政治・経済

 東京オリンピック・パラリンピック、ラグビーワールドカップといった訪日外国人増加を促すメガイベントが控えている。そのチャンスについて、日本政府観光局理事長の松山良一氏は日本のファンをつくることが大事だと語る。

メガイベントなどにより、日本の観光産業に追い風

 昨年、日本を訪れる外国人観光客数は初めて1千万人を超えた。今年も増加傾向は変わらず、昨年を上回るペースで推移し10月には1千万人を突破、1200万人を超える勢いだ。政府は観光を成長戦略の1つと位置付け、インバウンド観光に関しては、2020年までに訪日外国人観光客を2千万人まで増やし、その後30年には3千万人規模に拡大させていく方針だ。

松山良一(日本政府観光局理事長)

松山良一(日本政府観光局理事長)

 観光消費額は現在25兆円だが、そのうち9割が内需で、外需は1割程度となっている。この9割の手堅い内需が日本の観光産業の強みにもなっているが、今後の日本社会の少子高齢化を考えると、外需のインバウンド観光の成長が必須となってくる。また、インバウンド観光は、自動車産業や電機産業をはじめとする輸出製品を扱う製造業と同様に外貨獲得産業である。その成長はそのまま日本経済の成長に寄与する。

 「これまでの日本を支えた『ものづくり』頼みを脱却し、観光を農業とともに基幹産業にする意識を持たなければなりません」と日本政府観光局理事長の松山良一氏は語る。

 観光産業強化の必要性が認識される中、さまざまな追い風が吹いている。短期的には円安や東南アジア諸国へのビザの緩和があるが、中長期的には外国人観光客の訪日につながるメガイベントが目白押しだ。19年にはラグビーワールドカップが開催、20年には東京オリンピック・パラリンピックが開催され、世界で日本への注目度が一気に高まる。また、オリンピック翌年の21年には関西でワールドマスターズが開催されるが、参加者が大会の前後に開催国を観光するツーリズムのイベントとして認識されている上、参加者もオリンピックの2倍でかつ富裕層が多いため、大きな経済効果が期待されている。

 さらに世界遺産の存在もある。昨年、富士山が世界文化遺産に登録されたことから、今年は富士山関連施設への外国人観光客は大幅に増えているという。また、今年は6月に富岡製糸場(群馬県)が世界文化遺産への登録が決まった。このことが外国人旅行者の関心を高める。さらに来年の審査に向けて「明治日本の産業遺産 九州・山口と関連地域」が暫定リストへ追加掲載されており。今後も日本への世界遺産絡みの訪日外国人観光客は増えそうだ。

観光資源を発掘し地域の多様性を訴える必要がある日本

 日本への関心が高まる中、地域の価値を観光資源として発掘し、いかにアピールするかが重要になる。東京でオリンピックが開催されても、東京だけに人が集まるのでは観光大国にはつながらない。

星野佳路・星野リゾート社長

星野佳路・星野リゾート社長

 現在でも既に危惧する兆候は出てきている。星野リゾート社長の星野佳路氏によると、現在までのインバウンドは、海外で知名度の高い観光地が伸び、知名度の低い観光地は変化がないという動向が明確になっているという。今後、訪日外国人が増えたとしても、有名な観光地だけに観光客が殺到し、地域ごとの格差が広がる危険性がある。格差を解消するためには、違った文化、違ったサービスを提供する多様性に富んだ場所であることをアピールする必要がある。

 地域の観光資源という意味では、例えば日本には雪と温泉という強みを持つ地域もある。

 星野氏は日本の冬山の強みを次のように語る。

 「夏のリゾートは東南アジアからインド洋、ハワイ辺りまで全部ビーチで競うことになり、例えば、沖縄の競合は世界中に多い。ところが冬山の雪で競合を探すと、アジアではほとんどない。寒いところは多いですが、これだけ雪が降る所はないです。そういう意味では、日本は観光大国の前にスキー大国です」

 さらに日本のスキー場に隣接している温泉旅館が観光資源として強みを発揮するという。

 「温泉はスキーやスノーボードのアクティビティーと相性が良い。露天風呂も雪見露天風呂があるぐらいで、雪との風景的な相性も良いし、体を温めるという意味での物理的な相性も良いです。温泉とスキーをセットにしているのは、世界最強コンビで、そこも日本の特徴だと思います」

日本の目指すべき姿 リピーターを生む観光業ならではの構造

 日本がこれから観光大国を目指す上で、観光業ならではの特徴を考慮する必要がある。同じ外貨獲得産業でも観光業と製造業には大きな違いがある。例えば、自動車について自動車を買った人はその自動車のメーカーのファンになることはあっても、それだけでそのメーカーの国のファンになることはない。一方、観光では、旅行客は行った先の文化や人に触れ、その土地のファンになりやすい。観光地のリピーターが生まれる構図もここにある。ファンを生むか生まないかが観光業と他産業の違いとなる。

星野リゾートのリゾナーレ トマムの「アイスビレッジ」

星野リゾートのリゾナーレ トマムの「アイスビレッジ」

 このため観光業では、ファンをいかに増やすかが鍵となる。インバウンド観光を伸ばすためには、訪日外国人観光客との相互理解を深めて、日本のファンをつくることが重要になる。

 そうした「ファンづくりの仕掛けがフランスは巧み」だと星野氏は語る。フランスは世界一の観光大国で、日本の8倍の規模で外国人観光客を集めている。松山氏も「フランスは文化を売りにして、そこに行けば何かがあるということをストーリーとして語ることがうまい」と指摘する。

 外国人に訴求するストーリーについて、ANA総合研究所主席研究員の須藤誠氏は次のように語る。

 「田んぼの中のお地蔵さんを、『あれは、何だ』と興味を持たれる方も多いんです。そういったことをストーリーとして語れるといったことなのかもしれません」

 地域の多様性を訴え、日本のファンをつくる試みとして、星野リゾートは創業100周年事業「100 TRIP STORIES」を企画している。世界中から20代の若者を100人募り、日本国内を旅行してもらうもので、国内の3泊4日の宿泊と移動を星野リゾートがサポートする。参加者が旅行後に提出したレポートをウェブに掲載し、参加者による日本の情報を発信する。これにより、世界の若年層をターゲットに日本のファンを増やす試みだ。

 観光大国に向けて日本のファンづくりが着々と進んでいく。

(文=本誌/村田晋一郎)

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