文化・ライフ

OKWaveのQ&Aの背後に見える多数のニーズと本音

佐藤哲也 Q&Aサイト「OKWave」に集まる質問数は約760万件、回答数は2500万件。質問には質問者が抱える悩みやニーズが潜み、回答からは生活者の本音が読み取れる。「ビッグデータ」への注目が集まった2013年、同サイトを運営するオウケイウェイヴは、投稿されたQ&Aを分析する組織、OKWave総合研究所を設立した。その意義を同研究所の佐藤哲也所長はこう語る。

 「Q&Aを通した助け合いの場を提供して15年、蓄積された質問と答えのユニークさはもちろん、関心を持って検索してきた閲覧者のプロファイルや季節ごとのアクセス数の推移など、われわれにしか知り得ないデータを合わせて分析すると、発見がありました。シンクタンクとは違う、価値ある情報を顧客に提供できるはずです」

OKWaveのQ&A キーワードその1 贈り物のパーソナライズ化

 同研究所では企業の要望に合わせてQ&Aを分析したカスタムレポートを提供しているほか、毎月テーマを決めてQ&Aを分析・解析したレポートを発表している。5月にリリースしたレポートのテーマは「お中元」。ここからは、贈り物の選択に「パーソナライズ化」「差別化」の流れが読み取れると佐藤氏は指摘する。

 「以前なら有名で人気がある定番の商品を贈る傾向がありましたが、近年は〝簡単には手に入らない〟〝地域限定〟の商品を贈りたいという傾向に変わっています。若年層にその傾向は強く、〝自分らしさ〟にこだわりがあるようです。こうした他者との差別化を求める背景には、贈り手のセンスを評価されたい心理も読み取れます」(佐藤所長)

 回答データから「もらってうれしかった」という経験談を抽出して分析すると、2007年から「限定商品」「普段自分では買わない商品」「高級感、プレミアム感がある」というキーワードが連動して浮かび上がり、消費者が贈り物にこれらの要素を求めていることが分かるという。このトレンドは、ほかの贈り物や土産物でも当てはまる。

 近年、既存ブランドの派生商品として「プレミアム」「リッチ」などを冠にした高級路線商品が展開されている。同研究所プロデューサーの福田とも子氏は「07年から見られる生活者の高級志向の反応に、メーカー側が追い付いた」と指摘する。同研究所は「マンネリ感を解消する新しいアイデアが欲しい」という質問が年々増加していることから、この傾向は15年以降も続くと予測する。

OKWaveのQ&A キーワードその2 マナーとしきたり

「年賀状」の質問投稿者が用いる頻出ワードランキング 一方、お中元やお歳暮などは年々売り上げが減少傾向にある。同サイトの質問と回答にも「マナーが分からず、贈るのをやめた」という声は多い。

 マナーが障害になる傾向は、年賀状などにも見られる。例えば、年賀状に関する質問で近年興味深い動きを見せるキーワードは「離婚」だ。「離婚して旧姓になったが、年賀状は届くのか」といった内容の疑問が年々微増している。また、「写真付き年賀状」が悩みであるという質問も多く、「写真付きの年賀状は送り先に嫌味に感じるのか」といった送り手の戸惑いや、「処分の仕方に悩む」といった受け手の声も目立つ。

「離婚」と「年賀状」が記述されている質問数 こうしたマナーに関する質問が多い背景には核家族化が進み、気軽に尋ねられる家族や親戚が少ない社会になっているからだと佐藤所長は分析する。しかし、同サイト内でのやり取りが、行動の後押しになる例もある。

 「質問者は回答者からマナーに関して方向性を示されたことで『安心して行動できた』という反応もやり取りの中で見られます。マナーの啓発をするだけでも、日本独特のしきたりを辞める風潮を断ち切る鍵になるかもしれません」

 佐藤所長がこのように語るように、しきたりを取り巻く曖昧なルールに道筋を付けるようなサービスには、ニーズが潜んでいるかもしれない。

OKWaveのQ&A キーワードその3 深刻化する〝将来不安〟

 同研究所は15年2月、食の効能にまつわるレポートを発表する予定だ。6月までに改正食品表示法が施行されるトレンドに合わせた企画だが、分析を続ける中で健康や美容に関するQ&Aは近年増えている傾向があるという。その特徴として福田氏は「『ずっと健康で長生きするためには、何をするべきか』といった質問のように、予防医療への関心事が多くなっています。〝将来への不安〟は1つのキーワードかもしれない」とする。

 この〝将来への不安〟は、14年中に分析した「介護」などのレポートでも語られており、質問者の悩みが年々深刻化、複雑化していると佐藤氏は指摘する。

 「当サイトがオープンした当初は生活者の経験で教え合える気軽なQ&Aが多かったのですが、最近は健康面では医師や薬剤師、経済的な不安には会計士といったように、突き詰めると専門家が答えなければいけないような質問が急増しています」(佐藤所長)

 同研究所はこの要因に、「親の介護」「孤独死」が身近な問題になったからだと推測する。佐藤所長は「深い悩みを持つユーザーは、企業の売り込みには拒否反応を示すが、質問に熱心に答えてくれるのであれば、企業の回答を求めている傾向も読み取れ、企業側がそうしたニーズに合わせることは必要」と付け加える。

 オウケイウェイヴでも、14年11月、「OKWave Professional」をリリース。弁護士などの専門家が12月末までに順次600人以上が参加し、ユーザーの質問に答えるサービスの提供を始めている。

 Q&Aから読み取れる生活者の声の中から潜在的なニーズを見出して、商品・サービス展開に生かすことができるのか。15年でビジネスチャンスをつかむために必要な視点になるかもしれない。

(文=本誌/長谷川 愛 写真=佐々木 伸)

関連記事

好評連載

二宮清純のスポーツインサイドアウト

一覧へ

米山公啓の現代医療の真相

一覧へ

見落としやすい薬の副作用

[連載] 現代医療の真相(第19回)

現代医療の真相

[連載] 現代医療の真相(第18回)

肺炎球菌ワクチンから見えるワクチン後進国日本

[連載] 現代医療の真相(第17回)

認知症・徘徊老人を受け入れる街づくり

[連載] 現代医療の真相(第16回)

サプリメント・ブームにもの申す

[連載] 現代医療の真相(第15回)

インフルエンザ予防接種は受けるべきか

吉田たかよしのビジネス脳の作り方

一覧へ

ネット検索の集中力は「独り言」で高まる!

