政治・経済

須坂の農小、授業は年18回 運営は「農家先生」が主導

「農業小学校」(略称、農小)と呼ぶ耳慣れない名前の私塾が、中部地方でしっかりと根を下ろしている。土に親しむ機会の少ない子どもたちに農体験の場を提供し、農を通じて生きる知恵や豊かな心を養おうというのが活動の狙いだ。活動歴20年の「椛の湖農業小学校」(岐阜県中津川市)は既に1500人もの卒業生を世に送り出している。長野県須坂市や松本市の農小も10年前後の歴史を重ね、地域交流の核に育ってきた。

 上信越自動車道の須坂長野東ICから車で20分、須坂市郊外の自然豊かな豊丘地区が「信州すざか農業小学校豊丘校」の活動舞台である。4月13日に開幕した2013年度の授業は月2回のペースで進み、訪れた8月3日は7回目。この日の授業はトウモロコシ、ジャガイモの収穫とソバの種まきだった。

 13年度の児童数は全部で51人。市内の小学生が中心だ。この日はほぼ全員が保護者と一緒に、集合場所の「そのさとホール」に勢ぞろいした。まずは授業の事前説明だが、絵入りのポスターやQ&A方式を活用するなど工夫を凝らし分かりやすい。

「トウモロコシには毛がいっぱいあるね。これは全部、めしべだよ」とか、「早生のトウモロコシは80日でもう、収穫だよ」とか、「ジャガイモは世界で2千種類もあるんだって」などと説明を受けるたびに、児童の間から驚きの声が上がる。

 この後、児童らは5班に分かれて近くの畑に移動し、トウモロコシとジャガイモの収穫に精を出した。最初は手間取っていた児童が巧みにスコップを操り出し、ジャガイモをどんどん掘り出して行く。「春植えた苗からこんなに多く掘れるなんて」と、あちこちで笑顔が広がる。

 すざか農小の授業は年間で18回。農作業が主体だが、地域の伝統行事に参加したりソバ打ち体験やモノづくりなどに挑戦したりと活動は幅広い。管理主体は同市教育委員会だが、運営は「農家先生」(20人)と呼ばれる地域のボランティア農家が主導している。これを須坂園芸高校と信州大学教育学部の学生が協力している。

「命の大切さが学べる」 椛の湖農小の授業は年9回

 須坂市が農小を開校したのが05年度。小学生を対象に募集しており、定員は原則55人だ。授業料は年3千円で、保護者と一緒に受講するケースが多い。これまでに500人以上の児童がここで学んでいる。

 自ら種をまき、草取りや収穫、さらには販売まで体験するなど、年間を通じた授業なので、観光農園でのリンゴ狩りとは全然違う。授業を重ねるうちに作物の生育具合や自然条件を気にするようになり、農作物への意識が変わる。ある保護者は「野菜などの会話が家庭内でめっきり増えた」と話すが、児童への食育効果は相当、大きいようだ。

 授業は班主体に行う。班は異学年や他地域の児童を組み合わせて構成しており、異学年生と触れ合い仲間づくりができるよう工夫している。農作業のコツを手とり足とり教える農家先生、手助けする大学生や高校生など、日頃接触しない異世代との交流が進むのもここの利点だ。

 効果やメリットはいろいろあるが、小林道夫校長は「命の大切さが学べる。それに、地域の連帯感も養える」と強調する。

 7回目の授業には三木正夫市長をはじめ、副市長や教育次長など市幹部も参加していた。豊丘校の活動を市を挙げて盛り上げようとの印象がうかがえる。

 農小の活動ではずっと先輩なのが椛の湖農業小学校だ。開校は1994年というから、もう20年の歴史を持つ。①入学金は1家族5千円②授業料は月1500円③保険料500円と毎回の食事代500円――という条件で毎年、小学生(定員60人)を募集している。授業は原則として3~11月の間に毎月1回(1日)あり、13年度は73人の児童が9回の授業を受ける。

