マネジメント

日産自動車の社長、会長を務め、今年9月10日に93歳で亡くなった久米豊氏。「シルビア」や「シーマ」などのヒットを生み、元気ある日産をけん引した。聞き手は本誌主幹・佐藤正忠。(1989年2月28日号)

日産自動車社長久米豊が取り組んだ社員の意識改革

-- 昨年は日産が攻めた年でしたが、中でも「シーマ」が起爆剤になりました。なぜ、あそこまでウケたのでしょうか。

久米豊(くめ・ゆたか) 〈1921〜2014〉東京都出身。1944年、東京帝国大学第2工学部航空原動機学科卒業。海軍技術士官を経て、46年、日産自動車に入社。主に生産畑を歩み社長、会長を歴任。自動車工業会会長や経団連副会長なども務めた。

久米豊(くめ・ゆたか)
〈1921〜2014〉東京都出身。1944年、東京帝国大学第2工学部航空原動機学科卒業。海軍技術士官を経て、46年、日産自動車に入社。主に生産畑を歩み社長、会長を歴任。自動車工業会会長や経団連副会長なども務めた。

久米 私なりの考えを言いますと、普通、あのクラスの車は後部座席に「偉い人」が乗り、運転手が前と決まっていますね。シーマは、高級車でありながら自分で運転して楽しむ車なんですよ。その発想の転換が効を奏した。しかも(馬力があって)よく走るわけです。

-- さらにさかのぼると、日産のイメージとは違う「Be–1」も出していますね。

久米 あのヒットは、私もよく分かりかねるんですが(笑)、ノスタルジックなデザインが受けたのでしょう。それと、限定1万台生産という設定も、お客さんの購買意欲を掻き立てたのだと思います。

-- ここのところ魅力ある商品を市場に投入していますが、そのベースには、社員の意識改革があったと思います。具体的には、どのようにメスを入れていったのですか。

久米 結局、こうした大組織の中にいますと、お客さんより、社内の上下関係のほうが優先されてしまうことが多々あるんです。これを除去しようと。これは本当に徹底してやりました。逆に言えば、お客さん第一を前提に、自由奔放にやらせたことが活性化につながったのだと思います。

-- しかし、それを徹底させなければならないところに、日産の悲劇があったのでしょう。あまりにも殿さま商売すぎた。

久米 そうしたお叱りも、だいぶ頂きました。

-- 今の時代は若者の心をいかにつかむかが重要ですが。

久米 やはり若者に仕事をしてもらうことじゃないでしょうか。もちろん企業ですから、何かあった時の責任は私に全部あることは言うまでもありませんが。

-- なるほど。

久米 それと、うちでは「主管」というポストにいる者に、車の企画段階から、最後の値付けまで、つまりインプットからアウトプットまで、全部任せきっているんです。これが良かったと思います。バラバラにやるとどうしても寄せ集めで、一貫性に欠けてしまいますから。例えば、「スカイライン」という車。これはスポーティーでやや荒々しい車であり、それにはそれなりのCMの方法というものがありますし。

-- スカイラインといえば、かつてのプリンス自動車の主力車ですね。かなり時間はたちましたが、合併で良かったことは。

久米 プリンスにはプリンスの良さがあり、エンジンにはかなり特徴がありましたね。

-- 何と言っても、旧中島飛行機の流れをくみますからね。

久米 われわれの量産技術と、うまく融合できたと思いますよ。

日産自動車社長が考えるセールスの極意

-- 久米さんはいわゆる技術屋ですが、根底にあるものは。

久米 そう、やはり「人生哲学」だと思います。と、いうのは思想のない技術はダメなんですよ。

-- セールスの極意は何でしょう。

久米 いつもお客さんの立場で考えることでしょう。イトーヨーカドーの伊藤(雅俊)さんがハッとするようなことを言っています。いわく、「お客さまというのは商品を買ってはくださらないもの。取引先、ウチでいえばディーラーですが、これは売ってはくださらないもの。そして銀行はお金を貸してはくださらないもの」と(笑)。この3つを前提にして、いかにお客さんに商品を買っていただくか、を考えると言うんですね。非常に感心しました。やはりこれですよ。

-- いい話ですね。ところで、久米さんは高校、大学時代ボート部だったそうですね。ここで培われたものは。

久米 私にボートが与えた影響は非常に大きいんです。ボート競技にはスターがおらず、また、いてはいけないんです。一人だけ、オールを強く引いてはボートがまっすぐ進みませんし、タイミングと力がぴたりと合わないとダメです。

-- ボートと経営の共通点は。

久米 あります。ボートは見ていてあまり面白いものではありませんし、ましてや、やっている当人は苦しいだけです(笑)。しかし、よく見ると、相手と競り合っていれば横一線なわけですから息が抜けない。それから、少しでもリードすれば、今度は相手の背中をみながらボートをこぐわけで、落ち着いてできるんですね。それが逆に抜かれてしまうと、相手がどこまでリードしたのか分からないわけです。そうしますと焦燥感がでて、ますますオールが浮いてアゴが上がって悪循環に陥ります。ですから、負けかかった時こそ手元を見つめて、しっかりこがないといけない。

-- まさに経営と同じだ。

(構成/本誌・古賀寛明)

 

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