
(もとえ・たいちろう)
1998年慶応義塾大学法学部法律学科卒業。01年弁護士登録(第二東京弁護士会)、アンダーソン・毛利法律事務所(現アンダーソン・毛利・友常法律事務所)勤務を経て、05年法律事務所オーセンスを開設。同年、法律相談ポータルサイト弁護士ドットコムを開設。代表取締役社長兼CEOを務める。
電話会議での取締役会はセーフ?
取締役会は、企業経営の舵を取る意思決定機関ですが、最近では、社外の著名実業家を取締役に迎えるケースも増えており、すべての取締役が一堂に会し、話し合う場を持つことがますます難しくなっているようです。そこで今回は、遠隔地にいる取締役が取締役会に出席する際の留意点を、法的な観点から解説します。
旧来、取締役会を催すこと自体の意義が重視され、開催の方法もかなり厳格に解釈されていました。しかし、テレビや電話、さらにはインターネットを通じた双方向コミュニケーションの手段が発達したのに伴い、最近では、開催方法に関する規制が緩和され、現行会社法の下では遠隔地からの出席も一応認められるようになっています。
ただし、現行の会社法の下でも、出席方法に関する具体的で明文化された取り決めはありません。定められているのは、「取締役会の開催場所に存在しない取締役等が取締役会に出席した場合における出席の方法を議事録に記載する」というルールにすぎないのです。
そのためか、筆者も、「テレビ会議や電話会議であれば許されると聞いたことがあるけれど、本当ですか」という質問を受けることがあります。
確かに、電話会議の方法について、「一定の場合には許される」とした法務省の通知があるので、「電話会議はセーフ」と考えるのは誤りとまでは言い切れません。ですが、すべてにおいてテレビ会議や電話会議が許されるという発想は少々危険と言えるのです。
取締役会に不可欠な要素とコミュニケーション・ツール
先例を参考に取締役会の開催方法を考察すると、重要視されているのは、やはり「取締役会の意義」であるようです。それを示す好例が、福岡地裁の判示で、内容は次のようなものです。
「……遠隔地にいる取締役が電話会議方式によって取締役会に適法に出席したといえるためには、少なくとも遠隔地取締役を含む各取締役の発言が即時に他のすべての取締役に伝わるような即時性と双方向性の確保された電話会議システムを用いることによって、遠隔地取締役を含む各取締役が一堂に会するのと同等に自由に協議ないし意見交換できる状態になっていることを要する……」
この事件は、A取締役が遠隔地から携帯電話で取締役会に出席したところ、会議室の固定電話にスピーカー機能がなかったことから、A取締役は誰が何を話しているかを聴き取れず、会議室の各取締役もA取締役が何を話しているのか聴き取ることができなかったというものです。
取締役会では、4つの議題について協議が行われましたが、A取締役は、そのうち2つについて、議題が上程されたことすら認識できないという有様でした。結果、A取締役は取締役会に出席したとは認められませんでした。
この事件に対して、福岡地裁が示した「①即時性」と「②双方向性」という要素こそ、意見交換を通じて会社の方針を決定する取締役会に不可欠なものと言えるでしょう。そして、これらの要素のレベルは、「全取締役が一堂に会するのと同等」であることが必須ということです。
ですから、一般には「許される」と言われている電話会議・テレビ会議についても、論者の中にはそれを認めないという方もおられるのです。
取締役会の開催方法を考察する意義
いずれにせよ、取締役会の開催方法を考察することはリスク軽減につながります。取締役会に出席できない取締役がいると、場合によっては取締役会決議が無効になるおそれがあります。実際、先の福岡地裁の事件でも、取締役会決議の有効性が大きな争点となっていました。
会社の方針を定める取締役会決議が無効になるのは、会社にとって大きなリスクです。また、たとえ無効にならなくとも、多大な手間と費用が掛かる法的紛争の火種になる可能性があります。
読者諸氏の中には、「取締役会がどのようなかたちで開催されたかといった内部情報が明るみに出る可能性は低いのではないか」と思う方がおられるでしょう。確かに、露見のリスクは高いとは言えませんが、社外の著名人を取締役に迎えている企業などでは取締役会自体が株主から注目されています。
そのため、株主総会で、「遠方の役員はどのように取締役会に出席しているのか」といった質問が投じられる場面が実際に散見されているのです。
一方で、新たなコミュニケーション・ツールを使った取締役会の適法で斬新な開催方法が確立できれば、経営の意思決定がより迅速になり、ビジネス上の大きなメリットにつながる可能性もあります。
その意味でも、時流をとらえた取締役会の開催方法の考察は大切なのです。
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