政治・経済

 豊富な海外経験を持つニュースキャスターから政治家に転身して20年余。細川、小沢、小泉、安倍と時の権力者の傍らで常に政界の中心にいた小池百合子氏に徳川宗家19代の政治評論家、德川家広氏が鋭くせまる。

 女性閣僚を多数登用するというのが、安倍改造内閣の謳い文句の1つだった。その結果が吉だったか凶だったかの判断はここではくださない。だが、閣僚人事が発表された時に1つ意外だったのは、第一次安倍内閣で国家安全保障担当の首相補佐官を務めていた小池百合子氏の不在である。1993年の細川政権誕生以来、常に政界で話題を提供して来た強烈な個性は、権力の中心からやや逸れた位置にあって何を思っているのか。

小池百合子氏の半生 発想の転換を迫られたカイロ留学時代

小池百合子

小池百合子(こいけ・ゆりこ)
1952年兵庫県芦屋市生まれ。カイロ大学卒業後、通訳、ジャーナリスト、キャスターとして活躍。92年日本新党公認で参議院初当選。93年衆議院に鞍替えし7期連続当選。新進党、保守党を経て自民党入党。環境大臣、防衛大臣、総理大臣補佐官、自民党広報本部長、総務会長を歴任。著書に『女子の本懐』、『自宅で親を看取る』など多数。

德川 私はかねがね、初の女性総理は小池さんしかいないと思っておりました。というのは、第三世界で教育を受けた政治家は、すごく少ないんですよ。英語もお出来になるし、マスコミ出身でテレビにも慣れている。第三世界のエジプトへと留学した経緯はどのようなものだったのでしょうか。

小池 留学は19歳の時ですが、その決断は17歳です。留学先というと欧米が多いんですが、みんなが興味を持っている地域や分野は専門家も多く競争も激しい。手薄だけれども日本にとって重要なところはどこか、ということでアラブを選びました。

德川 通われていた甲南女子学院は、お嬢さん学校ですよね。

小池 基本的にはお嬢さん学校ですね。

德川 当時のカイロは東京と比べて開けていましたか?

小池 がちゃがちゃでしたね、古くて。当時はエジプト航空のほかに日本航空(JAL)もカイロ路線があったんですよ。留学の最後の頃にはカイロのJALで予約係をやっていました。石破茂さんが鉄道マニアだとすると、私は空ですね(笑)。当時ABCという電話帳みたいな時刻表があって、各社の航空路線が全部分かる。私は飛行機のコネクションを研究し尽くして、キンシャサへ行くにはどうとか、それをお客さんに勧めるんです。

 第四次中東戦争も経験しました。学生運動は平和を訴えるのではなく「早く戦争をしろ」とけしかける。それだけでも日本から来た留学生からすれば、発想の転換を迫られました。大学の入学式の代わりに、軍事訓練から始まりましたし(笑)。日本みたいに平和な内向きの国は極めて特殊なんですよ。世界はあちこちで戦争していて、銃弾が飛び交っています。よく日本みたいな真空地帯ができたなと。ありがたいことです。

德川 当時のカイロ大学の男女比はどれくらいでしたか。

小池 学部にもよると思いますが、私がいた文学部では3〜4割だったんじゃないでしょうか。その比率は今でもあまり変わっていないと思います。それよりも面白いのは、当時10人女子学生がいれば、スカーフをしていたのは2人くらいだったのが今では少なくとも5人。カイロ大学もだいぶイスラム色が強くなりました。

アラブの首脳たちはみんな人間臭かったと語る小池百合子氏

德川 ジャーナリストになろうと決断されたのはカイロ大学在学中ですか。

小池 決断をしたわけではなくて、必然的になっちゃったんですね(笑)。留学中にはそういうジャーナリストのお世話をしていたことがありました。日本へ帰ってからはアラビア語の通訳として、今の皇后陛下︱︱美智子さまの通訳の機会をいただいたこともありました。通産省絡みの仕事が多かった。ジャーナリストのお手伝いとして、1978年に、リビア取材を手伝いました。先乗りして準備してカダフィの単独会見に成功しました。30日間現地で断食しながら粘りましたから。お陰で日本テレビの社員でもないのに、チームの一員として社長賞を取りました。「小池さん、ちょっとレポートしてよ」と言われて、トリポリ近郊もマイク片手にレポートしました。おまけに初めてカダフィのお父さんとお母さんがカメラの前に出て来たりして。この独占会見は世界にかなり売れましたね。だから、ジャーナリストには自然になっていった感じです。

