解決できるわけでもない。事実、「チームビルディングがうまくいっていないチームもあった」、「もう少し自社の強みを発揮できたのではないか」などといった声も上がっていた。

 一方で、研修で出会った異業種の仲間は今後の財産となるであろうし、他社の人材に比べて、自分や自社の強みを発見できたという声もある。人事の責任者にとっても、成長のプロセスというべき「多様な人材が集まって〝問い〟をたて、解決策を検討するという流れを体験することができて、有意義だったと思う」と目に見える成果はあったようだ。

 先日発表された「日本の人事部」主催の「HRアワード」でも優秀賞を受賞、外部の評価も高かった。

 取材を進める中で、この研修が賞を受ける理由のひとつに、社会変革の嚆矢となるプロジェクトと審査員が認識したのではないかと考える。

 それは、企業が地域に対して積極的に関与する場を設けたことだ。今まで企業が社会と結び付く手段は、税金を納める、自社のサービスでつながる、CSRでの貢献などであった。しかし、今回、社会課題と直接向き合うことで、あらためて企業の本質というものを浮き彫りにした。それぞれの持つ強みを生かして社会の課題を解決していくことこそ、企業の存在理由だからだ。

 優秀なビジネススクールを出た人材が倫理観の欠如した事件を起こす昨今、社会は今「人間として優れた」リーダーを求めている。机上ではなく社会の実態を肌で知るリーダーを育てること。これが、この研修に期待せずにはいられない大きな理由だろう。

(文=本誌/古賀寛明)

 
経済界 電子雑誌版のご購入はこちら!
雑誌の紙面がそのままタブレットやスマートフォンで読める!
電子雑誌版は毎月25日発売です
Amazon Kindleストア
楽天kobo
honto
MAGASTORE
ebookjapan
 

雑誌「経済界」定期購読のご案内はこちら

経済界電子版トップへ戻る

関連記事

好評連載

銀行交渉術の裏ワザ

一覧へ

融資における金利固定化(金利スワップ)の方法

[連載] 銀行交渉術の裏ワザ(第20回)

銀行交渉術の裏ワザ

[連載] 銀行交渉術の裏ワザ(第19回)

定期的に銀行と接触を持つ方法 ~円滑な融資のために~

[連載] 銀行交渉術の裏ワザ(第18回)

メインバンクとの付き合い方

[連載] 銀行交渉術の裏ワザ(第17回)

銀行融資の裏側 ~金利引き上げの口実とその対処法~

[連載] 銀行交渉術の裏ワザ(第16回)

融資は決算書と日常取引に大きく影響を受ける

元榮太一郎の企業法務教室

一覧へ

社内メールの管理方法

[連載]元榮太一郎の企業法務教室(第20回)

企業法務教室

[連載]元榮太一郎の企業法務教室(第19回)

タカタ事件とダスキン事件に学ぶ 不祥事対応の原則

[連載] 元榮太一郎の企業法務教室(第18回)

ブラック企業と労災認定

[連載] 元榮太一郎の企業法務教室(第17回)

電話等のコミュニケーション・ツールを使った取締役会の適法性

[連載] 元榮太一郎の企業法務教室(第16回)

女性の出産と雇用の問題

本郷孔洋の税務・会計心得帳

一覧へ

税務は人生のごとく「結ばれたり、離れたり」

[連載] 税務・会計心得帳(最終回)

税務・会計心得帳

[連載] 税務・会計心得帳(第18回)

グループ法人税制の勘どころ

[連載] 税務・会計心得帳(第17回)

自己信託のススメ

[連載] 税務・会計心得帳(第16回)

税務の心得 ~所得税の節税ポイント~

[連載] 税務・会計心得帳(第15回)

税務の心得 ~固定資産税の取り戻し方~

子育てに学ぶ人材育成

一覧へ

意欲不足が気になる社員の指導法

[連載] 子どもに学ぶ人材マネジメント(第20回)

子どもに学ぶ人材マネジメント

[連載] 子どもに学ぶ人材マネジメント(第19回)

子育てで重要な「言葉」とは?

