マネジメント

 建機の自動化や無人化など、ICTを活用した時代の最先端を行くイノベーションで業界をリードしてきたコマツ。だが、直近では中国をはじめとする新興国市場の成長鈍化や鉱山市場の低迷と、逆風に見舞われている。2016年3月期までの3カ年の中期経営計画の目標に掲げた18〜20%の営業利益率目標の達成が厳しくなるとの見方も出る中、どのように逆境を跳ね返そうとしているのか。大橋徹二社長に聞いた。

「自動化の最大の効用は安全性の向上」と語るコマツ社長 大橋徹二氏

大橋徹二

大橋徹二(おおはし・てつじ)
1954年生まれ。東京都出身。77年東京大学工学部卒業後、コマツ入社。82年6月から2年間米スタンフォード大学大学院に留学。生産畑を主に歩み、2004年コマツアメリカ社長兼COO、07年執行役員生産本部長、08年常務執行役員、09年取締役常務執行役員、12年取締役兼専務執行役員を歴任。13年4月より現職。

── 中国市場や鉱山市場が低迷気味です。事業環境としては決して良いとは言えないと思いますが、この時期にコマツがやっておくべきことは。

大橋 ご指摘のとおり、中国をはじめ新興国は調子が悪い状況です。直近の売上比率では日米欧の先進国が45%、それ以外の地域が55%となっています。2011年度までは、日米欧が35%程度だったので、10ポイントも新興国が落ちたということです。建設・鉱山機械は成長産業で鉱物資源も新興国に多いため、再び成長軌道に乗るのは間違いないですが、一時的に落ち込んでいます。そうした中、われわれとしては、あまり慌てずにやるべきことをきちんとやることが大事だと考えています。

 新興国市場はここ数年の販売の伸びが大きかったため、既に市場にかなりの配車台数があります。新車販売は景気動向が理由でスローダウンしていますが、現場にある機械は、ほぼフル稼働しています。このストックを使ったいろいろな派生ビジネスをきちんとバリューチェーン(価値の連鎖)に取り込み、お客さまを支えていくことが大事です。

── ストックを使ったビジネスとは、メンテナンスなどのことですか。

大橋 建設機械は生産財であり新車販売後もお客さまの現場を止めないため、機械のメンテナンスが大変重要となるビジネスです。エンジンをはじめとする主要コンポーネントのオーバーホールもあります。これらにリテールファイナンス、レンタル、中古車ビジネスをあわせたバリューチェーンの強化に取り組んでいます。需要のない所に無理に新車を販売しても、まずうまくいきません。シェア競争のために価格を下げるやり方からは10年以上前に訣別していますので、そのやり方に戻ることはありません。

 自社の大規模な構造改革については、坂根正弘現相談役が社長だった01〜02年ごろや、リーマンショックの後にも一部行ったわけですが、そういう大規模なものではなく、仕事のやり方のレベルを上げていくことで対応していきます。例えばマーケットと工場を直結して中間の仕事を省くなど、前向きな構造改革をやっていきたい。さらに、5年後、10年後のための種まきにも取り組んでいきます。

── これまで機械の自動化や無人化などICT活用で先行してきましたが、5年後、10年後起きるイノベーションとはどういうものになるのでしょう。

大橋 われわれのイノベーションの定義は「技術革新」ではなく、「お客さまに新しい価値を提供すること」です。そして、新しい価値は持続的でないと意味がない。技術革新は必要ですが、それだけだとガラパゴスになってしまいます。コマツは08年に世界で初めて無人ダンプトラック運行システムを市場導入していますが、町中で動いている建設機械の自動化の第1弾として、13年に世界で初めて自動ブレード制御機能搭載のICTブルドーザーを導入しました。道路工事などの現場では、一つひとつの工程の半自動化ができるようになりましたが、将来はその前後のお客さまの施工工程を含めた部分までサポートすることを手掛けていきたいと思います。これによりお客さまの現場の安全性が飛躍的に向上します。

 お客さまにとって大切な生産性はもちろん向上しますが、社会全体からみれば安全性の向上は最も重要です。日本では安全基準を高くすることで、作業中の事故や死亡者が過去40年でどんどん減ってきています。自動化を進めることで、その流れを後押しできると思います。

リードカスタマーがコマツを育てると語る大橋徹二氏

── そうした考え方は、長い生産現場の経験から培ってきたのですか。

大橋 そうですね。働く仲間がけがをすれば、本人だけでなくご家族も大変な状況になるというのを近くで見てきたので、絶対に事故はなくしたいと思っています。

大橋徹二── 今も生産現場には頻繁に顔を出しているのですか。

大橋 しょっちゅうですよ(笑)。国内、海外の生産工場、販売代理店、お客さまの現場にも行きます。昨年度は年間37拠点を回りました。30年以上生産現場にいたので、現場を見れば何が起きているか、すべて分かります。