徳川家広・政治経済評論家

徳川家広・政治経済評論家

德川 当時のアラブの人たちからは、日本人ということでよくしてもらえたんでしょうか。

小池 それはありましたね。アラブで日本は特別扱いですよ。カダフィでさえ机の上に明治天皇の写真を飾っていて、明治維新に学んで、自分はそれに倣って革命を起こしたと言います。多くのアラブの国々で全体的に言えるのは、アメリカと戦って原爆を落とされて、ゼロから立ち上がった日本は素晴らしいと。賞賛の嵐ですね。日本に対する憧れは今も消えていないですね。これは日本の財産です。

德川 カダフィ大佐の印象は。

小池 何万人の前では、陶酔させるような演説上手でした。ところがインタビューの場では落ち着かなくて、「これがあのカダフィかしら」と思わせるくらいです。その後、ジャーナリストや通訳として、さまざまな首脳に会いましたけれども、群衆の前に立つときはともかく、素顔はみんな人間臭いですよ。

ジャーナリストになろうとしたのではなく自然になっちゃった。

ジャーナリストになろうとしたのではなく自然になっちゃった。

德川 サダト大統領もインタビューされましたか。

小池 ええ。ムバラク大統領も。問題なのは、私のアラブの人脈が最近亡命したり、殺されたり、行方不明になるなど激変していること。長いアラブとの付き合いの中で、「アラブの春」以降ほど激しく動いたことはないです。

德川 サダム・フセインには会われましたか。

小池 サダム自身には実は会いませんでしたが、人質救出の交渉はしました。中曽根康弘さんが来られる下準備を、佐藤文生さんと致しました。

小池百合子氏は語る 日本は教育でアラブ世界に貢献できる

德川 今のイスラム国のことはどうご覧になっていますか。

小池 ここまで激しいグループが出て来ることは予想もしていませんでした。その一方で、ビン・ラディンが殺害された後で、「この後何万人ものビン・ラディンが出て来る」と言われて、そのとおりになった感じはあります。イスラム国は欧米、特に欧州のイスラム教徒の移民の問題ともつながっています。イスラム移民の二世、三世が働き場所が得られないことや、フランス政府がイスラム女性のスカーフを学校で禁止して、EUの裁判所がそれを合憲だという判断をくだしたことや。あまり考えたくないんですけれども、結果として宗教紛争に進みつつあるわけです。シリアでアメリカの対応が遅れたことでイスラム国が増長して、しかも広報戦略が巧みです。欧州で移民としてまっとうな扱いを受けて来なかったイスラム教徒の若者が仕事にありつけると同時に、何より彼らのプライドが守られる。それどころか、イスラム教徒でなくともわざわざ改宗して参加する若者が出て来ることを考えると、格差社会の問題も影を落としているのかもしれません。

德川 日本としては、どういう対応がよいんでしょう。

小池 私はまず自分ができることとして、小さな活動ではあるんですが、シリアの難民の子どもたちのために学校を造りました。シリア国境に近いトルコ領内の町に、300人の子どもたちが学ぶ学校です。クラウド・ファンディングでお金を集めて3カ月でできました。10月に開校式に行って来ました。

 日本政府として何ができるかですが、国連に難民対策、イスラム国対策ということで20億ドルほど拠出しています。これは必要なお付き合いだと思いますが、国連というバスケットにお金を入れられてしまう。それとは別に何か日の丸が立つプロジェクトもあったほうがよいです。特に日本にできることは、教育ではないかと思います。アラブ諸国の人々は日本人の真面目さや礼儀正しさをとても高く評価していますし。それから新幹線があれだけ本数が多いのに、50年間一度も死亡事故を出していないといった緻密さは世界的には不思議なんですが、アラブ人はそこから学ぼうとしています。

小池百合子

私はずっと保守。守るべきは守り、変えるべきは勇気をもって変えるんです。

德川 小池さんは政界ではずっと改革派で通して来たというのが私の認識です。政治家として日本のどこを変えて、何を守りたいと考えて来たのでしょうか。

小池 基本的には、私はずっと保守です。保守は結局シンクロナイズド・スイミングです。水面上の上半身は動いていなくとも、水の中では激しく脚を動かしているように、1つのところにとどまるためにはずっと変化をしていなくてはいけない、という考え方だと思います。

 世界が変わる中で、その変化に押し流されてもダメだし、何も変わらなければ、結果として押し流される。だから、守りたい、変えたくないもののために、変え続けなくてはならないものがある。経済などはグローバルな競争だから変えるべきであるけれど、守らなくてはならない日本の道徳や「義」などについては、子どもたちにしっかり教えることが義務だと思います。守るべきは断固として守り、変えるべきは勇気をもって変えると、選挙の時にも言っております。

(後編に続く)

(写真=葛西 龍)

小池百合子・東京都知事候補が語る半生(後編)

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