マネジメント

 消費増税や一般用医薬品のインターネット販売解禁など、ドラッグストア業界にとっての2014年は変動が大きな1年だった。業界最大手のマツモトキヨシホールディングスも消費増税などの影響を受けて、業績を修正せざるを得ない状況下にある。長きにわたり同社のトップとして舵取りをしてきた松本南海雄会長は、今日の市場をどうとらえ、どのように厳しい戦いを勝ち抜いていこうと考えているのだろうか。

ネット販売解禁でマツモトキヨシの経営に影響は?

── 2014年はドラッグストア業界にとって、トピックの多い1年でした。どのように振り返りますか。

松本 消費税が5%から8%に上がり、当社でも3月は駆け込み需要で化粧品や医薬品、日用雑貨が多く売れました。食品の扱いは12%弱と少ないのですが、それでも日持ちする食品はよく動きました。

松本南海雄

松本南海雄(まつもと・なみお)
1943年千葉県松戸市生まれ。65年日本大学理工学部薬学科卒業、薬剤師免許を取得。同年にマツモトキヨシ入社。店舗勤務を経て75年専務、97年副社長、2001年に社長就任。07年マツモトキヨシホールディングス社長、09年同社代表取締役会長兼CEO。14年から現職。日本チェーンドラッグストア協会名誉会長。

── しかし、消費増税後の駆け込み需要の反動が、春以降は大きかったということです。

松本 都心部にあるマツモトキヨシの店舗では比較的落ち込みは少なかった。その要因はベースアップ、20年の東京オリンピックへの期待感などもあり、ほぼ平常どおりの消費活動が続いたと思います。落ち込みが少なかった大きな要因としては、外国人観光客の購入が増えたこともあります。観光客人口の拡大に加え、外国人旅行者向け消費税免税制度改正が10月に行われ、土産物として化粧品や医薬品への需要が大きくなりました。

 一方で、苦しいと感じているのが、地方の店舗でした。現在当グループは45都道府県に店舗を展開していますが、自動車のガソリン代の値上がりで郊外店舗への足が遠のいてしまい、収入アップが見込めないことから節約志向が根付いてしまった。消費増税の反動は大きく、特に地方で回復に時間がかかっていると感じます。

 加えて、われわれは土日で大きく売り上げが伸長します。しかし今年は週末の天候不順や大型台風の上陸などが続き、土日の売り上げが伸びず、シーズン商品の売れ行きが鈍かった。現場の感覚としては苦しい1年でした。

── 今年6月には改正薬事法が施行され、ほとんどの一般用医薬品のインターネット販売が正式に解禁。松本会長が名誉会長を務める日本チェーンドラッグストア協会は長年、ネット販売に反対する立場ではありましたが、現在の情勢をどのように見ていますか。

松本 医薬品という商品は副作用や偽薬問題などもありますから、非常にデリケートです。インターネットを介することで、医薬品がどのように利用されるか分からないこともあり、協会では長らく反対してきました。

 正式に解禁されたからには、われわれドラッグストアが今まで実店舗で培ってきた専門性や信頼性という強みを生かしインターネット販売にも取り組んでいきます。例えばインターネット店舗と全国の約1500店舗、町のクリニックなどと連動して相談やトラブルに対応する体制を整えています。医薬品の場合、緊急時にインターネットを使って購入して届くまで待つという例は極めて少ないと考えています。そういった点でも、すぐ相談のできる実店舗を持つことは重要です。

── 松本会長が重要視する実店舗を取り巻く環境では、オーバーストアが進み、狭小商圏での戦いで勝ち抜く必要があります。マツモトキヨシグループが勝ち抜くためにどのような戦略を描いていますか。

松本 狭小商圏で「かかりつけ薬局」として選ばれ、顧客に支持される店舗を目指していかなければいけないと思っています。

 われわれの業界では、食品販売の割合が50%を超える店舗形態と、医薬品などヘルス&ビューティーに特化した店舗形態の二極化が進んでいますが、当社は長年、後者の店舗型で運営をしています。もちろん、食品関係の売り上げシェアを上げれば売り上げは上がりますが、粗利益率は下がりますし、スーパーやディスカウントストアとの競争になります。われわれは、ドラッグストアとしての専門性をしっかり打ち出し、美しく健康でありたいと願う皆さまのために、地域密着型で医薬品、化粧品分野に重点を置き続けたい。

 専門性を高めるためには信頼できる薬剤師や登録販売者、ビューティーケアアドバイザー、栄養士などが必要になります。そういったスタッフが専門知識を備え、対面販売で力を発揮できるような教育が必要になりますし、他店との差別化を図るための鍵になります。