教師役は年寄り有志20人 管理も運営も民間主導

 授業の舞台は中津川市の標高500㍍の高台にある椛の湖自然公園内にある畑(20㌃)だ。先生役は地元のおじいちゃん、おばあちゃんなどの年寄り有志20人。縦割り編成のグループ単位で授業を進め、グループごとに先生が指導する。「土にまみれて作物を育て、食べ物の大切さを体験し、触れ合いの輪を広げたい」と、事務局長の山内總太郎さんは活動の狙いを語る。

 中津川での農小活動は、須坂とはやり方がかなり違う。第1は行政主導の須坂に対し、中津川は管理も運営も民間主導で行っている点だ。立ち上げたのは地域の農業、醸造業、元教師ら10人の仲間で、70年代初頭に椛の湖の湖畔で開かれた伝説の「中津川フォークジャンボリー」を企画したメンバーたちだ。

 市管理の公園内の農地を借りている以外、資金も人材も行政に頼っていない。会費で運営費を捻出し、地域の有志を募って人材を確保している。

 第2は活動の範囲が広いこと。体験する栽培作物は大根やニンジン、里芋、ヤーコンなど34種類に及ぶ。獲った野菜で郷土料理に挑戦したり餅つき大会や案山子コンクール、宿泊体験に挑戦したりとバラエティーに富む。授業が終わると毎回、女性陣が用意した食事が出る。家に持ち帰れるほどの大量の料理という。

 第3は名古屋など大都会の子どもの参加者が多いことだ。都市と農村との交流拡大を考えての作戦である。「最初に野菜はどこで獲れるかと聞くと、2割近くがスーパーと答える」、「そんな都会の子どもらが農体験を通じて確実に育つのだから」と山内さんは打ち明ける。

 須坂でも中津川でも毎年、児童らの感想文を募り、文集にして配布している。児童の鋭い感性が文集におどっている。

関連記事

好評連載

深読み経済ニュース

一覧へ

2015年の経済見通し

[連載] 深読み経済ニュース解説

永濱利廣

[連載] 深読み経済ニュース解説

再デフレ化に突入し始めた日本経済

[連載] 深読み経済ニュース解説

消費税率引き上げ見送りの評価と影響

[連載] 深読み経済ニュース解説

安倍政権が解散総選挙を急ぐ理由

[連載] 深読み経済ニュース解説

日銀による追加緩和決定の影響は!?

実録! 関西の勇士たち

一覧へ

ワンマンシリーズ(7)稀有のバンカー、大和銀行・寺尾威夫〈1〉

[連載] 実録! 関西の勇士たち(第20回)

実録! 関西の勇士たち

[連載] 実録! 関西の勇士たち(第19回)

ワンマンシリーズ(6)三和の法皇・渡辺忠雄〈3〉

[連載] 実録! 関西の勇士たち(第18回)

ワンマンシリーズ(5) 三和の法皇・渡辺忠雄〈2〉

[連載] 実録! 関西の勇士たち(第17回)

ワンマンシリーズ(4) 三和の法皇・渡辺忠雄〈1〉

[連載] 実録! 関西の勇士たち(第16回)

ワンマンシリーズ(3)住友銀行に残る堀田の魂魄

ビジネストレンド新着記事

注目企業

一覧へ

ワンストップで手厚くサイトの売却をサポート――中島優太(エベレディア社長)

 昨今、事業拡大や後継者対策などを目的とした企業同士のM&Aが増加している。同様にウェブサイトのM&Aが活発化している事実をご存知だろうか。サイトの売買で売り手にはまとまったキャッシュが、買い手にはサイトからの安定収益が入るなど、双方に大きなメリットがもたらされている。大手ITグループから個人事業主まで幅広い…

201712EVEREDIA_CATCH

「日本初」にこだわる男のユニークな発想とビジネス――佐野秀光(情報通信ネットワークグループ社長)