── コマツアメリカなど海外経験が長いですが、海外では国内とは違った厳しさがあると思います。苦境を乗り切るための信条のようなものはありますか。

大橋 苦しい時はファクトファインディングをいかにするか、そのファクトを縦横斜めに考えて、整理して見える化することができるかどうかを重視します。それをみんなで共有できれば、改善案はどんどん出てくるものです。品質が悪いとか、在庫があふれているとか、問題の中身はさまざまです。現場に行って、現物を見て、原因は何なのかと何度も何度も見て整理していくと、現実が整理される。それを繰り返し行うことが大事です。原因を徹底敵に解析せずに、新しいロジックをパパっと組み立ててしまう人が多いのですが、それよりもファクトファインディングのほうが重要なのです。

 アメリカ駐在時代、品質問題が原因で鉱山事業が赤字に陥っていたのですが、一方でお客さまの支持もすごくありました。お客さまに話を聞くと、故障はするけど他のメーカー製ではできないことができる機械だと。それならば、想定以上の使い方をするお客さまに対応するために、開発時のテスト条件や基準をもう少し上げれば良いという結論にたどりつきました。品質問題と言うと、設計の誰かのせいだとか製造不具合とかという話にすぐなるんですが、クレームの中身を一つひとつ解析すると、原因はもっと深いところにあったりします。

── むしろ、顧客が技術革新を引っ張ってくれることもあるわけですよね。

大橋 まさにそうです。われわれだけでは、お客さまに新しい価値を提供することはできません。リードカスタマーとわれわれのイメージが合致して初めて可能になります。

── リードカスタマーは現場にとっては厄介な存在だったりしますが。

大橋 大事にしないといけません。われわれの理念である「コマツウェイ」は、3つの柱のうちの1つとしてブランドマネージメントを柱にしていますが、それは、お客さまにとってなくてはならない存在であり続けることです。お客さまの進歩・発展のイメージに、われわれが寄り添えないといけない。やはりリードカスタマーと一緒にブランドマネージメント活動をすることが非常に大きな意味を持ちます。

大橋徹二氏の信念 異質なものが混じっても価値観は共有するのがコマツ

── 人材育成の取り組みは。

大橋 定期採用に加えて、経験者採用も大切にしています。ユーザー側からコマツにいらっしゃった方、製造業以外からいらっしゃった方もいて、そういう方たちは目線が違うんですね。いろんな現場を経験されているので、指摘を受けて洩れているところに気づくことがあります。リーマンショックの後も、経験者は継続的に採用しました。

 経験者採用の中には、入社して1年か2年で、いきなり社内の技能競技大会のチャンピオンになった人もいます。前職では旋盤や機械加工の経験は全くなかったのに、大会で3連覇しました。彼に聞くと、機械を扱うのが非常に面白いと言うんです。結局モノづくりというのは、どんな分野でも似たようなものがあるのかなと。

── 一方で商品の自動化や無人化が進み、一方でそういう人材がいるというのが、組織として面白い気がします。

大橋 会社というのは、異質なものと混ざり合いながらレベルが上がっていくことが大事だと思います。ただし、コマツウェイという価値観だけは共有しようと。われわれの先輩方が築き上げてきた価値観や行動様式、信念というものは変わりません。ただ技術も進化するし、分野も変わってくるので、そこはチャレンジしようという精神です。

── 価値観の共有がコマツの強みだとすれば、逆に課題は何でしょうか。

大橋 どうしてもモノカルチャーになるのは否めないので、そこは何とかしたいと思います。そのために経験者採用も積極的に行っているし、世界のいろんな地域で見た情報や発想を取りこまなければいけないと考えています。技術についても、通信やソフトウエアなどの部分は、やはりアメリカのほうが日本よりはるかに進んでいるので、ここも力を入れなければいけません。

── 他社にとってコマツはベンチマークだと思いますが、社内に驕りは出ていませんか。

大橋 驕りはありませんが、13年10月時点で業績予想を下方修正した時には、やらなければいけないことが山ほどあると、みんな再認識しました。今の経済環境はアゲインストの風が吹いているのは間違いないのですが、ただ、そのぐらいのほうがみんながいろいろ考えて自分を磨いたり、会社を磨いたりするにはいいんじゃないかと思います。

── 中期経営計画の達成が厳しくなってきましたが。

大橋 中計の発表時からマーケットは厳しいと言ってきましたが、正直ここまで厳しくなるとは思っていませんでした。ただ、これが現実ですから今やるべきことを1つずつスピードを上げてやるという考えが、社内では共有されていると思います。

(聞き手=本誌編集長/吉田 浩 写真=森モーリー鷹博)

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