マネジメント

 2014年10月16日、東証1部上場を果たしたリクルートホールディングス。売上高約1兆2千億円、従業員数約2万8千人を誇る巨大グループを率いるのは、12年に5代目社長として就任した峰岸真澄氏だ。

 歴代トップと違って、人材(HR)領域事業の出身ではなく、創業者の江副浩正氏から直接薫陶を受けていない世代から初めて抜擢された峰岸氏は、リクルートの新たな時代の象徴とも言える。ホールディングス体制への移行、グローバル化の加速、そして株式公開という大きな変化のまっただ中にあって、同氏は何を考え、実行しようとしているのか。本人を直撃した。

 

峰岸真澄・リクルートホールディングス社長兼CEOプロフィール

 

峰岸真澄

峰岸真澄(みねぎし・ますみ)1964年生まれ。千葉県出身。87年立教大学経済学部卒業後、リクルート入社。「カーセンサー」の広告事業に従事した後、「ゼクシィ」創刊に携わる。2003年、当時最年少の39歳で執行役員に就任。04年常務執行役員、09年取締役兼常務執行役員、11年取締役兼専務執行役員を経て、12年4月に社長兼CEOに就任。同年10月、分社化によりリクルートホールディングス社長兼CEOに就任。

 

リクルートの上場が社内に与えた変化

 

── 上場会見の時に、あらためて人材関連分野でグローバルナンバーワンを目指すと宣言しましたが、峰岸社長が就任する前の2010年ごろから海外企業の買収を加速するなど、積極的な動きに出ていました。このタイミングでの上場となった理由は。

峰岸 10年ごろから、次の成長戦略についての議論を社内でずっと行っていて、当時私は経営企画担当専務として、プロジェクトに携わっていました。

 海外進出は00年代前半から進めていましたが、さらにグローバル展開に大きく踏み込むのかどうかということが、1つのアジェンダとしてありました。11年度に大まかな方向性が社内で決まり、その戦略を達成するには未上場のほうがよいのか、上場したほうがよいのかという資本戦略の話になりました。

 つまり、事業戦略、成長戦略を実現するパッケージとして資本財務戦略が決まったわけで、資本財務戦略ありきで上場を決めたわけではありません。その後12年6月の株主総会で、上場を目指す方向性を発表しました。「グローバルナンバーワン」と初めて言ったのもその時です。

── 上場を打ち出したことで、社内の雰囲気は変わりましたか。

峰岸 むしろ社内では、12年10月に実行した分社化のほうが大きなインパクトがありましたね。

── 上場によって、リクルートの自由闊達な社風がなくなってしまうという危惧もあります。

峰岸 未上場の時より、株主に対して説明するパワーやコストは掛かるとは思います。そこはしっかりコミュニケーションする義務を果たさなければならない。ただ、これまでも収益を上げることに対しては厳しくやってきましたし、しっかり儲ける精神が現場にあります。いかに社会や顧客の課題を解決するかということに未上場の時からこだわっているので、今後もそこは変わらないと思います。

峰岸真澄── M&Aも加速させていくと思いますが、どういった企業が対象になるのでしょうか。

峰岸 人材メディア事業で言うと、12年に買収した米インディードの14年上期の売上高が80%以上アップしました。今後も前年比数十%アップが続く可能性があります。

 インディードは55カ国で展開して成長を続けていますが、例えば、これを補完する企業や同社が保有していないテクノロジーを持つ会社などがM&Aの対象になるでしょう。インディードはもともと高いテクノロジーを保有していますが、ほかにスマートデバイスのテクノロジーを持っている企業があれば対象になるかもしれないし、あるいはインディードが保有していないクライアントを持つ企業があればそこも対象になるかもしれません。

 一方、人材派遣は成熟国では既に出来上がっている産業ですが、新興国ではまだ大きな産業には育っていません。世界の派遣市場の7割ぐらいを成熟国が占めているので、成熟国を中心に、売上高数百億円から1千億円程度ある人材派遣企業が、1つの対象になるでしょう。

 人材紹介のサービスについては、現在アジアの11の国と地域で展開しています。07年よりRGF HR Agentとして自前で展開を開始し、13年には香港のボーレアソシエイツやインドのニューグリッドコンサルティングを子会社化しました。

 

峰岸真澄社長の新人営業マン時代

 

── 峰岸社長は、「カーセンサー」の営業からキャリアをスタートさせましたが、印象深い体験はありますか。

峰岸 入社直後の1987年にカーセンサーに配属され、初日から輸入車情報を扱うプロジェクトを立ち上げるチームに入れられました。新しいことに挑戦できると期待していたのですが、そのプロジェクトチームが私を入れてなんと2人(笑)。入社初日から、車情報誌をポンと置かれて調べろと言われて、ほとんど放置されました。

── 営業の現場ではかなり泥臭いこともやりますよね。

峰岸 2年目からは国産中古車販売店の担当になって、毎朝早く中古車屋さんに出掛けて、展示や洗車のお手伝いをしたり、社長さんの肩を揉んだりしていました。そして、カーセンサーに広告出稿されたディーラーさんから、実際に成約した車の情報を集めて、そのデータを基にディーラーさんに「この車でこの色だったらこの値段にするべき」といったことを伝えて、一緒にオークション会場に行って車を買ってもらったりしていたんです。

