文化・ライフ

精神疾患の社会的影響―うつ病の経済的損失は、1兆7千億円!?

 近年、米国や日本などの先進諸国では自殺者の増加が社会全体の大きな問題となっている。また、うつ病などの精神疾患も増加傾向にあり、うつ病が進行して自殺に至るケースも多い。

 厚生労働省が国立社会保障・人口問題研究所に依頼して行った調査によれば、もし、自殺とうつ病がなくなった場合、GDP(国民総生産)引き上げ効果は、約1兆7千億円(2010年)にものぼると推計されている。

 これから何が起こるか分からない、どんなリスクがあるか分からないといった、いわゆる「不確実性」に対する国民の許容度が低い国は、新規産業が育ちにくい、経済危機時に投資が落ち込むといった報告があるが、日本はどちらかと言えば、「不確実性」に対する国民の許容度が低い国のひとつだと言われている。

 よく言えば「リスクに対する警戒心が強い」とも言えるだろう。しかし、厳しい自然環境の中で常にトラやライオンなどといった猛獣から身を守らなければならなかった大昔や戦争中ならいざしらず、現代を生きる私たちにとっては、むしろ、警戒心や不安といった精神的ストレスこそが大きな敵になる。

 ままならない社会や人間関係の中でも、不安や不満といったネガティブな感情にとらわれ過ぎず、「何とかなるさ」というくらいのポジティブな気持ちでいたほうが、脳や身体もリラックスするし、良いアイデアも浮かびやすい。リスクを恐れず新しいことにチャレンジすることだってできる。

 また、近年の研究で幸せな人は自殺する人が少ない、事故に遭いにくい、血圧が高くなりにくい、血糖値が安定しているといった研究報告が続々と報告され、11年には、ついに科学誌「Science」で「Happy People Live Longer(幸せな人は長生きする)」という総説が掲載された。今や「健康だから、ごきげんになる」というだけでなく、「ごきげんだから、健康になる」ということが科学的に認められている。

 ストレスの多い現代では、睡眠障害や摂食障害をはじめ、うつ病や統合失調症などの精神疾患は決して他人事ではない。しかし、それらをどう予防・改善してごきげんに健康に生きるか、ということが、社会全体の健康と幸せにつながるのだ。

ヨガで精神疾患が改善と証明―不安やストレスに負けず、ごきげんに生きよう!

 そんな中、今年になって、非常に画期的な論文が発表された。

 近年、精神疾患の治療薬も非常に進歩し、薬物療法で改善できる割合も非常に高くなっている。また、薬物療法と認知行動療法の併用によって再発率が有意に低くなることも分かっている。瞑想やヨガなどの代替療法を採用する臨床の現場もあるが、科学的根拠は示されていなかった。

 ところが、米国デューク大学がヨガがうつ病や統合失調症などの精神疾患の改善に効果的であることを示す論文を発表したのだ。

 このニュースを聞いて、僕が最初に思い出したのは、ウイスコンシン大学のリチャード・デビッドソン博士のある研究だった。デビッドソン博士は、幸せは漠然とした感情ではなく、自分自身の努力によってコントロールできる感情であることを、MRI(磁気共鳴画像装置)を用いて脳の働きを見るさまざまな研究で証明してきたが、中でも有名なのが、チベットの高僧の脳の研究だ。

 例えば、「今から30秒後にあなたの頭を叩きます」と言われたら、ほとんどの人は、実際に叩かれる前からドキドキする。MRIで脳を見てみると、不安・心配・恐れといった感情を感じたときに反応する部分が活発化する。ところが、高僧の場合、実際に叩かれるまで反応しない。つまり、不安や恐れといった感情に支配されず、平常心が保たれていたのだ。

 もちろん、誰でも修行を積めば高僧になれるというわけではないだろう。だが、瞑想と表裏一体のトレーニングであるヨガには、ネガティブな気持ちをコントロールしてリラックスしたり、平常心を保つ効果があるとされてきた。

 世界には、心身の健康に良いといわれる代替療法が無数にあるが、その科学的検証が待ち望まれていただけに、ヨガが、精神疾患の改善に効果があると証明されたことは非常に素晴らしい。今後、うつ病や自殺の予防にも大いに貢献していくのではないだろうか。

 ストレスの多い日々でお疲れ気味の方は、ぜひ心のケアにも注目しよう!

★今月のテイクホームメッセージ★

 心を元気にして、社会全体も元気にしよう!

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