政治・経済

2014年はロボットの産業化・実用化に向けて一歩前進した1年だった。ロボットはSFの世界の夢物語だったが少しずつ現実に近づこうとしている。ソフトバンクがパーソナルロボット「Pepper」を発表した場で、孫正義社長は「25年間この日が来ることを夢見てきた」と語った。

企業各社は人に役立つロボット開発を進める

笑顔で「Pepper」を発表する孫正義ソフトバンク社長

笑顔で「Pepper」を発表する孫正義ソフトバンク社長

 昨今の日本の電機メーカーの低迷により、日本のエレクトロニクスの技術力が揺らいでいる感があるが、その一方で日本の技術力を生かす形で新事業を創出する動きがある。その1つがロボット事業だ。

 ロボットはSFでは兵器として描かれることが多いが、身近な存在としてのロボットは、基本的に人の役に立つものである。ロボットの実用化はある意味で人の夢であり、その夢が少しずつ現実に近づいている。

 ロボットは大別すると、アシストスーツなど人の作業を支援する補助器具的なものと、災害救助や保守点検用など自律で行動するものがある。2014年は双方ともに実用化や産業化の観点で大きな進展が見られた。

 支援型ロボットについては、アシストスーツの現場導入が始まっており、さまざまな実証を進めている。

 その中で一歩先を進むのが筑波大学発のベンチャーであるサイバーダインで、3月26日には東京証券取引所マザーズへの上場を果たした。医療・福祉用ロボットメーカーの株式上場は日本では初の事例。同社はロボットスーツ「HAL」を手掛ける。HALは、人が筋肉を動かすときに発する神経系の微弱な電流を感知し、それに基づきスーツを動かし人の腰部や脚部の動きを補助する。

 サイバーダインには大和ハウス工業が出資・販売サポートしており、上場式典には樋口武男・大和ハウス工業会長の姿もあった。樋口会長は、「世の中の多くの人々の役に立ち喜んでもらえるような商品」の1つとして、ロボットを挙げる。

樋口武男・大和ハウス工業会長

樋口武男・大和ハウス工業会長

 サイバーダインのサポートについて、樋口会長はサイバーダインCEOの山海嘉之氏と話をした時のことを次のように語る。「山海氏は『自分の研究を通じて世の中の多くの人々の役に立ちたいと思っている』と言いました。それならうちの相談役と同じ思想なので、大和ハウスがお手伝いしますと言いました」

 夢と夢が結び付いた形で、実用化への動きが加速している。HALは、11月に生活支援ロボットの国際安全規格「ISO 13482」認証を取得した。特に介護用での新しいデバイスの導入はさまざまな規制が厳しい。今回国際機関による安全認証を受けたことは、HALの安全性評価が高まり、普及に向けて大きく前進すると期待が高まっている。

ロボット産業は通信技術の進歩で発展

 自律型ロボットでは、かつてのソニーの愛玩型ロボット「AIBO」やNECのコミュニケーションロボット「PaPeRo」がある。ソフトバンクが6月5日に発表した感情認識パーソナルロボット「Pepper(ペッパー)」はそれらを大きく進化させたものと言ってよい。

 ソフトバンクは2010年に発表した「新30年ビジョン」で「知的ロボットとの共存」を掲げており、仏アルデバラン・ロボティクス社に出資し、共同でロボットの開発を進めてきた。孫正義社長は、Pepperを「世界で初めて感情を持ったロボット」と強調。Pepperは、周囲の状況を把握し自律的に判断する独自アルゴリズム、音声認識機能、人の表情や声のトーンで人の感情を推定する感情認識機能などを搭載し、人とのコミュニケーションに特化している。

 ソフトバンクはPepperを2月よりロボットとしては低価格の19万8千円で販売する。Pepperはネットワークに接続し、負荷の高い処理をクラウド上で行うことで、ロボット側での処理の負担を軽減している。自律回路の学習もクラウド上で行う。通信会社のソフトバンクならではのアプローチでクラウドを活用することで、ロボット単体の低スペック化および低価格化を実現する。

 NECのPaPeRoもPepper同様に、現在はクラウドを活用しているという。通信技術の進化により、パートナーとしてのロボットがより身近になろうとしている。

 (文=本誌/村田晋一郎)

関連記事

好評連載

深読み経済ニュース

一覧へ

[連載] 深読み経済ニュース解説

2015年の経済見通し

[連載] 深読み経済ニュース解説

再デフレ化に突入し始めた日本経済

[連載] 深読み経済ニュース解説

消費税率引き上げ見送りの評価と影響

[連載] 深読み経済ニュース解説

安倍政権が解散総選挙を急ぐ理由

実録! 関西の勇士たち

一覧へ

ワンマンシリーズ(7)稀有のバンカー、大和銀行・寺尾威夫〈1〉

[連載] 実録! 関西の勇士たち(第20回)

実録! 関西の勇士たち

[連載] 実録! 関西の勇士たち(第19回)

