テクノロジー

問われる成長の質

 今回の総選挙の争点になったアベノミクス。その政策論争に不満を抱いた方は少なくないだろうが、筆者もその1人だ。とりわけ不満に感じたのは、経済政策と環境・エネルギー政策が一体として議論されることがなかった点だ。この議論がなおざりにされると、たとえ経済が成長したとしても、多くの人が手放しでそれを是認するわけにはいかなくなり、「成長の質」があらためて問われることになる。実際、成長の陰で地域格差が広がるのであれば問題であるし、一方で負の遺産を残す公共事業にも慎重にならざるを得ない。また、かつての日本や今日の中国のように成長が環境破壊につながるのも避けなければならない。

求められる「緑の経済成長」

 ならば、環境・エネルギー政策と成長戦略はいかに統合されるべきなのだろうか。その解を求めるうえで参考にすべき1つが、「緑の経済成長」論だ。ここで言う、緑の経済成長とは、2050年までに世界全体の温室効果ガス排出量を半減させながら、経済成長を目指すというものだ。この理論の中では、「温暖化防止に取り組む過程で新たな産業を創出し、付加価値と雇用を増やす」といった、従来とは異なる経済成長のアプローチが提唱されている。

 仮に、緑の経済成長が実現可能なシナリオであるならば、この論に異を唱える人はまずいないだろう。

 それでも世界を広く見渡せば、「経済がいくらマイナス成長になろうとも温室効果ガスの排出量削減に最優先で取り組むべき」と考える人もいるだろうし、反対に、「地球環境を犠牲にしても、経済成長を何よりも最優先させるべき」と主張する向きがあるかもしれない。しかし、そんな人たちはあくまでも少数派であり、大多数は、緑の経済成長を望むはずなのである。

経済と環境との「デカップリング」

 となれば問題になるのが、緑の経済成長は、本当に実現可能なシナリオかどうかだ。

 現在、EU(欧州連合)では、緑の経済成長を果たすために「デカップリング論」を採用している。ここでの「デカップリング(decoupling)」は、「切り離し戦略」、あるいは「非連動型発展」と訳されており、経済発展と環境負荷との従来関係、すなわち、「経済が成長すると環境負荷が増す」という関係を断ち切ることを意味している。要は、環境負荷削減の取り組みが経済成長に寄与し、経済の成長で環境負荷が低減する世界を目指そうということだ。

 デカップリング論にある程度の説得力があるのは、いくつかの国において、既に経済成長と環境負荷のデカップリングが見受けられているからだ。例えば、ドイツはここ10年間、環境汚染物質はもちろんのこと、エネルギー消費量を減少させながら、日本よりも高い経済成長率を維持している。

 もちろん、このような現象は、まだ一部の先進国で認められているにすぎず、世界規模で経済成長と環境負荷のデカップリングが可能かどうかは分からない。また、先進国でなぜ経済成長と環境負荷のデカップリングが起きているかの原因についても突き止めておく必要があるだろう。果たしてそれは、「先進国における産業のグリーン化が進展したせい」なのか、それとも、「グローバル経済化に伴う国際分業が進み、先進国に知識集約型産業が、開発途上国に汚染集約型産業が集中したせい」なのか。この辺りの解明は、低炭素社会の構築に向けた世界戦略を描く上でも、非常に重要なポイントになるはずだ。

 もう1点、緑の経済成長を実現する要素として強調されているのが、グリーンイノベーションに基づく新市場・新産業の創出である。

 低炭素社会への取り組みによって、新市場・新産業が生まれることは、誰もが期待することであり、また、認めるところでもある。ただし問題なのは、その新市場・新産業がどの程度の規模になり、どの程度の雇用を生む可能性があるかだ。緑の経済成長論をより確かなものにしていくためには、こうしたグリーンイノベーションの規模感を慎重に吟味していくことが不可欠と言える。

緑の経済成長を政策の中心に

 ともあれ、緑の経済成長が実現するならば、低炭素社会づくりの桎梏(しっこく)になっていたいくつかの問題を解決することができる。何よりも、緑の経済成長は、「緑(環境の維持・保全)」と「経済成長」を併せて達成するものだ。そのため、どちらか一方が実現しないことを理由に、それぞれに異を唱えていた国や人をも巻き込みながら、低炭素社会の実現を推進していくことができる。

 温室効果ガスCO2の多くは、エネルギー創出によって生まれている。

 したがって、緑の経済成長の鍵は、省エネの進展と再生可能エネルギーの普及が握っていると言える。省エネ・再生エネ開発に基づく成長をいかに加速させるか。これこそが、総選挙後の成長戦略で中心に置くべきテーマではないだろうか。

 

【エネルギーフォーカス】記事一覧はこちら

 

雑誌「経済界」定期購読のご案内はこちら

経済界電子版トップへ戻る

関連記事

好評連載

エネルギーフォーカス

一覧へ

緑の経済成長とエネルギー

[連載] エネルギーフォーカス

Energy Focus

[連載] エネルギーフォーカス

今後、10年後の電力業界の様相(2)

