文化・ライフ

筆者プロフィール

(よねやま・きみひろ)作家、医師(医学博士)、神経内科医。聖マリアンナ大学医学部卒業。1998年2月に同大学第2内科助教授を退職し、著作活動を開始。東京都あきる野市にある米山医院で診察を続ける一方、これまでに260冊以上を上梓。講演会、テレビ・ラジオ出演、テレビ番組企画・監修も行っている。NPO日本サプリメント評議会代表理事、NPO日本プレインヘルス協会理事。

 

肺炎は元気な高齢者でもかかる

 最近、テレビ等で活発な啓蒙活動が展開されている肺炎予防の「肺炎球菌ワクチン」。2014年から、接種に対する公的補助(65歳以上の高齢者を対象にした5年刻みで公費補助)が出るようになったこともあり、接種希望者が増え始めている。

 肺炎は日本人の死因第3位。がん・脳卒中・認知症の患者が末期に肺炎で亡くなることも少なくない。また、肺炎で亡くなる人の約95%は65歳以上の高齢者で、加齢に伴う免疫力の低下が要因だ。近年、「65歳はまだ若い」とされるが、それでも体の免疫能力は落ちている。肺炎は重症な病気の合併症と思われがちだが、実際には日頃元気な人が急に肺炎を起こす場合もある。65歳以上の方は、極力、肺炎予防をしたほうがよいだろう。

肺炎球菌ワクチンの効き目

 肺炎の4分の1程度が、肺炎球菌が原因で起きる。したがって、肺炎球菌ワクチンを打ったからといって肺炎が完全に防げるわけではない。とはいえ、ワクチン接種で肺炎になるリスクが減少することも確かだ。例えば、65歳以上の閉塞性肺疾患を対象にした研究によれば、インフルエンザワクチン接種で入院率が52%、死亡率が70%低下し、肺炎球菌ワクチンを併用すると入院率が63%、死亡率が81%低下するという。

 また、肺炎球菌を細かく見ると93の種類がある。14年10月からの定期接種で使用されている「ニューモバックスNP」ワクチンは、93種類中23種類の肺炎球菌に効果がある。そして、この23種類の肺炎球菌は、大人の重症肺炎球菌感染症の原因の約7割を占めているのだ。

 ワクチンの効き目には個人差があるが、ワクチン接種後1カ月で効果は最高値となり、その後4年間はあまり低下せず、一般的には5年以上持続すると考えられている。この5年間で、ワクチンの効果はピーク時の8割にまで落ちるが、5年以後も効果は残る。したがって、5年経過したら効果がゼロになるわけではないが、一般論としては5年おきに接種したほうがよいということになる。

 一方で、5年以内にワクチンを再接種すると、注射したところの痛みなどが強く出る恐れがあり、接種間隔が近いほど反応が強く出るリスクがある。したがって、1回目の接種から5年以上の間隔を空ける必要があるだろう。今のところ、何回の再接種が必要かの指針は出ていない。インフルエンザワクチンの場合、2回目の接種で1回目以上に抗体価が上昇する効果があるが、肺炎球菌ワクチンにはそれがない。ちなみに、米国では感染症になりやすい病気を持つ人には肺炎球菌ワクチンの再接種が勧められている。

日本が「ワクチン後進国」になったワケ

 医学的な見地から言えば、肺炎球菌ワクチンを接種したほうが、少なくとも肺炎で死亡するリスクが減るのは確実である。

 そのため、世界保健機関(WHO)は肺炎球菌ワクチンの接種を推奨しており、米国の疾患管理センター(CDC)では、65歳以上の高齢者やハイリスクグループの人たちに、肺炎球菌ワクチンとインフルエンザワクチンの併用を推奨してきた。結果、米国では1999年の時点で65歳以上の半数以上が肺炎球菌ワクチンを接種するに至っている。

 そんな海外の動きに比べると、日本の厚労省の動きはあまりにも遅い。

 また、米国の取り組みで重要なポイントは、インフルエンザワクチンと肺炎球菌ワクチンを同時に接種させている点だが、日本の厚労省は、両ワクチンの接種期間を1週間以上開けるよう指導している。ただし、そこには医学的な根拠はなく、不活化ワクチンであれば同時接種しても問題がないことは世界的な常識でもある。そのため、CDCは子どもにも両ワクチンの同時接種を勧めているが、厚労省の態度ははっきりしない。

 そんな「ワクチン後進国」に日本がなった理由は、90年代に「MMR(麻疹・おたふくかぜ・風疹)ワクチン」の副作用による死亡者が出て、訴訟問題に発展したからだ。これにより、国は94年に予防接種法を改正し、ワクチン接種を「強制的な義務」から「努力義務(勧奨接種)」へと変更した。それが、「ワクチンは副作用のリスクが高いのでは」といった国民の疑念を膨らませる結果になった。

 最近では、子宮頸がんワクチンの副作用問題もあり、ワクチンに対する国の態度は曖昧なままだ。今回の肺炎球菌ワクチンで多少積極的な姿勢を示したものの、ワクチンにどの程度の副作用リスクがあるのか、どういったメリットがあるかについては厚労省のホームページを見ても釈然としない。

 もっと安心してワクチンが接種できる仕組みをつくらないかぎり、この国がワクチン後進国から脱することはない。

 

筆者の記事一覧はこちら

 
経済界 電子雑誌版のご購入はこちら!
雑誌の紙面がそのままタブレットやスマートフォンで読める!
電子雑誌版は毎月25日発売です
Amazon Kindleストア
楽天kobo
honto
MAGASTORE
ebookjapan
 

雑誌「経済界」定期購読のご案内はこちら

経済界電子版トップへ戻る

関連記事

好評連載

二宮清純のスポーツインサイドアウト

一覧へ

米山公啓の現代医療の真相

一覧へ

見落としやすい薬の副作用

[連載] 現代医療の真相(第19回)

現代医療の真相

[連載] 現代医療の真相(第18回)

肺炎球菌ワクチンから見えるワクチン後進国日本

[連載] 現代医療の真相(第17回)

認知症・徘徊老人を受け入れる街づくり

[連載] 現代医療の真相(第16回)

サプリメント・ブームにもの申す

[連載] 現代医療の真相(第15回)

インフルエンザ予防接種は受けるべきか

吉田たかよしのビジネス脳の作り方

一覧へ

ネット検索の集中力は「独り言」で高まる!