ワンマンシリーズ(6)三和の法皇・渡辺忠雄〈3〉

[連載] 実録! 関西の勇士たち(第18回)

ワンマンシリーズ(5) 三和の法皇・渡辺忠雄〈2〉

[連載] 実録! 関西の勇士たち(第17回)

ワンマンシリーズ(4) 三和銀行の法皇・渡辺忠雄〈1〉

[連載] 実録! 関西の勇士たち(第16回)

ワンマンシリーズ(3)住友銀行に残る堀田の魂魄

ビジネストレンド新着記事

注目企業

一覧へ

次世代の医療現場を支える病院経営の効率化を推進――保木潤一(ホギメディカル社長)

1964年にメッキンバッグを販売して以来、医療用不織布などの、医療現場の安全性を向上する製品の普及を担ってきた。国は医療費を抑える診断群分類別包括評価(DPC制度)の導入や、効率的な医療を行うため病院のさらなる機能分化を実施する方針を掲げており、病院経営も難しい時代に入っている。ホギメディカルは手術室の改善か…

刺激を浴びて徹底的に考え抜くことで自らを変革する―― 鎌田英治 グロービス 知命社中代表

ワンストップで手厚くサイトの売却をサポートするサイトマ――中島優太(エベレディア社長)

新社長登場

一覧へ

地域に根差した証券会社が迎えた創業100周年―藍澤卓弥(アイザワ証券社長)

中堅証券会社のアイザワ証券は今年7月、創業100周年を迎えた。この記念すべき年に父からバトンを受け継ぎ新社長となったのが、創業者のひ孫にあたる藍澤卓弥氏。地域密着を旗印に掲げてここまで成長してきたアイザワ証券だが、変化の激しい時代に、藍澤社長は何を引き継ぎ、何を変えていくのか。聞き手=関 慎夫 Photo:西…

メディカル事業を横串にすることでシナジーを発揮し、顧客満足度向上へ 伏見有貴(リゾートトラスト社長)

新事業の芽を伸ばすことでさらに大きな個性的な会社を目指す――日髙祥博(ヤマハ発動機社長)

イノベーターズ

一覧へ

元引きこもり青年が「cluster」で創造する新たなVRビジネスとエンターテインメント(加藤直人・クラスターCEO)

バーチャル空間で開催される会議や音楽ライブなどに、3Dアバターで参加できる画期的サービス「cluster」を生み出したのは、元引きこもりのオタク青年だった。エンタメの世界を大きく変える可能性を秘めたビジネスで注目を浴びる経営者、加藤直人氏の人物像と「cluster」の展望を探る。(取材・文=吉田浩)加藤直人・…

日本人の英語学習の課題解決に向け、学習者目線のアプリを開発―― 山口隼也(ポリグロッツ社長)

老舗コニャックメゾンがブランド強化で日本市場を深耕――Remy Cointreau Japan代表取締役 宮﨑俊治

大学の挑戦

一覧へ

専門分野に特化した“差別化戦略”で新設大学ながら知名度・ブランド力向上を実現――了徳寺大学・了徳寺健二理事長・学長

2000年設立で、了徳寺大学が母体のグループ法人。医療法人社団了徳寺会をグループ内に持つ。大学名の「了」は悟る、了解する、「徳」は精神の修養により、その身に得た優れた品性、人格を指す。「了徳寺」は人間としての品性、道を論す館の意味を込めた大学名だ。 聞き手=本誌/榎本正義 、写真/佐々木 伸教育部…

大学の挑戦

創立100周年、西南学院大学・K.J.シャフナー学長「世界に貢献しインパクトを与える人材を育てる」〜国際交流・就職支援・インターネット出願〜 

「“STAND BY YOU”のスローガンの下、学生一人ひとりに寄り添う教育を」――中央学院大学・佐藤英明学長

経済界からのお知らせ

最新号のご案内

経済界2019年1月号
[特集]
平成の事件簿

  • ・[イトマン事件]闇勢力に銀行が食い荒らされた戦後最大の経済事件
  • ・[ダイエー、産業再生機構入り]一代で栄枯盛衰を体現した日本の流通王・中内 功の信念
  • ・[ライブドアショック]一大社会現象を起こしたホリエモンの功罪
  • ・[日本航空経営破綻]親方日の丸航空会社の破綻と再生の物語

[Special Interview]

 高橋和夫(東京急行電鉄社長)

 「100周年に向けて、オンリーワン企業の強みを磨き続ける」

[NEWS REPORT]

◆かつてのライバル対決 明暗分けたパナとソニー

◆経営陣に強い危機感 富士通が異例の構造改革断行

◆売上高1兆円が見えた ミネベアミツミがユーシンを統合

◆前門の貿易戦争、後門の技術革新 好決算でも喜べない自動車各社

[特集2]経営に生かすAI

 「人工知能は『お弟子さん』
日常生活が作品になるということ」
落合陽一(筑波大学准教授)

ページ上部へ戻る