政治・経済

 安倍政権の重要課題である地方創生。課題は多いが地域の持つ可能性に期待する経営者も多い。インテリジェンスの高橋広敏社長もその一人、ヤフーやアサヒビールとともに、北海道の美瑛町で地域課題解決研修にも取り組んでいる。

【株式会社インテリジェンス社長高橋広敏氏】ー地方活性化には多くの問題が孕む。少子高齢化、市場の縮小に苦しむ日本

 安倍改造内閣の最重要課題に位置付けられた「地方創生」。きっかけは、元総務相の増田寛也氏のレポートだ。「2040年に、523の市町村が消滅する」といった近い将来に多くの自治体が機能不全に陥ってしまう予測は、官邸に危機感をもたらした。

 ひとくちに「地方創生」といっても、雇用の問題に加え、少子高齢化など多岐にわたる。現在、安倍首相を本部長とする「まち・ひと・しごと創生本部」を首相官邸に設置し、喫緊の課題として積極的に取り組む姿勢を見せる。

 ただ、大都市圏への一極集中が進む日本で地方を活性化する取り組みは、過去何度もトライしているが、結局は工場やコールセンターなどの企業誘致に走り、うまくいかなければ公共工事へのバラマキに変わっていった。中には、都市部へのアクセスの悪さが地域の発展を妨げるということで道路整備を進めたところ、逆に都市部への人口流失が加速したなど笑えない話も多い。

 大都市に人が集中する大きな理由のひとつに、地方には仕事が少ない、という問題がある。

 過去、日本経済を支えてきたのは製造業であり、同時に雇用も支えていた。ところが今、海外メーカーとの熾烈な戦いの中で、生産拠点も原料も全世界をフィールドに考えなければ生き残ってはいけない。つまり、地方の雇用の重要な担い手であった工場そのものが減っているということだ。

 さらに、かつての日本のようにどんどん人口も増えていき国内市場に期待がもてれば、まだ未来も拓けただろうが、残念ながら高齢化が世界最速で進み、人口減少下の日本では、消費地としての発展を望むことはできない。

【株式会社インテリジェンス社長高橋広敏氏】ー”地方に対し可能性”地方活性化は”海外”をターゲットに

 

 一方で、冒頭の高橋広敏・インテリジェンス社長の言葉のように、地方に対し可能性を見いだす人も少なくはない。その1つに、農業や漁業がある。例えば、高橋社長の故郷、大分県は、「関アジ」や「関サバ」、どんこやカボスなど、海産物も農産物も豊富に獲れる。かつては、東京や大阪などの大都市圏に供給していたのだが、いずれ市場が収縮していくと見越し、今では海外、特に上海や香港をターゲットに輸出を始めているという。

インテリジェンスの高橋広敏社長

インテリジェンスの高橋広敏社長

 実は、距離から考えてみても東京よりは上海のほうが近いという現実もある。また、日本の一次産品に対する評価も驚くほど高いため、多少高額であっても安全性や品質の問題から購入される。購入できるのは、ごく一部の富裕層に限られるというが、中国13億人に、東南アジアの6億人を加えた数字を考えれば、母数が多いために富裕層だけでも相当な数となり、ビジネスとしても十分に成立する。しかも、急速に中間層が増えてきているアジアは将来的にも大きな市場となっていくことは明白だ。

 過去、戦後の復興とともに、工業化が進んだことで、多くの人材が農業から製造業に流れ、地方はその人材の供給地となった。ところが、農業や漁業の生産現場は地方であるので、市場を海外へ求めれば、人材の移動にも逆転現象が起こると高橋社長は見ている。

 