[連載]吉田たかよしのビジネス脳の作り方(第20回)

ビジネス脳の作り方

[連載]吉田たかよしのビジネス脳の作り方(第18回)

人材育成のコツ ~部下の才能を褒めるとダメ人材に育つ~

[連載]吉田たかよしのビジネス脳の作り方(第17回)

株取引の損得は男性ホルモン量で決まる?

[連載]吉田たかよしのビジネス脳の作り方(第16回)

アルツハイマー病は脳の糖尿病!?

ビジネストレンド新着記事

注目企業

一覧へ

次なるステージを駆け上がる日本電子「70年目の転進」–日本電子

 最先端の分析機器・理科学機器の製造・販売・開発研究等を手掛ける日本電子(JEOL)は、ノーベル賞受賞者を含むトップサイエンティストや研究機関を顧客に、世界の科学技術振興を支えてきた。足元の業績は2019年3月期で連結営業利益、同経常利益、同最終利益がいずれも過去最高を更新。かつては技術偏重による「儲からない…

独自開発のホテル基幹システムで業務効率化と顧客満足度を向上–ネットシスジャパン

逆転の発想で歴史に残る食パンを 生活に新しい食文化をもたらす–乃が美ホールディングス

新社長登場

一覧へ

森島寛晃・セレッソ大阪社長が目指すクラブ経営とは

前身のヤンマーディーゼルサッカー部を経て1993年に創設されたセレッソ大阪。その25周年にあたる2018年12月に社長に就任した森島寛晃氏は、ヤンマー時代も含めて通算28年間セレッソ一筋、「ミスターセレッソ」の愛称を持つ。今も多くのファンに愛される新社長が目指すクラブ経営とは。聞き手=島本哲平 Photo=藤…

森島寛晃・セレッソ大阪社長

カリスマ創業者の後任として描く「新しいマネックス証券像」― マネックス証券社長 清明祐子

「若者需要の開拓でビール市場を盛り上げていく」塩澤賢一(アサヒビール社長)

イノベーターズ

一覧へ

非大卒就職マーケットの変革に挑む元教師の挑戦―永田謙介(スパーク社長)

日本企業の年功序列と終身雇用が崩壊に向かう中、制度を支えてきた大学生の新卒一括採用の是非もようやく議論されるようになってきた。一方、高校卒業後に就職する学生のための制度は旧態依然とし、変化の兆しがほとんど見えない。こうした現状を打ち破るべく、非大卒就職マーケットの改革に挑戦しているのがSpark(スパーク)社…

起業家にとって「志」が綺麗ごとではなく重要な理由―坂本憲彦(一般財団法人立志財団理事長)

勉強ノウハウと法律知識で企業の「働き方改革」を促進する―鬼頭政人(サイトビジット社長)

大学の挑戦

一覧へ

専門分野に特化した“差別化戦略”で新設大学ながら知名度・ブランド力向上を実現――了徳寺大学・了徳寺健二理事長・学長

2000年設立で、了徳寺大学が母体のグループ法人。医療法人社団了徳寺会をグループ内に持つ。大学名の「了」は悟る、了解する、「徳」は精神の修養により、その身に得た優れた品性、人格を指す。「了徳寺」は人間としての品性、道を論す館の意味を込めた大学名だ。 聞き手=本誌/榎本正義 、写真/佐々木 伸 …

大学の挑戦

創立100周年、西南学院大学・K.J.シャフナー学長「世界に貢献しインパクトを与える人材を育てる」〜国際交流・就職支援・インターネット出願〜 

「“STAND BY YOU”のスローガンの下、学生一人ひとりに寄り添う教育を」――中央学院大学・佐藤英明学長

経済界からのお知らせ

最新号のご案内

経済界2020年5月号
[特集] 巻き込む力
  • ・高岡浩三(ネスレ日本社長兼CEO)
  • ・唐池恒二(九州旅客鉄道会長)
  • ・河野 仁(防衛大学校教授)
  • ・入山章栄(早稲田大学大学院・ビジネススクール教授)
  • ・出口治明(立命館アジア太平洋大学学長)
  • ・中竹竜二(日本ラグビーフットボール協会理事)
  • ・時代も国境も超えた普遍のリーダーシップを学べるベストブックス
[Special Interview]

 小林喜光(三菱ケミカルホールディングス会長)

 イノベーションを起こすために「人間とは何か」を問う

[NEWS REPORT]

◆零細企業でも活用できるインターネットM&A最前線

◆業界再編はあるのか 日本製鉄、巻き返しへの一手

◆技術研究所を解体してホンダは何を目指すのか

◆新型コロナウイルス治療薬 なぜ日本企業は創れないのか

[特集2]

 経営者に贈る「イロとカネの危機管理」

ページ上部へ戻る