国際

メルケル独首相のプライベート携帯の盗聴疑惑も浮上

9.11テロによるビル崩壊跡に建設中の新世界貿易センターは完成が近いが、対テロの情報活動は続いている(写真:津山恵子)

9.11テロによるビル崩壊跡に建設中の新世界貿易センターは完成が近いが、対テロの情報活動は続いている(写真:津山恵子)

 元国家安全保障局(NSA)職員、エドワード・スノーデンが、英米メディアにもたらした文書で明らかになった、NSAなど米情報機関による通信の傍聴システム問題が新たな展開を見せ、先行きが読めなくなっている。ドイツなど同盟国首脳の通信を盗聴していた疑惑まで報道され、米オバマ政権は、「火消し」に必死だ。

 10月下旬開かれた欧州連合(EU)首脳会議では、ドイツのアンゲラ・メルケル首相などを中心に、米国の情報収集活動に対する批判が高まった。携帯電話で話している姿がよく見られるメルケル首相は、プライベートの携帯が傍受されていた疑惑が報道されたからだ。

 ドイツのメディアは、メルケル首相の電話盗聴は2002年から始まり、しかも、オバマ大統領はその盗聴活動を認識していたと報じた。米政府はこれを否定している。また、英紙ガーディアンは、米国が世界の35人もの指導者の電話番号を手に入れ、盗聴していたと報じている。

 米国は、シリアの化学兵器使用をやめさせるための介入問題などで、リーダーシップのなさを露呈したが、再び、同盟国をはじめとした各国の信頼を危うくしたことになる。

 米国内も、盗聴問題で揺れている。

 米紙ワシントン・ポストは、NSAが、インターネットサービス大手グーグルとヤフーの通信網に不正にアクセスし、利用者の情報を大量に把握していると伝えた。スノーデンがリークした文書の日付は今年1月9日で、両社のデータを、NSA本部があるメリーランド州の倉庫に集めていた。しかも、その文書には「スマイルマーク」まで書き込まれ、両社のデータを得たことが「手柄」とされていた可能性も明らかになった。

 NSAの傍聴問題が夏に報道されて以来、グーグルなどインターネットサービス企業は、NSAに協力していないことを強調し、利用者の信頼を取り戻そうとしてきた。

 しかし、NSAが秘密裏に通信網に侵入していたのでは、防ぎようがなく、グーグル、ヤフーの両社は激しい抗議声明を出した。

 「いかなる政府機関にもわが社のシステムへのアクセスを許可したことはなく、政府が、会社保有のプライベートな光ファイバーを傍聴していた可能性に、激怒している。改善を求む」(グーグル)

 「データセンターは厳しいアクセス制御をしており、NSAにもどんな政府機関にも、アクセスを許してはいない」(ヤフー)

 これを受けて、ジョン・ケリー国務長官は、10月31日記者会見で、「行き過ぎがあった」と認めた。ただ、事実関係を認めたわけではない。

 「オバマ大統領と私は、いくつかのケースで、自動的なデータ回収が行われていたことを理解した。技術的に可能だったからだ」と同長官。外交担当のケリー長官は、ドイツなど同盟国や各国との関係修繕のため、欧州や中東訪問まで引き受けた。しかし、監視システムを弁護することも忘れてはいない。

 「01年9月11日の同時多発テロ以降、私たちは喜んで自爆する人々がいることを思い知らされた。それを事前に知ることができたら、どうなるか。(事前に知るための情報活動によって)私たちはこれまでに、飛行機が墜落したり、ビルが崩壊したりするのを何度も防いできた前例がある」とも話している。

 ホワイトハウスはこれに先立ち、NSAの監視システムの範囲を見直す方針を発表。さらに、上院では、米国内について通信傍聴を規制する法案が議論されている。

G20開催のロシアにも疑惑の目が向けられている

 さらに、米国以外の国まで「スパイ」をしている疑惑が浮上した。

 欧州委員会(EC)は10月30日、9月にロシアのサンクトペテルブルクで開かれた主要20カ国・地域(G20)首脳会議で、主催国ロシアから各国代表に贈られた携帯電話の充電器やUSBメモリについて、安全上の問題がないか検査していることを明らかにした。

 ECのフレデリック・ヴァンサン報道官が、当局がロシアからの贈答品について調査していることを認めた。AFP通信によると、「現在までのところ、ハードとソフトの分析では深刻なセキュリティー上の懸念は見つかっていない。ただし、贈り物が100%安全だと結論付けるのは、まだ早過ぎる」とした。

 出口が見えない情報活動の競争が、一般市民の想像を超えた規模で行われている。しかし、スノーデンがNSAから盗み出した文書によって、その姿が徐々に明らかになり、9・11後に様変わりした情報活動の世界で、最大のスキャンダルとなった。今や、外交や経済の分野にまで影を落としているが、どこまで広がるのか、今後米国がどういった方針を取るのかはいまだに不透明だ。

 

津山恵子氏の記事一覧はこちら

経済界電子版トップへ戻る

関連記事

好評連載

グローバルニュースの深層

一覧へ

習近平政権下の中国経済と新時代の到来

[連載] グローバルニュースの深層

グローバルニュースの深層

[連載] グローバルニュースの深層

原油事情に関するロシアの分析

[連載] グローバルニュースの深層

プーチン露大統領の内外記者会見

[連載] グローバルニュースの深層

中間選挙後の米国を展望する

[連載] グローバルニュースの深層

中国を制するものは世界を制す

変貌するアジア

一覧へ

鴻海によるシャープ買収のもう1つの狙い

[連載]変貌するアジア(第37回)

変貌するアジア

[連載]変貌するアジア(第36回)

