文化・ライフ

 一年の計は元旦にあり」ということで、元日に今年の計画を立てた方も多いと思います。ですが、あまり壮大な目標を掲げると逆効果になることが実験で明らかになっています。米ハーバード大学で教授を務めたマクレランド博士は、被験者に輪投げをさせ、モチベーションを調べる実験を行いました。実験では、的(マト)までの距離を被験者に自由に選ばせたのですが、結果、簡単に入る至近距離で輪を投げた人と、全く入りそうにない遠距離から投げた人のモチベーションが、「同等レベルで低い」というデータが得られたのです。一方で、最もモチベーションが高かったのは、達成確率が60%の中間距離で投げた人。要は、ヤル気を高めて成功を勝ち取ろうとするならば、達成確率が60%程度の目標を立てるのが適切ということです。

 達成困難な目標に挑戦するというのは、一見、自分に厳しいような気がしますが、実は心の奥底で自分を甘やかしているにすぎません。輪投げの場合でも、あまりにも遠距離から輪を投げると外して当然と思えるので、失敗しても自分のプライドは守れます。そのため、本当の意味でのチャレンジ精神を発揮しようとせず、心理的にはラクをしているわけです。

 実は今、こうした心理状態の中で、会社に行かなくなる若い世代が増えており、私たち心療内科医の間で問題視されています。要するに、「起業して大金持ちになる」、「日本を動かす大物になる」など、実態の伴わない壮大な目標を立て、一方で、相応の努力をするわけでもなく、逆に、社員としての最低限の義務さえ果たせないような若者が増えているのです。本人も自分の勤務態度がよくないのは承知です。ですが、「大金持ちになる」「大物になる」といった目標が達成できない点では、「真面目に勤務するのも、サボるのも同じ」といった理屈を成立させているわけです。そんなふうに現実味の乏しい目標の影に隠れて目の前の努力を怠り、プライドと自己愛だけを膨らませた結果、いわゆる「現代型うつ」を発病してしまうケースもあります。

 壮大な目標を立てると気分がいいものです。ですが、そこには深刻な副作用が潜んでいるのです。

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