外国人を中心に需要が高まるソーシャルレジデンスで快走―オークハウス

新社長登場

一覧へ

「技術立脚の理念の下、付加価値の高い香料を開発します」――高砂香料工業社長 桝村聡

創業から95年、海外に進出してから50年以上たつ国際派企業の高砂香料工業。合成香料では日本最大手であり、国際的にも6%以上のシェアを持つ優良企業だ。 100年弱の歴史を持つ合成香料のトップメーカー ── まず御社の特徴をお聞かせください。 桝村 1920年創業ですから、2020年に100周年を迎える…

桝村 聡

「ネット広告が変わってもクライアント本位の姿勢は変わりません」--バリューコマース社長 香川仁

「最新情報を発信、人と企業の働く環境を良くしていきます」--マンパワーグループ社長 池田匡弥

イノベーターズ

一覧へ

老舗コニャックメゾンがブランド強化で日本市場を深耕――Remy Cointreau Japan代表取締役 宮﨑俊治

フランスの大手高級酒グループ、レミー・コアントロー社の日本法人。18世紀から愛飲されてきた名門コニャックの「レミーマルタン」や世界有数のリキュール「コアントロー」をはじめ、スピリッツやウイスキーなど戦略的なラインアップを日本市場で展開している。同社の宮﨑俊治代表取締役に事業展開について聞いた。 &nbs…

20150609_INNOV_P02

デザイナーズ家具のEC販売で業界の“常識打破”に挑戦――リグナ社長 小澤良介

内装空間の総合プロデュースで想いをカタチに創り上げる――ユニオンテック社長 大川祐介

大学の挑戦

一覧へ

専門分野に特化した“差別化戦略”で新設大学ながら知名度・ブランド力向上を実現――了徳寺大学・了徳寺健二理事長・学長

2000年設立で、了徳寺大学が母体のグループ法人。医療法人社団了徳寺会をグループ内に持つ。大学名の「了」は悟る、了解する、「徳」は精神の修養により、その身に得た優れた品性、人格を指す。「了徳寺」は人間としての品性、道を論す館の意味を込めた大学名だ。 聞き手=本誌/榎本正義 、写真/佐々木 伸 教育部門と…

大学の挑戦

創立100周年を控えて「世界に貢献し、インパクトを与える人」の育成に努めます――西南学院大学・K.J.シャフナー学長

「“STAND BY YOU”のスローガンの下、学生一人ひとりに寄り添う教育を」――中央学院大学・佐藤英明学長

企業eye

一覧へ

社員の人間力を武器に5期連続増収を果たす投資用不動産会社――パートナーズ

パートナーズは全国の中古投資用不動産の売買仲介を手掛けている。2011年の創業以来、5期連続増収を達成。吉村社長は業績好調の原動力を「社員の人間力を養い、顧客満足度の向上に取り組む姿勢にある」と語る。── 数ある投資用不動産会社の中、独自の強みについて。吉村 当社では、社員の人間力を徹底的に磨きな…

企業eye

クラウドソーシングを活用した動画制作やオンライン動画制作プラットフォームを提供――Crevo

海外ビジネスの第一線で活躍した2400人のエキスパートを擁し、日本企業の海外事業を支援。

経済界からのお知らせ

最新号のご案内

経済界11月号
[特集]
運の科学

  • ・北尾吉孝(SBIホールディングス社長)
  • ・江口克彦(江口オフィス社長)
  • ・畑村洋太郎(畑村創造工学研究所代表)
  • ・藤井 聡(京都大学大学院工学研究科教授・内閣官房参与)
  • ・角居勝彦(日本中央競馬会調教師)
  • ・桜井章一(雀鬼会会長)

[Interview]

 安永竜夫(三井物産社長)

 「やるべきことは2つ。方向性を指し示し、トップ同士の関係を構築する」

[NEWS REPORT]

◆東芝メモリ買収の影の主役 産業革新機構の収支決算

◆電気自動車がガソリン車を駆逐するまであと10年

◆60代を迎えた孫正義 ソフトバンク300年の計への足固め

◆出版不況の風向きは変わるか!? 常識を覆すオンリーワン作戦!

[政知巡礼]

 若狭 勝(衆議院議員)

 「自民党のしがらみ政治をぶった斬りたい」

ページ上部へ戻る