政治・経済

グローバル人材教育を全員に行う必要はあるのか

 ある会議に出席した時のことですが、グローバル人材教育が必要だということを声高に主張する外資系企業の社長がいました。

 いわく、英語の教育が低学年から必要で、国際的な視野を持つためのカリキュラムを充実させるべきだと。グローバル人材教育が日本人のすべての若者に必要だという主張でした。実際に教育に関するさまざまな議論を見ると、必ずグローバルという言葉が出てきます。

 これに対して、2つの問い掛けをしたいと思っています。1つは、グローバル人材は全体の何割ほど必要なのか。もう1つはグローバル人材とはどういう人を指しているのか。

 まずグローバル人材は何割くらい必要なのかを考えてみます。GDPで見た時の日本の輸出の比率は17~20%くらいで、残りの80%は内需です。

 産業構成比で見ても7割近くが第3次産業、サービス業になっています。サービス業で海外にサービスを売っている仕事もありますが、サービス業の多くは国内向けでしょう。

 そうなると、恐らく大多数の人がグローバルをそれほど意識しなくても、極端な話、英語が得意でなくても、十分に仕事ができる環境にあるのではないでしょうか。

 一方で、米国を見ると、米国は恐らく世界第1位のグローバル国家であると思いますが、ある統計によると、米国人の3分の2は国外に出たことがなく、3分の1が州の外にもあまり出たことがないといいます。それでも立派なグローバル国家に位置付けられています。

 海外で仕事をして外貨を稼いだり、海外に米国企業の先兵として飛び込み市場を開拓しているような人は、恐らく1割もいないと思います。そう考えると、日本はだいたい1学年100万人くらい子ども、学生がいるわけですが、その10分の1、トップ10%に徹底したグローバル教育をすれば、グローバル国家になれるのではないでしょうか。

 やみくもに全員にグローバル教育を詰め込む必要はないかもしれません。ですからグローバル人材の適正規模をきちんと把握し議論しないと、成果を上げられないのではないかという不安があります。

グローバル教育とは何か? グローバル人材の条件とは何か?

 次にグローバル教育とはいったい何かという話ですが、グローバル教育と言うと、とかく英語の能力に的が絞られがちです。確かに英語は重要です。しかし英語ができるだけではグローバル人材にはなれません。

 では、グローバル人材とは何かと言うと、1つは自分の意見をしっかり持っている人のことだと思います。いろんな社会で起こることに対して自分の意見を持って、それをきちんと表明できることがまず大事です。その意見に洞察力や説得力があれば、他の国の人は話を聞いてくれます。ですから自分の考えや意見をしっかり持っているかがまず問われます。

 2番目に問われるのが、多様性に対する理解です。相手が自分と同じ境遇で育ってきていないことを前提にしないとグローバルな取引はできません。そういう意味では、多様性を理解し、多様性に向き合う寛容な心、多様性への慣れがないと、グローバルな人材とは言えないと思います。

 そして最後にそれを伝える手段として語学があります。しかし英語はやる気があれば話せるようになると思うので、1番目の深い洞察に基づいた説得力のある意見を持つことと、2番目の多様性を理解し受け入れた上で人とコミュニケーションを取ること、この1番目と2番目のほうがむしろ重要なのではないでしょうか。

 語学教育は最後のツールの話であり、この1番目と2番目の教育を日本の教育機関はきちんとできているかを問うべきだと思います。

 例えば、自分の考えをしっかり持つことは、ペーパーテストで良い点を取ることとは別の話です。それから多様性を理解することは、違う意見を戦わせることに意味があり、先生の意見が一番正しくて、その意見を理解して答案に書くこととは程遠い話です。

 議論が喧嘩になるのは日本人だけです。日本人は意見が違うと、人格を否定し、プライベートの人間関係が崩れるケースがよくあります。

 これは多様性が受け入れられない最悪のケースです。ディベートや、違う意見も怒らずに論理的に議論することは、訓練すればできるようになると思いますが、どれだけの高校がそういう授業のカリキュラムを持っているかは疑問です。

 ですから、グローバル人材ということで今、問われているのは、どれくらいの人数に対してどういう教育をすればグローバル人材供給国家になれるかを真剣に議論することです。

 いたずらに英語を義務化するような短絡的な話ではないと思います。

 

夏野剛氏の記事はこちら

雑誌「経済界」定期購読のご案内はこちら

経済界電子版トップへ戻る

関連記事

好評連載

深読み経済ニュース

一覧へ
一般社団法人かぎろい出版マーケティング代表 西浦孝次氏

[連載] 深読み経済ニュース解説

2015年の経済見通し

[連載] 深読み経済ニュース解説

再デフレ化に突入し始めた日本経済

[連載] 深読み経済ニュース解説

消費税率引き上げ見送りの評価と影響

[連載] 深読み経済ニュース解説

安倍政権が解散総選挙を急ぐ理由

実録! 関西の勇士たち

一覧へ

稀有のバンカー、大和銀行・寺尾威夫とは

[連載] 実録! 関西の勇士たち(第20回)