[連載] 子どもに学ぶ人材マネジメント(第18回)

女性社員を上手く育成することで企業を強くする

[連載] 子どもに学ぶ人材マネジメント(第17回)

人材育成のコツ ~部下の感情とどうつきあうか~

[連載] 子どもに学ぶ人材マネジメント(第16回)

人材育成 ~“将来有望”な社員の育て方~

ビジネストレンド新着記事

注目企業

一覧へ

次なるステージを駆け上がる日本電子「70年目の転進」–日本電子

 最先端の分析機器・理科学機器の製造・販売・開発研究等を手掛ける日本電子(JEOL)は、ノーベル賞受賞者を含むトップサイエンティストや研究機関を顧客に、世界の科学技術振興を支えてきた。足元の業績は2019年3月期で連結営業利益、同経常利益、同最終利益がいずれも過去最高を更新。かつては技術偏重による「儲からない…

独自開発のホテル基幹システムで業務効率化と顧客満足度を向上–ネットシスジャパン

逆転の発想で歴史に残る食パンを 生活に新しい食文化をもたらす–乃が美ホールディングス

新社長登場

一覧へ

森島寛晃・セレッソ大阪社長が目指すクラブ経営とは

前身のヤンマーディーゼルサッカー部を経て1993年に創設されたセレッソ大阪。その25周年にあたる2018年12月に社長に就任した森島寛晃氏は、ヤンマー時代も含めて通算28年間セレッソ一筋、「ミスターセレッソ」の愛称を持つ。今も多くのファンに愛される新社長が目指すクラブ経営とは。聞き手=島本哲平 Photo=藤…

森島寛晃・セレッソ大阪社長

カリスマ創業者の後任として描く「新しいマネックス証券像」― マネックス証券社長 清明祐子

「若者需要の開拓でビール市場を盛り上げていく」塩澤賢一(アサヒビール社長)

イノベーターズ

一覧へ

非大卒就職マーケットの変革に挑む元教師の挑戦―永田謙介(スパーク社長)

日本企業の年功序列と終身雇用が崩壊に向かう中、制度を支えてきた大学生の新卒一括採用の是非もようやく議論されるようになってきた。一方、高校卒業後に就職する学生のための制度は旧態依然とし、変化の兆しがほとんど見えない。こうした現状を打ち破るべく、非大卒就職マーケットの改革に挑戦しているのがSpark(スパーク)社…

起業家にとって「志」が綺麗ごとではなく重要な理由―坂本憲彦(一般財団法人立志財団理事長)

勉強ノウハウと法律知識で企業の「働き方改革」を促進する―鬼頭政人(サイトビジット社長)

大学の挑戦

一覧へ

専門分野に特化した“差別化戦略”で新設大学ながら知名度・ブランド力向上を実現――了徳寺大学・了徳寺健二理事長・学長

2000年設立で、了徳寺大学が母体のグループ法人。医療法人社団了徳寺会をグループ内に持つ。大学名の「了」は悟る、了解する、「徳」は精神の修養により、その身に得た優れた品性、人格を指す。「了徳寺」は人間としての品性、道を論す館の意味を込めた大学名だ。 聞き手=本誌/榎本正義 、写真/佐々木 伸 …

大学の挑戦

創立100周年、西南学院大学・K.J.シャフナー学長「世界に貢献しインパクトを与える人材を育てる」〜国際交流・就職支援・インターネット出願〜 

「“STAND BY YOU”のスローガンの下、学生一人ひとりに寄り添う教育を」――中央学院大学・佐藤英明学長

経済界からのお知らせ

最新号のご案内

経済界2020年5月号
[特集] 巻き込む力
  • ・高岡浩三(ネスレ日本社長兼CEO)
  • ・唐池恒二(九州旅客鉄道会長)
  • ・河野 仁(防衛大学校教授)
  • ・入山章栄(早稲田大学大学院・ビジネススクール教授)
  • ・出口治明(立命館アジア太平洋大学学長)
  • ・中竹竜二(日本ラグビーフットボール協会理事)
  • ・時代も国境も超えた普遍のリーダーシップを学べるベストブックス
[Special Interview]

 小林喜光(三菱ケミカルホールディングス会長)

 イノベーションを起こすために「人間とは何か」を問う

[NEWS REPORT]

◆零細企業でも活用できるインターネットM&A最前線

◆業界再編はあるのか 日本製鉄、巻き返しへの一手

◆技術研究所を解体してホンダは何を目指すのか

◆新型コロナウイルス治療薬 なぜ日本企業は創れないのか

[特集2]

 経営者に贈る「イロとカネの危機管理」

ページ上部へ戻る