
有名ホテルやデパートにおける食品の誤表示の問題が相次いだ。この状況を見ると、料理人が自分の腕よりも、原材料のブランドのほうが評価されていることを認めていたとしか思えない。高級食材でなくてもこんな味が出せるのかという驚きを客に与えようという職人の誇りがなかったのが寂しい。
機能がある一定のレベルを超えると、一般の人にはその差異が分かりにくくなる場合がある。それは、食品も科学技術製品も同じである。全体機能に差がつかなくなると、差別化のためには、価格やブランド、もしくは特定の要素を強調することになる。この要素の強調において不正が行われたのが、今回の食品偽装・誤表示問題である。科学技術製品に置き換えると、純正部品を使用しているか否かという問題になるのかもしれない。
一般の人が、完成品から個々の要素の機能等が正しく使用されていることを検査・確認をすることは難しい。その信用は、メーカーの信用・ブランドによるところが大きい。
信用を築くためには長い時間がかかるが、失うのは一瞬である。食品事業も科学技術も過去のブランドに頼るようになったら、先が見えている。信用やブランドは、守るものではなくて、築き続けるものであろう。見栄えや、宣伝の仕方によって商品価値を高める手法には限界がある。消費者は何時までも騙され続けはしない。技術さえ高ければ、消費者に支持されるというわけではないが、少なくとも技術を軽んじる姿勢を持つ企業が支持されるわけがない。
科学技術では、ローテクを用いてより高度なことを実現できることが、技術力としては高いと評価されることが多い。それは、簡単な基礎技術でより高度なことができるほうが、技術や科学の本質を理解していると考えられるからである。ただ、科学技術は、科学技術の発達のために存在するわけではなく、技術の先鋭化を行えばよいわけでもない。科学技術は、あくまでも社会を豊かにする手段でしかありえない。目指す目的を見失うと、短期的利益を出すことが目的となってしまい、そのために最も効果的な手段であれば、嘘、ごまかしが正当化されてしまう。
今なお、日本製の科学技術製品の信用は高い。しかし、日本製というブランドだけに頼っていると、同様のことが起きるかもしれない。なぜ、日本製が信頼されているのか? そのことを忘れないことが大切である。
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