国際

 強い巨人が勝っても、楽天の優勝ほど感動できなかったろう。最後に投げたのはマーくん。

 一方、海の向こうの米国でも過去約40年で最悪の成績となった2012年を地区最下位で終えたレッドソックスがぐいぐい伸びてきて、最終的にはワールドシリーズも制覇した。最後に投げたのは上原。「コージ、コージ、ユエーハーラ」

 米国ではユエーハーラ、コージ、コージ、ユエーハーラと呼ばれてボストンのヒーローとなった。ボストンの私立探偵スペンサーシリーズの著者、ロバート・B・パーカーは10年に他界してしまったが、彼の日課は奥方によると、

 He got up, enjoyed breakfast and the paper, wrote 10 pages a day, and watched Red Sox games into the night.

 〈起きて朝食を楽しんで新聞を読むと10ページほど書いてから夜までレッドソックスの試合を見ていました〉 とのことで、彼のスペンサーシリーズには「失投(Mortal Stakes)」というレッドソックスが舞台となる事件まである。今回の優勝と上原の活躍を見てから死ねば良かったのに、とロバート・B・パーカーのファンは悔やんでいることだろう。

 さて、レッドソックスの優勝には、昨年映画化され、今や日本でも知られる存在になっているノンフィクション「マネー・ボール」に描かれているアスレチックス(Oakland Athletics)のビリー・ビーンGMの採用した理論が関係しているようだ。札束で絶好調の選手を掻き集める、という方法ではない。これまで注目されてこなかったデータを用いて選手補強をする、という戦略、統計学上のデータから選手を分析する手法「セイバーメトリクス」である。セイバーメトリクスとは、野球ライターで野球史研究家・野球統計の専門家でもあるビル・ジェームズによって1970年代に提唱されたもので、米国野球学会の略称SABR(Society for American Baseball Research)と測定基準(metrics)を組み合わせた造語である。

 最下位となったレッドソックスは、高額な長期契約を減らす一方、流動性や安定性、若手への投資を重視するように舵を切った。チームのポートフォリオを根本から作り直したのである(the Red Sox radically restructured the team’s portfolio)。シーズン終了を待たずにチーム再建に動き出し、エイドリアン・ゴンザレス一塁手ら高額選手を放出し、年俸負担額を総額2億5千万㌦(約245億円)ほど圧縮した。

 レッドソックスのベン・チェリントンGMは、ロサンゼルス・ドジャーズとの大型トレード(The mega-swap with the Los Angeles Dodgers)によって自由になった資金を使い、より安定的かつ低コストの選手を獲得することができた。上原浩治投手も安かった1人だ。しかも、契約期間も上原が1年(55試合の登板で2年目は自動更新)などと短く設定されている。ベテランとなった主砲デービッド・オルティスとは2年の契約延長で済ませた。そんなこんなで今シーズンは新たな契約コストを半分に抑える一方、勝ち星は40%増やし、結果を出した。この上原、良い買い物だった。地区優勝、地区シリーズ、リーグ優勝決定シリーズ、ワールドシリーズの常に大事な局面で登板し、試合を決める最後の打者を空振り三振で締めくくった。 オバマはレッドソックスのファレル監督にお祝いの電話をかけた。そして上原の活躍を褒めそやしたのである。

 “Turned out to be a gift that kept on giving,”

 〈次から次へと贈りものをとどけてくれるギフトに化けた〉 と上原を評した。

 “That guy was incredible.”

 〈あの男は、信じられない存在だった〉

 そしてオバマは監督にこう言い置いた。

 “Enjoy yourself.

 〈楽しんで〉

 Get a little bit of rest.

 〈ゆっくりして〉

 I know you probably already have to think about next season, but let it soak in a little.”

 〈まあ、あなたはもう次のシーズンに思いを馳せているでしょうが、まあここは勝利に浸ってください〉

 ワールドシリーズ勝者への大統領からの電話は恒例で、優勝チームはホワイトハウスに招かれる。時期は来年3月31日にボルティモアで行うオリオールズとの開幕戦前後になる見通しだ。上原はオバマ大統領と対面することになる。

 

[今号の英語]ring a bell
 頭の中でベルが鳴る、ということで、ピンとくる、という意味で使う。
 “Does it ring a bell?”
 〈何かピンとくるかい?〉 などなど。
 カリフォルニアのスポーツライター、デイビッド・ビーンは書いている。
 “Where were you on Dec.18, 2012, when the 2013 major league baseball season was decided?”
 〈あなたはメジャーリーグの次シーズンが決定された2012年の12月18日にどこにいましたか?〉
 “You know, the day the Red Sox signed Koji Uehara.”
 〈つまりその日こそ、レッドソックスが上原浩治と契約した記念すべき日なのです〉
 “Doesn’t ring a bell?”
 〈ピンときませんか?〉

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