政治・経済

  アベノミクス成長戦略の重要項目の1つとして掲げられた女性活用。野村ホールディングスで財務統括責任者(CFO)を経て、現在は内部監査担当の執行役員を務める中川順子氏は、本誌のインタビューで女性登用の現状について尋ねた時、「企業にはもう1歩だけ踏み込んでもらいたい」と語った

活躍する女性の共通点は「意識しないこと」

中川順子(野村ホールディングス執行役員グループ・インターナル・オーディット担当)

中川順子(野村ホールディングス執行役員グループ・インターナル・オーディット担当)

 今年9月に発足した第2次安倍改造内閣では、4人の女性閣僚が起用された。その後、小渕優子経産相と松島みどり法相の辞任でミソがついたものの、政治が率先して、女性の活躍を後押しする姿勢を強調してみせた。少なくとも、女性の活躍が今後の日本経済にとって、重要な要素であるとの認識はアピールできたようだ。

 民間企業に向けては、2020年までに女性管理職の比率を30%以上に高める目標が提示された。ただ、女性従業員の母数自体が多くの企業で不足していることや、組織全体で人事評価制度や働き方を大幅に見直す必要があることなどから、目標達成は困難との指摘も多い。

 数はまだ少ないとはいえ、大企業の役員クラスにまで登りつめた女性もいる。これらの女性の話を聞くと、一様に自らが女性であることへの意識はほとんどない。言い方を変えれば、意識しないですむ環境に恵まれたことも、十分に実力を発揮できた要因なのだろう。

 では、中川氏が言う「もう1歩」とは何を指すのか。安倍政権が力を入れ始める以前から、日本でも大企業を中心に女性が働きやすい制度構築や環境づくりはかなり進んできた。

 しかし、実効性という点では、多くの女性たちが不満を漏らす。男性中心社会の慣習がなかなか抜けないことも理由の1つだが、もう1つの大きな理由が経験のなさ。仏作って魂入れず、特殊な職場でない限り、女性の部下を多数抱えた経験がある男性社員は少なく、実際のオペレーションの現場で制度をうまく活用できていないケースも多々見られる。従業員の意識レベルと行動レベルをいかに引き上げていくかが今後の課題だ。

女性の働きやすさはダイバーシティへの一歩

 内閣府の資料によると、日本の女性管理職比率は現状、わずか11・9%。既に30%を超えた米国、フランス、英国、ノルウェー、オーストラリアといった先進諸国と比べてもその差は大きい。中川氏は言う。

 「例えば、この仕事は女性には無理かなという場合でも、少し柔軟にいろんなことを考えてほしいと思いますし、働く側の意識も少し手を掛けることによって変わると思います」

 一方で、あまりにも手厚過ぎる政策や制度的後押しは、意味がないとの指摘もある。例えば、安倍内閣が打ち出した3年間の育児休暇制度。長期にわたって職場から離れることは、従業員本人と企業にとってマイナス面が大きいと、おおむね不評だ。

 重要なのは、過剰に保護することではなく、働く環境の自由度を高めるという視点だ。女性が活躍しやすい職場とは、ひいては外国人や身体障害者の人々が働きやすい職場、つまりダイバーシティ(多様性)が進んだ職場につながる。今、多くの企業でダイバーシティ促進が叫ばれているのは、多様性が競争力を高めるということに加え、生産性の向上にもつながることが徐々に理解されてきたからだ。

 女性の活躍度合いと、業績や企業価値との間には、相関関係があるとよく言われる。女性が活躍する銘柄に絞った金融商品も最近では登場している。「女性登用は人権問題ではなく企業戦略の問題」(内永ゆか子・J-Win理事長)という認識を持つことが必要だ。

 ただし、現実問題として、中小企業では女性支援の制度構築を行う余裕がないところも多い。大企業を中心に女性の管理職を増やす試みと同時に、幅広い職種で女性の力を生かす試みが求められる。技術系の会社や建設業界・不動産といった男性中心だった業界でも、女性活用の取り組みが始まっている。

 無理だと諦める前に、経営が日常的に「もう1歩の踏み込み」を意識できるかどうか。数年後に、その差は成長力の違いとして表れてくるかもしれない。

国を挙げて女性活躍推進の動きが活発化する(写真はダイバーシティに取り組む企業と団体による一般社団法人JDNの設立会見)

国を挙げて女性活躍推進の動きが活発化する(写真はダイバーシティに取り組む企業と団体による一般社団法人JDNの設立会見)

 (文=本誌編集長/吉田 浩)

 

雑誌「経済界」定期購読のご案内はこちら

経済界電子版トップへ戻る

関連記事

好評連載

深読み経済ニュース

一覧へ
一般社団法人かぎろい出版マーケティング代表 西浦孝次氏

[連載] 深読み経済ニュース解説

2015年の経済見通し

[連載] 深読み経済ニュース解説

再デフレ化に突入し始めた日本経済

[連載] 深読み経済ニュース解説

消費税率引き上げ見送りの評価と影響

[連載] 深読み経済ニュース解説

安倍政権が解散総選挙を急ぐ理由

実録! 関西の勇士たち

一覧へ

稀有のバンカー、大和銀行・寺尾威夫とは

[連載] 実録! 関西の勇士たち(第20回)

実録! 関西の勇士たち

[連載] 実録! 関西の勇士たち(第17回)