[連載] エネルギーフォーカス

発電単価から既存原発の経済性を考える

テクノロジー潮流

一覧へ

科学技術開発とチームプレー

[連載] テクノロジー潮流

テクノロジー潮流

[連載] テクノロジー潮流

エボラ出血熱と情報セキュリティー

[連載] テクノロジー潮流

21世紀の日本のかたち 農電業と漁電業

[連載] テクノロジー潮流

工学システムの安全について

[連載] テクノロジー潮流

エネルギー移行と国民の価値観の変化

ビジネストレンド新着記事

注目企業

一覧へ

総合事業プロデューサーとして顧客と共に成長する―中尾賢一郎(グランドビジョン社長)

広告やマーケティング、ブランディングを事業プロデュースという大きな枠で捉え、事業が成功するまで顧客と並走する姿勢が支持されているグランドビジョン。経営者の思いを形にしていく力で、単なる広告代理店とは一線を画している。 中尾賢一郎・グランドビジョン社長プロフィール &nb…

中尾賢一郎(グランドビジョン社長)

人材戦略を経営の核に成長する駐車場ビジネスのプロ集団―清家政彦(セイワパーク社長)

「PCのかかりつけ医」として100年企業への基盤構築を進める―黒木英隆(メディエイター社長)

新社長登場

一覧へ

森島寛晃・セレッソ大阪社長が目指すクラブ経営とは

前身のヤンマーディーゼルサッカー部を経て1993年に創設されたセレッソ大阪。その25周年にあたる2018年12月に社長に就任した森島寛晃氏は、ヤンマー時代も含めて通算28年間セレッソ一筋、「ミスターセレッソ」の愛称を持つ。今も多くのファンに愛される新社長が目指すクラブ経営とは。聞き手=島本哲平 Photo=藤…

カリスマ創業者の後任として描く「新しいマネックス証券像」― マネックス証券社長 清明祐子

「若者需要の開拓でビール市場を盛り上げていく」塩澤賢一(アサヒビール社長)

イノベーターズ

一覧へ

20歳で探検家グランドスラム達成した南谷真鈴さんの素顔

自らの手で未来をつかみ取る革新者たちは、自分の可能性をどう開花させてきたのか。今回インタビューしたのは、学生でありながら自力で資金を集め、世界最年少で探検家グランドスラムを制した南谷真鈴さんだ。文=唐島明子 Photo=山田朋和(『経済界』2020年1月号より転載)南谷真鈴さんプロフィール&nbs…

南谷真鈴

シリコンバレーへの挑戦が生んだ「起業家と投資家が待ち望んだサービス」― 戸村光・ハックジャパンCEO

「測量美術」が起こす道路工事のイノベーション―草木茂雄・エムアールサポート社長

大学の挑戦

一覧へ

専門分野に特化した“差別化戦略”で新設大学ながら知名度・ブランド力向上を実現――了徳寺大学・了徳寺健二理事長・学長

2000年設立で、了徳寺大学が母体のグループ法人。医療法人社団了徳寺会をグループ内に持つ。大学名の「了」は悟る、了解する、「徳」は精神の修養により、その身に得た優れた品性、人格を指す。「了徳寺」は人間としての品性、道を論す館の意味を込めた大学名だ。 聞き手=本誌/榎本正義 、写真/佐々木 伸 …

大学の挑戦

創立100周年、西南学院大学・K.J.シャフナー学長「世界に貢献しインパクトを与える人材を育てる」〜国際交流・就職支援・インターネット出願〜 

「“STAND BY YOU”のスローガンの下、学生一人ひとりに寄り添う教育を」――中央学院大学・佐藤英明学長

経済界からのお知らせ

最新号のご案内

経済界2020年1月号
[特集] 新しい街は懐かしい
  • ・「街の記憶」で未来をリノベーション
  • ・日本橋が「空を取り戻す」水辺と路地がつながる街へ
  • ・水辺はエンタメの宝庫だ 大阪が目指す観光客1300万人
  • ・街の誇りを取り戻せ 名古屋・堀川復活プロジェクト
  • ・なぜ水辺に都市が栄えるのか
  • ・2020以降は海と川がさらに面白くなる
  • ・「住む」と「働く」両方できるが求められている(たまプラーザ)
  • ・「土徳」が育む一流の田舎(南砺市)
  • ・音楽ファンが集う街づくり
[Special Interview]

 辻 慎吾(森ビル社長)

 東京が世界で勝ち抜くために必要なこと

[NEWS REPORT]

◆飛びたくても飛べないスペースジェットの未来

◆エンタメが街を彩る 地方創生に挑むポニーキャニオン

◆問題噴出のコンビニをドラッグストアが抜き去る日

◆始まった自動車世界再編 日本メーカーはどう動く?

[特集2]

 経済界福岡支局開設35周年記念企画

 拓く!九州 財界トップが語る2030年のかたち

ページ上部へ戻る