 さらに、もうひとつ地方にとってアドバンテージとなる分野がある。それが観光だ。

 昨年、訪日外国人観光客が1千万人の大台を突破した。中には日本の魅力にはまり、何度も訪れるリピーターも多いという。初めての訪問では、東京や京都など知られた場所を訪れるが、2回目以降は、圧倒的に地方へ足を延ばすのだそうだ。例えば、冬場の北海道には、多くの外国人観光客が訪れる。海外のリゾートかと見まちがうニセコ町では、オーストラリア人が闊歩し、雪を求めて、台湾やタイ、マレーシアの人たちが近年では集まってくる。インターネットはもちろんSNSのお陰で、日本人が思う以上に、日本の魅力は海外へ伝わっている。地方創生のカギは、やはり海外の人々の力を借りるしかないだろう。

【株式会社インテリジェンス社長高橋広敏氏】ー地方活性化の視点を変えた沖縄のアドバンテージ

那覇港に停泊するクルーズ船「アクエリアス号」

那覇港に停泊するクルーズ船「アクエリアス号」

 その農業、観光面で取り組む地域がある。日本の南端、沖縄県だ。

 沖縄県の経済といえば、いまだに公共工事と米軍基地、そして観光産業に頼ったイメージが強かったが、今、国際物流の拠点として、注目されている。

 那覇空港を拠点に5年目を迎えた国際航空物流ハブは、2009年に全日本空輸(ANA)が国内3カ所、海外5カ所を結んで始めた。現在では、国内4カ所、海外8カ所を結び、週120便の貨物専用機を飛ばす。12年からは、ヤマト運輸が国際宅急便事業での利用を開始、昨年から、香港への国際クール宅急便も行っている。

 そもそも、なぜ沖縄県に拠点を設けたかといえば、市場を考えてみると納得できる。先ほども述べたとおり、日本経済は東アジアの活発な経済、巨大な市場を取り込まなければならない。

 沖縄は日本の西南端であると同時に最も有望な市場に近い位置にあるのだ。つまり、アジアから見れば日本の玄関といえる。実際に、那覇空港からは東京よりも香港のほうが近く、タイのバンコクやベトナムのハノイなどアジアの主要都市の多くを4時間圏内で結ぶことができる。

 国や県としても国際物流拠点産業集積地域として、法人税など税制上の優遇や補助金などを整備、貨物の積み替えも深夜に行われるため、通関も24時間行えるようにするなど積極的にバックアップする。

 アジア各地へ国際宅急便のサービスが誕生したことで、日本の農産物、海産物もアジアへ迅速に運ばれることとなった。その背景には、楽天やヤフー香港など、オンラインショッピングがポピュラーになったことが大きい。中国や台湾など、中華圏の正月に当たる春節祭には、毛ガニや越前ガニなどが、大量に運ばれるのだそうだ。地元・沖縄の誇る「あぐー豚」も香港で人気が高い。沖縄県食肉輸出促進協議会の與儀善榮会長によれば、今後は香港だけでなく、「ベトナムと日本も畜産物の2国間協定を締結したので期待している」と、さらなる拡大を目指している。

 沖縄県も日本全国の特産品などの海外販路拡大を目的に、11月末に「沖縄大交易会」を行う。国内から194社のサプライヤーが、バイヤーも世界各地から137社集まるなど、年々参加企業や自治体を増やし、沖縄がアジアの交易の中心といったイメージを作り出す。

 農水省は、日本の農水産物を20年までに1兆円にまで拡大していく目標を掲げている。大都会では生産できない農水産物を、辺境の地であった沖縄を経由して世界へ送り出す。地方でしかできないもので地方を活性化する地方創生の新たなモデルとなるはずだ。

 

【株式会社インテリジェンス社長高橋広敏氏】ー地方活性化の鍵は”海外”、”外国人観光客”

 雇用に関しても物流拠点ができたこと、ものや人の動きが活発化したことで増えてきている。

国際航空物流だけでなく人材面の強化も強調する岡田晃・ANA Cargo社長

国際航空物流だけでなく人材面の強化も強調する岡田晃・ANA Cargo社長

 貨物ハブをゼロからスタートしたANACargoの岡田晃社長も「当初のスタッフ300人のうち、県内の人材を150人採用した。5年経過した今では、地元採用の彼らがノウハウを持って、新規路線開設時に主力として活躍してくれている」と、人材面での貢献、成果を強調する。人材が育たず、企業や国に頼っていただけでは地域の継続的な発展には結び付かない。今後も人材の育成がカギになるのは間違いない。