SDRの一翼を担う人民元への不安

[連載]変貌するアジア(第33回)

開催意義不明の日中韓首脳会議

[連載]変貌するアジア(第32回)

朱立倫の総統選出馬と台湾海峡危機

津山恵子のニューヨークレポート

一覧へ
無農薬野菜

[連載] 津山恵子のニューヨークレポート(第20回)

CESの姿が変わる花形家電よりもネットワークに

[連載] 津山恵子のニューヨークレポート(第19回)

米・キューバ国交回復のインパクト

[連載] 津山恵子のニューヨークレポート(第18回)

クリスマス商戦に異変! 店舗買いが消え行く

[連載] 津山恵子のニューヨークレポート(第17回)

格差問題が深刻化する米国―教育の機会格差解消にNY市が動き出す

ビジネストレンド新着記事

注目企業

一覧へ

不動産のノウハウや技術を生かしサステナブルインフラへ―いちご

現存の不動産に新しい価値を創造する「心築(しんちく)事業」とJ‐REIT運用、太陽光などのクリーンエネルギー事業が主力。社名の「いちご」は一期一会に由来しており、サステナブルインフラを通じて日本の社会を豊かにすることを目指している。文=榎本正義(『経済界』2019年9月号より転載) 長谷川拓…

次世代車向け先進技術を応用する日本発プラットフォーマー ―イーソル

社員に奨学金を提供―ミツバファクトリーが実践する中小企業が勝つための福利厚生とは

新社長登場

一覧へ

「若者需要の開拓でビール市場を盛り上げていく」塩澤賢一(アサヒビール社長)

アサヒグループ食品の副社長から、この3月にアサヒビールの社長に就任した塩澤賢一氏。長年、ビール営業畑を歩み、マーケティングを兼ねた繁華街歩きを趣味にしている。街の変化から世の中の流れを読む塩澤新社長が挑むのは低迷するビール市場の活性化。若者需要を伸ばしつつ、スポーツイベントを商機として攻勢をかけていく。聞き手…

「事業部門の連携を活性化させ営業利益100億円を目指す」 内藤宏治(ウシオ電機社長 )

地域に根差した証券会社が迎えた創業100周年―藍澤卓弥(アイザワ証券社長)

イノベーターズ

一覧へ

シリコンバレーへの挑戦が生んだ「起業家と投資家が待ち望んだサービス」― 戸村光・ハックジャパンCEO

起業家のスタンスとして、画期的な技術やビジネスモデルを社会で活かすことを目的としたイノベーション先行型もあれば、社会課題解決を最優先とし、そこに必要な技術やノウハウを当てはめていくやり方もある。ハックジャパンCEOの戸村光氏の場合は後者。対象となる課題は「身の周りの気付いたことすべて」だ。(取材・文=吉田浩)…

「測量美術」が起こす道路工事のイノベーション―草木茂雄・エムアールサポート社長

IT化で変革する産業廃棄物処理の世界―福田隆(トライシクルCEO)

大学の挑戦

一覧へ

専門分野に特化した“差別化戦略”で新設大学ながら知名度・ブランド力向上を実現――了徳寺大学・了徳寺健二理事長・学長

2000年設立で、了徳寺大学が母体のグループ法人。医療法人社団了徳寺会をグループ内に持つ。大学名の「了」は悟る、了解する、「徳」は精神の修養により、その身に得た優れた品性、人格を指す。「了徳寺」は人間としての品性、道を論す館の意味を込めた大学名だ。 聞き手=本誌/榎本正義 、写真/佐々木 伸 …

大学の挑戦

創立100周年、西南学院大学・K.J.シャフナー学長「世界に貢献しインパクトを与える人材を育てる」〜国際交流・就職支援・インターネット出願〜 

「“STAND BY YOU”のスローガンの下、学生一人ひとりに寄り添う教育を」――中央学院大学・佐藤英明学長

経済界からのお知らせ

最新号のご案内

経済界2019年9月号
[特集] 東京五輪以降──ニッポンの未来
  • ・2度目の東京五輪 今度はどんなレガシーが生まれるのか
  • ・高岡浩三 ネスレ日本社長兼CEO
  • ・脱CO2の切り札となる水素活用のスマートシティ
  • ・五輪契機にテレワーク普及へ「柔軟な働き方でハッピーに」
  • ・ワーケーション=仕事×余暇 地域とつながる新しい働き方
  • ・「ピッ」と一瞬で決済完了! QRしのぐタッチ決済の潜在力
  • ・東京五輪で懸念される調達リスク
  • ・フェアウッド100%使用にこだわる佐藤岳利(ワイス・ワイス社長)の挑戦
[Special Interview]

 原田義昭(環境大臣・内閣府特命担当大臣)

 世界の脱炭素化、SDGs「環境」が社会を牽引する

[NEWS REPORT]

◆フェイスブックの「リブラ」で仮想通貨も「GAFA」が支配

◆脱炭素社会へ 鉄リサイクルという光明

◆PBの扱いを巡り業界二分 ビール商戦「夏の陣」に異変あり

◆中国の次は日本に矛先? トランプに脅える自動車業界の前途

[特集2]

 北の大地の幕開け 北海道新時代

・ 鈴木直道(北海道知事)

・ 岩田圭剛(北海道商工会議所連合会会頭)

・ 安田光春(北洋銀行頭取)

・ 笹原晶博(北海道銀行頭取)

・ 佐々木康行(北海道コカ・コーラボトリング社長)

・ 會澤祥弘(會澤高圧コンクリート社長)

・ 佐藤仁志(北海道共伸特機社長)

・ 内間木義勝(ムラタ社長)

ページ上部へ戻る