
目次
電力業界に見え始めたパラダイムシフトの兆し
パラダイムを変えるのは制度改革よりイノベーション
以前、電力行政に携わり、電力の自由化に取り組んだことがあります。その際、考えたことが、制度改革よりもイノベーションが起こせないかということでした。電力行政の前に、1994年から96年まで、情報通信行政の担当でした。ちょうどインターネットと携帯電話の黎明期で、通信会社の技術系の幹部の方に来ていただいて、評価をうかがいました。その時のコメントが印象に残っています。
◦インターネットについては、セキュリティーの問題があり、個人が楽しみで使う分にはいいが、事業者間のビジネス(BtoB)で使うのは難しい。
◦携帯電話については、日本人は今の固定電話の音質に慣れているので、あの携帯電話(当時は自動車電話が中心)の音質で使い続けるのはなかなか難しい。
並行してNTT分割の議論が盛り上がり、長年の政治闘争の結果、97年に、通信分野における競争促進のために、固定電話会社はNTT東日本とNTT西日本とに分けられました。しかし、2000年以降になると、固定電話の東と西の競争というより、インターネットと携帯電話というイノベーションによるパラダイム転換によって、通信業界の競争のパラダイムは全く違うものになっていました。そこで思ったことは、以下の3点でした。
◦革新的であればあるほど、既存の専門家では評価が難しい。
◦そのイノベーションが社会で認められれば、普及のスピードは想定を超える。
◦制度改革よりもイノベーションのほうが、パラダイムを変えられる。
技術イノベーションが電力業界にもたらした変化
電力業界も政治的な力が強く、多くの駆け引きの中で、少しずつ制度改革してきました。03年に電力行政の担当になり、電力自由化を検討することになった際に、通信の世界のようなイノベーションはないものかと、電力の技術の専門家と業界アナリストに話を聞いて回り、以下のようなことが分かりました。
◦携帯電話のように電気を無線で遠くに飛ばすことは、技術的に難しい。
◦パラダイムを変える技術があるとすれば、「蓄電技術」と「需要制御の技術」である。
◦これらの技術は、電力会社の中央給電指令所が、需要に合わせて発電をコントロールするという中央集権的な電力システムを変える可能性を持つ。
ただ、当時は蓄電のコストが非常に高く、現実的ではありませんでした。また、何千万という需要家の需要を見ながら制御していくのは、当時のITでは難しかったのです。
ところが、00年代後半になってくると、「スマートグリッド」という言葉が出始めました。
そして、今や、ネガワットやデマンドレスポンスという需要を制御する技術も実用化されつつあり、また、蓄電池も、電気自動車なども含めて、家庭に入り始めています。そうした意味では、パラダイムシフトの兆しは出始めているのではないでしょうか。
電力業界の未来 既存インフラのない海外で生まれる新発想
革新的イノベーションが起きる条件とは
さらに、通信業界からは、イノベーションに関し、もう1つ、面白い示唆をもらいました。「革新的イノベーションは、既存インフラがないほうが早く普及することがある」ということです。
国際的にみて、携帯電話の数が爆発的に伸びたのは東南アジアで、それは固定のインフラが十分でなかったために起きたと言えるでしょう。
10年9月にミャンマーを訪問した時に、電線が来ていないのにアンテナが立っている家がありました。つまり、テレビを蓄電池で見ているということです。その蓄電池は、近くのステーションまでバイクで持って行って蓄電しているとのことでした。
そのミャンマーの蓄電池会社の会長さんが、「新製品です」と見せてくれたのが、太陽電池付き蓄電池でした。その方は、非常に志の高い方で、ミャンマーの国を良くするために必要なのは人材であり、教育だと。
ところが、ミャンマーの子どもたちは、夜になると本も読めない。せめて夜の電灯ぐらいは供給できるように、安い蓄電池を開発したのだと言います。
この製品は、子どもたちが本を読むためというより、親がテレビを見るために買われるかもしれない。インターネットの爆発的な普及でも、エンターテインメント系が需要を喚起したということがあったので、それでも広がるといいと思います。
海外のサービスが輸入され電力システムを刷新する可能性
友人から聞いたアフリカの話では、携帯電話とバイクが必需品で、バイクは携帯電話を充電できるところまで持って行くために使うそうです。
彼らにすれば、分散型の電源があれば、バイクは必要なくなるのです。アフリカの真ん中に原発をつくり、送配電線を引いて電気を送るよりは、分散型の電源+蓄電池のほうが安いし、普及も飛躍的に進む可能性があります。そこに日本の技術や製品が組み込まれていけば素晴らしいと思います。
既に、日本の企業で、アフリカでエナジーキオスクという充電サービスを展開しているところがあるようです。
海外でこういったものが安くできて、それが日本に輸入され、既存の電力会社とは違うパラダイムの中で、分散型の電力システムが普及していくという可能性も考えられます。
やはりイノベーションは面白い。
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