政治・経済

 先日、三和の法皇・渡辺忠雄の面影を慕って旧三和銀行の大阪本店に足を向けた。だが、既に建物は解体に備えてテント生地で覆い尽くされていた。

 この時、ある出来事の記憶が鮮明によみがえる。それは、サンスター歯磨の主力銀行が、住友銀行から三和銀行にスイッチした事件だ。背後には、渡辺の断があった。

 サンスターは昭和25年に誕生し、販路を塩野義製薬に託すかたちで、ライオン歯磨に次ぐ大手歯磨きメーカーへと成長していった。塩野義との関係から主力銀行は当初から住友。しかし、昭和44年に社長に就任した金田博夫は、2年ごとに繰り返される塩野義への流通対策販売手数料の改定に不満を募らせていた。結果、昭和50年初めに談判が決裂。〝駆け込み寺〟に三和銀行を選び、当時の会長、上枝一雄と面談し、名誉会長の渡辺の了解を取り付けるに至った。

 この頃、サンケイ経済部の財界金融記者だった筆者は、実力者・渡辺に会う努力を重ねていた。しかし、当時の調査部を通じても、東京拠点の渡辺に会うのは至難の業。秘書室にしばしば顔を出し、ひたすら面会を請う日々。やがて、のちの常務で秘書役・前田勉との対話途中、前田の元に渡辺の秘書嬢から、ある知らせが入った。

 すると前田は「渡辺がトイレに行きます」と筆者に目配せ。すかさず、秘書室の筋向いに走り、いわゆる〝連れション〟取材を敢行した。ときに渡辺は、「役員会に諮り、アクションを起こすよ」とポツリ。調べると、金田興産に次ぐ2位のサンスター大株主・塩野義の282万株は既に移動。直後に三和銀行が主取引銀行になるとの離れ業が演じられた。対住友との話し合いがどんな形で進捗したのか──。上枝は、「コメントは控える」と〝言わざる〟に徹し、サンスターも多くを語らなかった。

 渡辺は、日銀から転じてわずか2年で三和銀行の頭取に就任し、頭取・会長歴30年の間に、戦時経済下で壊滅的な打撃を受けていた三和を再建。旧財閥系銀行と肩を並べる都市銀行に育て上げた。中でも特筆すべき業績は、金融界の大衆化に先鞭をつけたこと。公的活動面でもその才覚が中央政財界での評価の対象になり、〝法皇〟と称された。

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