医療費高騰を抑えるドラッグストアの役割

── 店舗運営において、専門性を高めると同時に、顧客を取り込む必要性が出てきます。

松本 顧客の囲い込みは、激しい勝負になると思います。首都圏で展開するマツモトキヨシでは、若い人を中心にした顧客に向けてLINEを活用し、公式アカウントからクーポンやキャンペーン情報を配信しています。このLINEのお友達登録者は1千万人を超えています。また、従来からのポイントカード会員も2千万人以上です。そうした顧客とのつながりを15年以降も活用して、顧客の囲い込みを進めます。

松本南海雄── 一方で、高齢者層へのアプローチも今後必要になります。

松本 高齢者層が立ち寄りやすい狭小商圏で、ニーズに合わせていくことが需要の掘り起こしにつながると思います。中でも、お客さまの声を直接聞く、相談販売の形が重要になります。

── 高齢化社会では、医療費の高騰も問題視されています。その中で、ドラッグストアの役割についても注目が集まります。

松本 高齢者が増加すればそれだけ医療費が高騰していきます。だからこそ、業界としても「自分自身の健康に責任を持ち、自分で守ること」である、セルフメディケーションを推進しています。生活習慣病対策や病気にならないような健康管理を、ドラッグストアを拠点に薬剤師や栄養士などが顧客と共に行い、健康を維持してもらって医療費削減につなげる。こうした役割がドラッグストアには求められています。日本薬剤師会や厚生労働省と連携し、健康教育の充実を図っていかなければなりません。

── 「リフィル処方箋」の導入検討も、セルフメディケーションと並んでドラッグストアや薬剤師への役割期待が大きくなる話題の1つです。

松本 「リフィル処方箋」は一度医師が処方箋を出せば、何度も病院に行かずに薬を受け取れる制度です。これが実現すると、今以上に薬剤師に高度な知識が求められますが、医療費も抑えられます。日本では今、年間約500億円の薬が飲み残しや飲み忘れがあると言われます。現状では製薬メーカーから直接医師が医薬品情報を得ていますが、医師は治療法などほかにも学ばなければいけないものが多い。薬剤師が薬に関するより幅広い知識を持ち、患者とかかわることができれば、薬の無駄を省くことが可能になるはずです。

 ほかにも、薬剤師が少ないことから高コスト体質につながっています。薬剤師を育てる制度なども含めて、業界を取り巻く制度の規制緩和が求められています。われわれが日本チェーンドラッグストア協会を立ち上げて15年がたちましたが、一企業だけではなく、協会や日本薬剤師会などと協力して、業界に存在する高コスト体質を改善しなければいけません。

買収先をマツモトキヨシの看板に変えない理由

── 最近では業界の再編が進み、調剤薬局を併せ持つコンビニなども登場しています。

松本 コンビニは、11年の東日本大震災以降、利便性が認められて力を伸ばしてきていますし、大手のGMSもドラッグストア業界と手を組んでいます。しかし、われわれとしてはやはり、医薬品の専門性を打ち出して差別化を図っていこうと思います。

 ドラッグストア業界には、売上高が4千億円前後の企業が数社ありますが、今後も再編が進むのではないかと思います。また、6兆円の市場を持つといわれる調剤薬局業界も、個人事業主が約7割を占め、後継者問題などを抱えていると聞きます。今後はドラッグストア業界とあわせてM&Aが進むと思いますし、われわれも専門性を追求する過程の中で調剤薬局の併設型店舗などに力を入れています。

── M&Aという点では、マツモトキヨシは地方のドラッグストアチェーンの買収も進めています。それらの店舗はマツモトキヨシの看板に変えない方針をとっています。

松本 これも、地域で愛され、馴染みのある店舗を残すことで、地域密着型の店舗展開を行いたいという考えに基づきます。

 また、地域に愛されるドラッグストアにするためには、地域医療連携も重要になります。地域にある、かかりつけドクターなど医療機関と密接な関係を作り、地域の健康増進を一緒に進め、医療問題を解決していこうとしています。

── 千葉県松戸市で創業し、地域の「かかりつけ薬局」として歩んできた原点が、地域密着という方針に生かされているようです。こうした歴史を次世代にも伝えていかなければいけませんね。

松本 創業の地というものを大切にしてもらいたいです。一方で、松本清雄社長や事業会社の成田一夫社長など、若い人に任せていかなければいけません。結果が出るのはこれからですが、LINEを利用した販促など、僕にはなかった新しい、若い発想でやってもらえればと思っています。

(聞き手=本誌/長谷川 愛 写真=佐々木 伸)

 

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