 また、航空貨物だけでなく海運業界も新たな動きを見せる。琉球海運は、今年6月から台湾航路を設けた。博多、鹿児島から那覇や石垣などを経由し最終的には台湾の高雄を結ぶ。ガントリークレーンという大型クレーンを必要とせず、貨物の積み出しの簡便なRORO船を使用する。高雄港の貨物取扱量は、東京の2倍強あり、世界でも有数の規模を誇るため、世界中に送り出すことが可能になるのだ。

 もうひとつの地方創生のカギとなる観光産業も見通しは明るい。今年4月には、那覇港のクルーズターミナルの供用を開始。「アクエリアス」というクルーズ船が7月から10月の間、高雄→那覇→基隆の間を定期船として就航し、毎週2千人ほどの外国人観光客を運んでくる。沖縄県を訪れる外国人観光客の80%が台湾、中国、香港、韓国の近隣の国からであり、ほぼ半数が海路で訪れる。

 今後も港が拡張されることも決まっており、今まで貨物ターミナルにまわされていた13万トン級のアジア最大級のクルーズ船が停泊できるようになれば、さらなる伸びが期待される。

 お目当ては沖縄の青い海ではなく、意外にも買い物だそうで、10月からの免税品拡大は追い風になった。外国人に人気の高い「ドン・キホーテ」も沖縄県内に3店舗あり、大きな荷物を抱えた外国人観光客も多い。港から、市街地まで歩いて15分程度という近さもあり、リピーターの外国人にとっては、気軽なショッピングという感覚だそうだ。

 「地方創生」は、人口が減少し市場が縮小する日本だけで解決しようと思っても難しい。移民を受け入れる案もあるが日本の長い歴史の中で考えればとてもうまくいくとは思えない。であれば、交流を活発化することを目標とすべきだ。

 日本の未来はこれまでの延長線上にはない。むしろ、日本が失くしてきたものに価値があるのではないだろうか。

 地方創生は、決して簡単ではないだろうが、「地域には大きなポテンシャルがある」のは間違いないようだ。

 (文=本誌/古賀寛明)

 

雑誌「経済界」定期購読のご案内はこちら

経済界電子版トップへ戻る

関連記事

好評連載

深読み経済ニュース

一覧へ
一般社団法人かぎろい出版マーケティング代表 西浦孝次氏

[連載] 深読み経済ニュース解説

2015年の経済見通し

[連載] 深読み経済ニュース解説

再デフレ化に突入し始めた日本経済

[連載] 深読み経済ニュース解説

消費税率引き上げ見送りの評価と影響

[連載] 深読み経済ニュース解説

安倍政権が解散総選挙を急ぐ理由

実録! 関西の勇士たち

一覧へ

稀有のバンカー、大和銀行・寺尾威夫とは

[連載] 実録! 関西の勇士たち(第20回)

実録! 関西の勇士たち

[連載] 実録! 関西の勇士たち(第17回)

三和銀行の法皇・渡辺忠雄の人生

[連載] 実録! 関西の勇士たち(第14回)

住友の天皇・堀田庄三の人生

[連載] 実録! 関西の勇士たち(第11回)

商売の神様2人の友情 江崎利一と松下幸之助

[連載] 実録! 関西の勇士たち(第7回)

関西財界の歴史―関経連トップに君臨した芦原義重の長期政権

ビジネストレンド新着記事

注目企業

一覧へ

売上実績トップ企業に聞く「住宅リフォームの最新トレンドと課題」―榎戸欽治・ニッカホーム会長

素人にはなかなか分かりにくい住宅リフォームの世界。最近の業界動向と事業戦略について、売り上げ規模で全国ナンバーワンを誇るニッカホーム創業者の榎戸欽治会長に聞いた。(聞き手=吉田浩)榎戸欽治氏プロフィールリフォーム業界におけるニッカホームの競争力水廻りと木工事を絡めた中型リフ…