 そうしたことを続けていくと、どんどん車が売れていく。そうなるとディーラーさんもだんだんとこちらに相談してくれるようになって、広告の出稿が増えていきました。その後もこちらからどんどん提案して、店舗を拡大していただいたり、中古車以外にも新車販売や買い取り専門の部門を作ってもらったりしていました。

 すると、ほかにも買い取り専門業者が現れたり、メーカー系のディーラーではなくても新車を売る業者が現れたりしてくるわけです。産業そのものの在り方を、いち営業マンが変えることができるんだということを実感しました。

 もともとリクルートに入る若者は、将来独立したいという思いを持っていることが多いのですが、やはり若者なのである意味気合いの営業から始めます。でも、単なる御用聞きではなくて、営業とはお客さまを儲けさせるための提案をすることなんだと入社2年目にして気付くことになりました。そういうことに向き合って初めて、われわれの提供しているメディアの効果が実感できましたし、向き合っていなければただの広告売りの営業マンで終わっていたでしょうね。

峰岸真澄── そうしたやり方は、受け継がれていったようですね。

峰岸 当時はインターネットもなく、ナレッジマネジメントもされていなかったので、個人商店の集まりみたいなものでした。そこを組織としてどうするかという部分は、まだ課題はあるものの、時がたつにつれ洗練されていったと思います。

 

峰岸真澄氏が描くリクルートの将来像

 

── 今後の話に戻ります。買収した企業においてリクルートの企業文化は浸透していくのでしょうか。

峰岸 海外展開していく中で、当社がM&Aを行った企業は比較的規模の大きな企業が中心です。そうした企業に当社が提供できる価値とは何か、ということを徹底的に分析しました。われわれが国内で培ってきたセールスマーケティング、商品開発、組織の管理手法といったノウハウこそが当社が提供できるバリューであって、決して相手をリクルートのような会社にするということではありません。

 ただ、共通しているのは会社に所属する従業員や管理職の一人ひとりがイキイキと仕事に臨むことがゴールになっていることです。社風や文化というよりは、ノウハウを提供することによって、それを実現するということに注力しています。もともと、われわれのノウハウに共感していただける企業が買収対象になっているし、買収後も自分たちの良さを残しながら、リクルートが提供するものを取り入れて成長してほしいという考え方です。

── リクルートが将来目指す会社像とは。

峰岸 企業文化を買収先に注入しないとは言ったものの、それはやはり醸し出されるものなので、われわれの文化に「共感・理解」をいただける企業でないとうまくはいきません。

 「起業家精神」「圧倒的な当事者意識」「個の可能性に期待し合う場」という企業文化があって、その上にメディアやITを使う部分とともに、ヒューマンタッチな部分も残っていきます。時代の変遷によって変えていく部分はありますが、今後もマッチングビジネスを基本に置くことは変わりません。マッチングとは、企業と人との出会いを増やしていくことだったり、機会の創造だったりします。それによって、個人が自分の人生や日常のちょっとした選択を、自分の判断でできるようサポートしていきます。

(聞き手=本誌編集長/吉田浩 写真=幸田 森)

関連記事

好評連載

銀行交渉術の裏ワザ

一覧へ

融資における金利固定化(金利スワップ)の方法

[連載] 銀行交渉術の裏ワザ(第20回)

銀行交渉術の裏ワザ

[連載] 銀行交渉術の裏ワザ(第19回)

定期的に銀行と接触を持つ方法 ~円滑な融資のために~

[連載] 銀行交渉術の裏ワザ(第18回)

メインバンクとの付き合い方

[連載] 銀行交渉術の裏ワザ(第17回)

銀行融資の裏側 ~金利引き上げの口実とその対処法~

[連載] 銀行交渉術の裏ワザ(第16回)

融資は決算書と日常取引に大きく影響を受ける

元榮太一郎の企業法務教室

一覧へ

社内メールの管理方法

[連載]元榮太一郎の企業法務教室(第20回)

企業法務教室

[連載]元榮太一郎の企業法務教室(第19回)

タカタ事件とダスキン事件に学ぶ 不祥事対応の原則

[連載] 元榮太一郎の企業法務教室(第18回)

ブラック企業と労災認定

[連載] 元榮太一郎の企業法務教室(第17回)

電話等のコミュニケーション・ツールを使った取締役会の適法性

[連載] 元榮太一郎の企業法務教室(第16回)

女性の出産と雇用の問題

本郷孔洋の税務・会計心得帳

一覧へ

税務は人生のごとく「結ばれたり、離れたり」

[連載] 税務・会計心得帳(最終回)

税務・会計心得帳

[連載] 税務・会計心得帳(第18回)

グループ法人税制の勘どころ

[連載] 税務・会計心得帳(第17回)

自己信託のススメ

[連載] 税務・会計心得帳(第16回)

税務の心得 ~所得税の節税ポイント~

[連載] 税務・会計心得帳(第15回)

税務の心得 ~固定資産税の取り戻し方~

子育てに学ぶ人材育成

一覧へ

意欲不足が気になる社員の指導法

[連載] 子どもに学ぶ人材マネジメント(第20回)

子どもに学ぶ人材マネジメント

[連載] 子どもに学ぶ人材マネジメント(第19回)

子育てで重要な「言葉」とは?