実録! 関西の勇士たち

[連載] 実録! 関西の勇士たち(第17回)

三和銀行の法皇・渡辺忠雄の人生

[連載] 実録! 関西の勇士たち(第14回)

住友の天皇・堀田庄三の人生

[連載] 実録! 関西の勇士たち(第11回)

商売の神様2人の友情 江崎利一と松下幸之助

[連載] 実録! 関西の勇士たち(第7回)

関西財界の歴史―関経連トップに君臨した芦原義重の長期政権

ビジネストレンド新着記事

注目企業

一覧へ

売上実績トップ企業に聞く「住宅リフォームの最新トレンドと課題」―榎戸欽治・ニッカホーム会長

素人にはなかなか分かりにくい住宅リフォームの世界。最近の業界動向と事業戦略について、売り上げ規模で全国ナンバーワンを誇るニッカホーム創業者の榎戸欽治会長に聞いた。(聞き手=吉田浩)榎戸欽治氏プロフィールリフォーム業界におけるニッカホームの競争力水廻りと木工事を絡めた中型リフ…

榎戸欽治・ニッカホーム会長

家族葬のファミーユが目指す「生活者目線で故人に寄り添う」葬儀の形

不動産のノウハウや技術を生かしサステナブルインフラへ―いちご

新社長登場

一覧へ

カリスマ創業者の後任として描く「新しいマネックス証券像」― マネックス証券社長 清明祐子

2019年4月、国内インターネット専業証券で初の女性社長が誕生した。創業者であり、カリスマ社長と呼ばれた松本大前社長から後任を託されたのが清明祐子氏。清明氏は09年にマネックスグループに入社し、子会社社長やグループ役員を経て、マネックス証券の社長に就任した。清明社長はカリスマの後任としてどんな会社をつくってい…

マネックス証券社長 清明祐子

「若者需要の開拓でビール市場を盛り上げていく」塩澤賢一(アサヒビール社長)

「事業部門の連携を活性化させ営業利益100億円を目指す」 内藤宏治(ウシオ電機社長 )

イノベーターズ

一覧へ

シリコンバレーへの挑戦が生んだ「起業家と投資家が待ち望んだサービス」― 戸村光・ハックジャパンCEO

起業家のスタンスとして、画期的な技術やビジネスモデルを社会で活かすことを目的としたイノベーション先行型もあれば、社会課題解決を最優先とし、そこに必要な技術やノウハウを当てはめていくやり方もある。ハックジャパンCEOの戸村光氏の場合は後者。対象となる課題は「身の周りの気付いたことすべて」だ。(取材・文=吉田浩)…

戸村光・ハックジャパンCEO

「測量美術」が起こす道路工事のイノベーション―草木茂雄・エムアールサポート社長

IT化で変革する産業廃棄物処理の世界―福田隆(トライシクルCEO)

大学の挑戦

一覧へ

専門分野に特化した“差別化戦略”で新設大学ながら知名度・ブランド力向上を実現――了徳寺大学・了徳寺健二理事長・学長

2000年設立で、了徳寺大学が母体のグループ法人。医療法人社団了徳寺会をグループ内に持つ。大学名の「了」は悟る、了解する、「徳」は精神の修養により、その身に得た優れた品性、人格を指す。「了徳寺」は人間としての品性、道を論す館の意味を込めた大学名だ。 聞き手=本誌/榎本正義 、写真/佐々木 伸 …

大学の挑戦

創立100周年、西南学院大学・K.J.シャフナー学長「世界に貢献しインパクトを与える人材を育てる」〜国際交流・就職支援・インターネット出願〜 

「“STAND BY YOU”のスローガンの下、学生一人ひとりに寄り添う教育を」――中央学院大学・佐藤英明学長

経済界からのお知らせ

最新号のご案内

経済界2019年12月号
[特集] 沸騰する食ビジネス!!
  • ・食ビジネスが熱い!! 未来型食品が社会課題を解決する
  • ・市場規模70兆円! 食ビジネスが過熱するわけ
  • ・完全バランス栄養食で誰もがラクして健康になれる
  • ・人工光型植物工場で世界の食と農に新しい常識を
  • ・宇宙食ビジネスで勝ちに行く 10年後に5千億円市場創出へ
  • ・“大人の給食”で栄養の基盤をつくる
  • ・人工肉で糖質制限者に無制限のおいしさを
  • ・テクノロジーで高品質なジビエ調達が可能に
  • ・昆虫食ビジネスの時代到来
[Special Interview]

 伊藤秀二(カルビー社長)

 掘り出そうカルビーの未来

[NEWS REPORT]

◆エンジニアへの高額給与で 富士通は生まれ変われるか

◆豊田章男・自工会会長が挑む東京モーターショー100万人

◆消費増税で現金主義は終焉 キャッシュレス時代が到来した

◆加速するeスポーツ市場! インテルが東京で世界大会を開催

[総力特集]

経済界創刊55周年記念 新しい日本のかたち

東京1964からの55年と東京2020以降の日本の姿

ページ上部へ戻る