榎戸欽治・ニッカホーム会長

家族葬のファミーユが目指す「生活者目線で故人に寄り添う」葬儀の形

不動産のノウハウや技術を生かしサステナブルインフラへ―いちご

新社長登場

一覧へ

カリスマ創業者の後任として描く「新しいマネックス証券像」― マネックス証券社長 清明祐子

2019年4月、国内インターネット専業証券で初の女性社長が誕生した。創業者であり、カリスマ社長と呼ばれた松本大前社長から後任を託されたのが清明祐子氏。清明氏は09年にマネックスグループに入社し、子会社社長やグループ役員を経て、マネックス証券の社長に就任した。清明社長はカリスマの後任としてどんな会社をつくってい…

マネックス証券社長 清明祐子

「若者需要の開拓でビール市場を盛り上げていく」塩澤賢一(アサヒビール社長)

「事業部門の連携を活性化させ営業利益100億円を目指す」 内藤宏治(ウシオ電機社長 )

イノベーターズ

一覧へ

シリコンバレーへの挑戦が生んだ「起業家と投資家が待ち望んだサービス」― 戸村光・ハックジャパンCEO

起業家のスタンスとして、画期的な技術やビジネスモデルを社会で活かすことを目的としたイノベーション先行型もあれば、社会課題解決を最優先とし、そこに必要な技術やノウハウを当てはめていくやり方もある。ハックジャパンCEOの戸村光氏の場合は後者。対象となる課題は「身の周りの気付いたことすべて」だ。(取材・文=吉田浩)…

戸村光・ハックジャパンCEO

「測量美術」が起こす道路工事のイノベーション―草木茂雄・エムアールサポート社長

IT化で変革する産業廃棄物処理の世界―福田隆(トライシクルCEO)

大学の挑戦

一覧へ

専門分野に特化した“差別化戦略”で新設大学ながら知名度・ブランド力向上を実現――了徳寺大学・了徳寺健二理事長・学長

2000年設立で、了徳寺大学が母体のグループ法人。医療法人社団了徳寺会をグループ内に持つ。大学名の「了」は悟る、了解する、「徳」は精神の修養により、その身に得た優れた品性、人格を指す。「了徳寺」は人間としての品性、道を論す館の意味を込めた大学名だ。 聞き手=本誌/榎本正義 、写真/佐々木 伸 …

大学の挑戦

創立100周年、西南学院大学・K.J.シャフナー学長「世界に貢献しインパクトを与える人材を育てる」〜国際交流・就職支援・インターネット出願〜 

「“STAND BY YOU”のスローガンの下、学生一人ひとりに寄り添う教育を」――中央学院大学・佐藤英明学長

経済界からのお知らせ

最新号のご案内

経済界2019年11月号
[特集] AIが知りたい!
  • ・IT未開の地に挑戦 産業構造をAIが変える!
  • ・AIは物理世界がまだ苦手 汎用ロボットの作り方
  • ・データ分析の起点は「何があれば経営に役立つか」
  • ・AI活用事例
  • ・ワトソン君は業務システムと連携する
  • ・米国で加熱する人工知能ブーム AIは21世紀最大のゲームチェンジャーか
[Special Interview]

 小川啓之(コマツ社長)

 「“経験知”に勝るものはない」コマツ新社長が語る未来

[NEWS REPORT]

◆SBIが島根銀行への出資の先に見据える「第4メガバンク構想」

◆家電同士がデータを共有 クックパッドが描くキッチンの未来

◆新薬の薬価がたった60万円! 日の丸創薬ベンチャーは意気消沈

◆1で久々の優勝を果たすもホンダの4輪部門は五里霧中

[総力特集]

 人材育成企業21

 SBIホールディングス/サイボウズ/メルカリ/ティーケーピー/シニアライフクリエイト/イセ食品/センチュリオン/タカミヤ/中央建設/アドバンテック/合格の天使/明泉学園/オカフーズ

ページ上部へ戻る