マネジメント

(もとえ・たいちろう)
1998年慶応義塾大学法学部法律学科卒業。01年弁護士登録(第二東京弁護士会)、アンダーソン・毛利法律事務所(現アンダーソン・毛利・友常法律事務所)勤務を経て、05年法律事務所オーセンスを開設。同年、法律相談ポータルサイト弁護士ドットコムを開設。代表取締役社長兼CEOを務める。

 

「労災認定=ブラック企業」「労災認定=過労死」という誤解

 流行語大賞にノミネートされるほど、すっかりお馴染みとなった「ブラック企業」という言葉。もともとは反社会的勢力とつながりを持つ企業を指す言葉でしたが、最近では、使う人によって定義がまちまちになっています。もっとも、言葉の定義がどうあれ、「ブラック企業」のレッテルを貼られることが、企業にとって脅威であることに変わりはありません。

 そこで今回は、「ブラック企業」という評価が、企業に与えるインパクトについて、労災認定のケースを参考にしながら考察します。

 最近、労働環境に関して「ブラック企業」「過労死」という言葉を用いた問題提起が多くなされるようになりました。その動きの中で、特に気になる1つが、「労災認定=ブラック企業」という、あたかも労災認定が使用者の過失・法令違反を基礎づけるかのような表現や、「労災認定=過労死」といった、死亡にかかわる労災認定はすべて過労が原因であるかのような表現が多く見られることです。

 確かに、そういうケースも中にはあります。ただし、労災認定は、使用者の過失・法令違反の有無で決まるものではなく、労災が認定されたからといって、使用者等の過失・法令違反が基礎づけられるわけではありません。

 実際、労災が認定された事案でも、被災労働者本人の基礎疾患や生活習慣、その他さまざまな要因が複雑に影響している場合が少なくないとされています。

 ですから、「労災認定=ブラック企業」、「労災認定=過労死」といった表現は、労災の認定プロセスに即したものとは言えず、誤解に起因した表現、あるいは、誤解を誘発する表現と見なせるのです。

「労災認定=ブラック企業」という誤解の弊害

 「労災認定=ブラック企業」との誤った認識が一般化していくと、労災認定の事案を発生させた企業が、評判の低下を恐れて労災認定に関する情報の公開を欲しなくなる可能性は高まると言えます。

 例えば、2011年に、「過労死企業名情報公開訴訟」が大阪で提起されました。

 この訴訟では、第1審の大阪地裁が、企業名の公開による評判の低下は抽象的な可能性にすぎないとして情報公開を命じる判決を言い渡したのに対し、第2審の大阪高裁は、情報公開を命じた地裁の判決を取り消しました。理由の1つとしては、前述したような労災認定に対する誤解があることに加えて、労災認定をした企業に対し商品不買運動や就職回避勧告をする者もいたことが挙げられます。

 この事例からも、もはや労災認定による評判の低下は抽象的な可能性にとどまらず、現実的な可能性として存在していることが分かります。

 また同様に、労災認定を受けた企業名の公開で、労災補償保険による「労働者の福祉」が阻害される恐れもあります。そもそも、労災補償保険の目的は次のとおりです。

 「業務上の事由又は通勤による労働者の負傷、疾病、障害、死亡等に対して迅速かつ公正な保護をするために必要な保険給付を行うこと等によって、労働者の福祉の増進に寄与すること」

 こうした労災保険の給付をスムーズに行うためには、労災認定プロセスを円滑に回すことが重要であり、それには企業側の調査協力(協力は任意)が欠かせません。

 にもかかわらず、「労災認定=ブラック企業」・「労災認定=過労死」というイメージが世間に定着していると、労災認定による評判の低下を恐れるあまり、企業が任意の調査に応じなくなる可能性が高まるのです。

 大阪高裁も判決の中で、企業名を公開することによる実務上のデメリットについて次のように指摘しています。

 「(前略)資料についても、そこに記載された意味内容については、事業場関係者に説明を受けなければ分からないことも多い。特に事業場関係者から聴取するについては、客観的な業務内容のほか、会社における人間関係、サポート状況、周囲からの支援の有無といった機微にわたる微妙な事項にも踏み込まなければならず、任意の説明を受ける必要性が高い。任意の事情聴取に応じてもらえず(中略)……調査権限の行使による場合は時間を要する上、任意の調査による場合に比べ、的確に情報を引き出すことは困難である。」

労災に求められる企業の真摯な対応

 大阪高裁の判決により、労災認定の企業名が公開される可能性も、そこから派生する不利益を企業が被るリスクも低減しました。ただし「労働者の福祉」という観点に立てば、やはり企業には、労災に対する真摯な対応が望まれます。高裁の判決がどうあろうとも、今こそ労災補償保険の手続きを忠実に履践することが求められているのです。

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