[連載]吉田たかよしのビジネス脳の作り方(第20回)

ビジネス脳の作り方

[連載]吉田たかよしのビジネス脳の作り方(第18回)

人材育成のコツ ~部下の才能を褒めるとダメ人材に育つ~

[連載]吉田たかよしのビジネス脳の作り方(第17回)

株取引の損得は男性ホルモン量で決まる?

[連載]吉田たかよしのビジネス脳の作り方(第16回)

アルツハイマー病は脳の糖尿病!?

ビジネストレンド新着記事

注目企業

一覧へ

上場して分かったTOKYO PRO Marketのメリット―前田浩・ニッソウ社長に聞く

多くの経営者が目標とする株式上場。しかし、上場に掛かるコストや時間、その他諸々の条件を考慮して、「上場は到底無理」と諦めてしまうケースも少なくない。そんな経営者にとって有力な選択肢となるのが東京証券取引所の運営する第五の市場TOKYO PRO Marketへの上場だ。2018年に同市場に上場を果たした、株式会…

前田浩氏

未来のモビリティ社会実現に向け日本と欧州の懸け橋に―シェフラージャパン

日本一歴史の長い女性用化粧品会社が挑む「革新と独創」―伊勢半

新社長登場

一覧へ

地域に根差した証券会社が迎えた創業100周年―藍澤卓弥(アイザワ証券社長)

中堅証券会社のアイザワ証券は今年7月、創業100周年を迎えた。この記念すべき年に父からバトンを受け継ぎ新社長となったのが、創業者のひ孫にあたる藍澤卓弥氏。地域密着を旗印に掲げてここまで成長してきたアイザワ証券だが、変化の激しい時代に、藍澤社長は何を引き継ぎ、何を変えていくのか。聞き手=関 慎夫 Photo:西…

メディカル事業を横串にすることでシナジーを発揮し、顧客満足度向上へ 伏見有貴(リゾートトラスト社長)

新事業の芽を伸ばすことでさらに大きな個性的な会社を目指す――日髙祥博(ヤマハ発動機社長)

イノベーターズ

一覧へ

佐藤輝英・BEENEXTファウンダーに聞く「起業家から投資家に転身した理由」

Eコマースを中心に成長を続けるBEENOS。その創業者である佐藤輝英氏は、5年前に社長を退任。4年前には取締役を辞任し、経営から退いた。それまで起業家として生きてきた佐藤氏が次に選んだのは起業家支援。BEENEXTを設立し、新しいイノベーションを起こそうとしている起業家への投資を始めた。その中でも投資の中心と…

チェ・ゲバラに憧れた10代起業家が目指す「働き方革命」― 谷口怜央・Wakrak(ワクラク)社長

ペット仏具の先駆企業が「ペットロスカフェ」で目指す癒しの空間づくり

大学の挑戦

一覧へ

専門分野に特化した“差別化戦略”で新設大学ながら知名度・ブランド力向上を実現――了徳寺大学・了徳寺健二理事長・学長

2000年設立で、了徳寺大学が母体のグループ法人。医療法人社団了徳寺会をグループ内に持つ。大学名の「了」は悟る、了解する、「徳」は精神の修養により、その身に得た優れた品性、人格を指す。「了徳寺」は人間としての品性、道を論す館の意味を込めた大学名だ。 聞き手=本誌/榎本正義 、写真/佐々木 伸 …

大学の挑戦

創立100周年、西南学院大学・K.J.シャフナー学長「世界に貢献しインパクトを与える人材を育てる」〜国際交流・就職支援・インターネット出願〜 

「“STAND BY YOU”のスローガンの下、学生一人ひとりに寄り添う教育を」――中央学院大学・佐藤英明学長

経済界からのお知らせ

最新号のご案内

経済界2019年7月号
[特集] 素材の底力〜世界をリードする素材産業〜
  • ・素材のイノベーションが日本経済をリードする
  • ・化学工場 企業ごとの特色も鮮明に存在感増す化学素材
  • ・電気自動車普及が始まる車載バッテリーの覇権戦争
  • ・炭素繊維 市場を開拓してきた日本が技術的優位を保ち続ける法
  • ・「鉄は国家なり」の時代を経て問われる「日の丸製鉄」の競争力
  • ・経産省 日本の素材産業が世界をリードするための3つの課題
  • ・就職人気は下位に低迷でも焦らない素材メーカー
[Special Interview]

 日覺昭廣(東レ社長)

 「長期的視点で開発するのが素材企業のDNA」

[NEWS REPORT]

◆営業利益率10%突破 ソニーならではの「儲けの構造」

◆日本初の民間ロケットが宇宙空間に到達

◆携帯参入まであと4カ月 国内4番手「楽天」の勝算

◆日産・ルノーが直面する「経営統合問題」長期化の落とし穴

[Interview]

 「君は生き延びることができるか」──ガンダム世代が歩んだ40年

 常見陽平(評論家・労働社会学者)

ページ上部へ戻る