三和銀行の法皇・渡辺忠雄の人生

[連載] 実録! 関西の勇士たち(第14回)

住友の天皇・堀田庄三の人生

[連載] 実録! 関西の勇士たち(第11回)

商売の神様2人の友情 江崎利一と松下幸之助

[連載] 実録! 関西の勇士たち(第7回)

関西財界の歴史―関経連トップに君臨した芦原義重の長期政権

ビジネストレンド新着記事

注目企業

一覧へ

家族葬のファミーユが目指す「生活者目線で故人に寄り添う」葬儀の形

家族葬のファミーユは家族や親族など故人の近親者だけで施設を貸し切って行う「家族葬」のパイオニアだ。創業者・高見信光氏は異端児と言われながらも旧態依然とした業界を変えてきた。その思いに共感し、異業種のリクルートから転じて社長を引き継いだ中道康彰氏も業界の常識を打ち破るため奮闘している。文=榎本正義(『経済界』2…

不動産のノウハウや技術を生かしサステナブルインフラへ―いちご

次世代車向け先進技術を応用する日本発プラットフォーマー ―イーソル

新社長登場

一覧へ

「若者需要の開拓でビール市場を盛り上げていく」塩澤賢一(アサヒビール社長)

アサヒグループ食品の副社長から、この3月にアサヒビールの社長に就任した塩澤賢一氏。長年、ビール営業畑を歩み、マーケティングを兼ねた繁華街歩きを趣味にしている。街の変化から世の中の流れを読む塩澤新社長が挑むのは低迷するビール市場の活性化。若者需要を伸ばしつつ、スポーツイベントを商機として攻勢をかけていく。聞き手…

塩澤賢一(アサヒビール社長)

「事業部門の連携を活性化させ営業利益100億円を目指す」 内藤宏治(ウシオ電機社長 )

地域に根差した証券会社が迎えた創業100周年―藍澤卓弥(アイザワ証券社長)

イノベーターズ

一覧へ

シリコンバレーへの挑戦が生んだ「起業家と投資家が待ち望んだサービス」― 戸村光・ハックジャパンCEO

起業家のスタンスとして、画期的な技術やビジネスモデルを社会で活かすことを目的としたイノベーション先行型もあれば、社会課題解決を最優先とし、そこに必要な技術やノウハウを当てはめていくやり方もある。ハックジャパンCEOの戸村光氏の場合は後者。対象となる課題は「身の周りの気付いたことすべて」だ。(取材・文=吉田浩)…

戸村光・ハックジャパンCEO

「測量美術」が起こす道路工事のイノベーション―草木茂雄・エムアールサポート社長

IT化で変革する産業廃棄物処理の世界―福田隆(トライシクルCEO)

大学の挑戦

一覧へ

専門分野に特化した“差別化戦略”で新設大学ながら知名度・ブランド力向上を実現――了徳寺大学・了徳寺健二理事長・学長

2000年設立で、了徳寺大学が母体のグループ法人。医療法人社団了徳寺会をグループ内に持つ。大学名の「了」は悟る、了解する、「徳」は精神の修養により、その身に得た優れた品性、人格を指す。「了徳寺」は人間としての品性、道を論す館の意味を込めた大学名だ。 聞き手=本誌/榎本正義 、写真/佐々木 伸 …

大学の挑戦

創立100周年、西南学院大学・K.J.シャフナー学長「世界に貢献しインパクトを与える人材を育てる」〜国際交流・就職支援・インターネット出願〜 

「“STAND BY YOU”のスローガンの下、学生一人ひとりに寄り添う教育を」――中央学院大学・佐藤英明学長

経済界からのお知らせ

最新号のご案内

経済界2019年10月号
[特集] 進撃のスタートアップ
  • ・スタートアップ・エコシステムの活性化
  • ・[スパイバー]2万5千円のTシャツは完売 実用化が迫った人工クモの糸
  • ・[Rhelixa]エピゲノム関連の研究・開発で人類の役に立つ
  • ・[チャレナジー]台風発電でエジソンになる ビジネス展開は「島」から
  • ・[エイシング]エッジで動く超軽量AIでリアルタイムに予測制御
  • ・[キャディ]製造業に調達革命! 町工場は赤字から脱出へ
  • ・[Clear]目指すは日本酒産業のリーディングカンパニー
  • ・[空]「値付け」の悩みを解決するホテル業界待望のサービス
  • ・宇宙ビジネスに民間の力 地球観測衛星やロボット開発
  • ・71歳で環境スタートアップを立ち上げた「プロ経営者」
[Special Interview]

 荻田敏宏(ホテルオークラ社長)

 「The Okura Tokyo」をショーケースに海外展開を進めていく

[NEWS REPORT]

◆戴正呉会長兼社長を直撃! なぜ、シャープは復活できたのか?

◆アスクル創業社長を退陣させた筆頭株主・ヤフーの焦り

◆サービス開始から3カ月で撤退 セブンペイ事件の背景にあるもの

◆絶滅危惧種ウナギの危機 イオンが挑むトレーサビリティ

[特集2]

 富裕層は知っている

・富裕層の最大の使い道は商品ではなく次代への投資

・シンガポールからケイマン諸島まで 資産フライトはここまで進化した

・年間授業料100万円超は当たり前 教育投資はローリスクハイリターン

・最先端の人間ドックは究極のリスクマネジメント

・家事代行サービスで家族との時間を有効活用

ページ上部へ戻る