[連載] 子どもに学ぶ人材マネジメント(第18回)

女性社員を上手く育成することで企業を強くする

[連載] 子どもに学ぶ人材マネジメント(第17回)

人材育成のコツ ~部下の感情とどうつきあうか~

[連載] 子どもに学ぶ人材マネジメント(第16回)

人材育成 ~“将来有望”な社員の育て方~

ビジネストレンド新着記事

注目企業

一覧へ

【特集】2019年注目企業30

 2018年の日本経済は、世界のマーケットを席巻してきた中国経済の成長鈍化が鮮明になり、併せて米・中の経済摩擦、英国のEU離脱問題などの対外的な課題が重なって大きな閉そく感が漂う年だった。 しかしながら元気な中堅・中小企業はネガティブな要因をものともせず独自の経営手法で活路を開いている。 原点回帰で、顧客第一…

「超サポ愉快カンパニー」としてワクワクするビジネスサイクルを回す―アシスト

ITと建設機械、グリーンエネルギーの3本柱で地球環境問題解決に貢献する―Abalance

新社長登場

一覧へ

地域に根差した証券会社が迎えた創業100周年―藍澤卓弥(アイザワ証券社長)

中堅証券会社のアイザワ証券は今年7月、創業100周年を迎えた。この記念すべき年に父からバトンを受け継ぎ新社長となったのが、創業者のひ孫にあたる藍澤卓弥氏。地域密着を旗印に掲げてここまで成長してきたアイザワ証券だが、変化の激しい時代に、藍澤社長は何を引き継ぎ、何を変えていくのか。聞き手=関 慎夫 Photo:西…

メディカル事業を横串にすることでシナジーを発揮し、顧客満足度向上へ 伏見有貴(リゾートトラスト社長)

新事業の芽を伸ばすことでさらに大きな個性的な会社を目指す――日髙祥博(ヤマハ発動機社長)

イノベーターズ

一覧へ

ペット仏具の先駆企業が「ペットロスカフェ」で目指す癒しの空間づくり

家族のように接していたペットを亡くし、飼い主が大きな喪失感に襲われる「ペットロス」。このペットロスとなってしまった人々が交流し、お互いを癒し合うカフェが、東京都渋谷区にオープンした。「ディアペット」を運営するインラビングメモリー社の仁部武士社長に、ペット仏具の世界とペットロスカフェをつくった目的について聞いた…

元引きこもり青年が「cluster」で創造する新たなVRビジネスとエンターテインメント(加藤直人・クラスターCEO)

日本人の英語学習の課題解決に向け、学習者目線のアプリを開発―― 山口隼也(ポリグロッツ社長)

大学の挑戦

一覧へ

専門分野に特化した“差別化戦略”で新設大学ながら知名度・ブランド力向上を実現――了徳寺大学・了徳寺健二理事長・学長

2000年設立で、了徳寺大学が母体のグループ法人。医療法人社団了徳寺会をグループ内に持つ。大学名の「了」は悟る、了解する、「徳」は精神の修養により、その身に得た優れた品性、人格を指す。「了徳寺」は人間としての品性、道を論す館の意味を込めた大学名だ。 聞き手=本誌/榎本正義 、写真/佐々木 伸教育部…

大学の挑戦

創立100周年、西南学院大学・K.J.シャフナー学長「世界に貢献しインパクトを与える人材を育てる」〜国際交流・就職支援・インターネット出願〜 

「“STAND BY YOU”のスローガンの下、学生一人ひとりに寄り添う教育を」――中央学院大学・佐藤英明学長

経済界からのお知らせ

最新号のご案内

経済界2019年4月号
[特集]
日本の「食」最前線

  • ・総論 日本の「食」から世界の「食」へ 成長産業となった農水・食品産業
  • ・「食」の輸出1兆円を支えるジェトロの役割
  • ・全国で進むブランド化「食」から始まる地方創生
  • ・上海で見た日本の「食」の未来
  • ・海外進出した外食チェーン「成功」と「失敗」の分かれ目
  • ・日本人が知らない中国の「日本食ブーム」の真実
  • ・消費税引き上げで始まる「外食VS中食」最終戦争

[Special Interview]

 星野晃司(小田急電鉄社長)

 「未来を見据えた挑戦で日本一暮らしやすい沿線をつくる」

[NEWS REPORT]

◆中国リスクが顕在化 電機業界に再び漂い始めた暗雲

◆持続可能な水産業へ 魚はいつまで食べられるのか

◆CES 2019現地レポート 家電からテクノロジーへの主役交代が鮮明に

◆相次ぐトラブルで業績悪化 SUBARUの見えない明日

[総力特集]

 2019年注目企業30

ページ上部へ戻る