文化・ライフ

日本人ショートに低評価のメジャーの壁

 

 「やめたほうがいい。中島(裕之)がダメだったんだし、失敗するほうが多い。阪神に残ったほうがいい」

 辛口で鳴る野球評論家の張本勲がTBSの番組でバッサリ斬り捨てた。

 海外FA権を行使し、メジャーリーグ挑戦を表明した鳥谷敬(阪神)のことである。

去就が注目される鳥谷敬内野手

去就が注目される鳥谷敬内野手

 周知のようにメジャーリーグにおける日本人野手の評価はピッチャーに比べると恐ろしく低い。

 とりわけショートに対する評価は低く、張本が「阪神に残ったほうがいい」と口にするのも、分からないではない。

 プロ11年目の2014年、鳥谷は自己最高の打率3割1分3厘をマークした。33歳という年齢を考えれば、「これが(メジャーリーグに挑戦できる)最初で最後のチャンス」という意識が強いのではないか。

 早大の同級生・青木宣親は今季、ロイヤルズの一員としてワールドシリーズに出場した。同級生の活躍に触発されたことは想像に難くない。

 鳥谷の一番、素晴らしい点は、屈強な体である。05年から10年連続で全試合に出場している。

 2塁ベース付近での接触の多いショートというポジションにあって、この数字は驚異的である。

 〝鉄人〟と言えば1987年に連続試合出場の〝世界記録〟をつくった元広島・衣笠祥雄の代名詞だが、ポジションがポジションだけに鳥谷も立派な鉄人である。

 しかし、メジャーリーグでの鳥谷の成功に太鼓判を押す球界関係者は少ない。これまで日本を代表するショートの多くが高い壁に阻まれてきたからである。

 その代表格が西武時代、7度のベストナインと4度のゴールデングラブ賞に輝いた松井稼頭央(現東北楽天)である。強肩、俊足、巧打。ほとんどの関係者が「メジャーで成功する日本人ショートは彼しかいない」と口を揃えた。

 だが、メジャーリーグの水は甘くなかった。メッツに入団した04年、相手ランナーのスライディングを受け、左すねを負傷した。2年目にはセカンドへのコンバートを余儀なくされた。

 メジャーリーグ7年間で通算615安打、102盗塁を記録した松井は決して失敗した選手ではない。07年にはロッキーズの一員としてワールドシリーズにも出場した。

 しかし、松井のメジャーリーグでのキャリアの大部分はセカンドで形成された。コンバートが吉と出たのである。

 

鳥谷敦の内野手としての資質の高さに期待

 

 日本人ショートが成功しにくい条件として、松井は「不可抗力のケガ」を挙げた。

 「僕の場合は、明らかにヒザを狙われました。米国には〝ベースが防御してくれる〟という教えがあるんです。要するに(2塁)ベースの前に出るとやられる。

 僕がメッツでヒザをやられた時もそうでした。ベースの前でボールをさばいていたのでやられました。ジャンピングスローをした瞬間、ヒザ目がけてぶつかってきました」

 松井の西武の後輩にあたる中島は、松井を上回る強打の持ち主だったが、結局、米国での2年間(アスレチックス)、1度もメジャーリーグでプレーすることができなかった。

 もちろん、そうしたことを知らない鳥谷ではあるまい。リスクが大きいからこそ挑戦のし甲斐があると考えているのかもしれない。

 それに鳥谷には非人工芝の甲子園を本拠地にしていたというアドバンテージもある。メジャーリーグは天然芝の球場が多く、人工芝を本拠地としていた選手と比べると、ベース周りのプレーで戸惑うことは少ないのではないか。

 その点を指摘するのは米国でもプレー経験がある評論家の佐野慈紀である。

 「人工芝では打球が滑るので、内野手は待って捕っても十分に間に合います。ところが、天然芝では自分で捕りにいかなければならない。

 人工芝と天然芝。打球への反応の違いが、日本人内野手が米国でプレーする際の障害となっていた。それがない分、鳥谷には有利だと思います」

 ファーストベストは、もちろんショートでの成功だ。仮に、それがうまくいかなくても「第2の道がある」と佐野は言う。

 「セカンドも選択肢のひとつでしょう。13年のWBCで、彼はショートではなくセカンドを守った。本職のポジションじゃないのに、生き生きとプレーし、そつなくこなしていた。そこに彼の内野手としての質の高さを感じました」

 この原稿を書いている時点で鳥谷の去就は決まっていない。阪神と再契約する可能性もゼロではない。

 彼の去就とともに、メジャーリーグの球団が、どの程度の評価を下すかにも興味がある。日本人ショートに対する〝時価〟は、果たして、どの程度か。今後のためにも、それは知っておきたい。

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