政治・経済

自然と共生する町づくり 幼鳥3羽、順調に育つ水辺環境再生へ

 国の特別天然記念物コウノトリを飼育し始めて3年目の2014年度、福井県越前市の飼育・繁殖活動は大きな節目を迎えた。同年6月にふ化が確認され、県内で50年ぶりに3羽の雛が誕生したためだ。15年度には放鳥を目指し、野生復帰と繁殖・定住へ向けた新たな段階に入る。里山の保全や環境教育の推進など、官民協働の輪がさらに広がり、「コウノトリが舞う里づくり」に拍車が掛かる。

 越前市は人口8万4千人、嶺北地方の中南部にある自然豊かな中堅都市だ。市の中心部から車で20分、周辺を低い山で囲まれた白山地区で、つがいのコウノトリの飼育が始まったのが11年12月。

 コウノトリの産卵期は冬場。2年連続して産卵したが、いずれも無精卵でふ化しなかった。そこで兵庫県から取り寄せた卵から14年6月に雛3羽が誕生。親鳥の給餌で幼鳥は順調に育ち、10月には500メートル離れた新居に移った。雄2羽は「げんきくん」、「ゆうきくん」、雌1羽は「ゆめちゃん」と名付けられ、放鳥へ向けた活動が始まった。

 いったん絶滅したコウノトリを野生に復帰させるには、餌となる生き物が豊富な環境が重要だ。越前市は、コウノトリが住む地域は人と自然が共生し生物多様性が保全される環境下にあるととらえ、現代の暮らしと生き物が調和した町づくりを推進している。

 取り組みは12年12月に作った「コウノトリが舞う里づくり」戦略に沿って繰り広げている。戦略を具体化する実施計画は数値目標を掲げた野心的なもので、対象期間は15年度までの5カ年間だ。計画は3つの柱で構成している。

 ひとつは里地里山の保全再生だ。推進室の三好栄室長は、「コウノトリが住む里地の水辺環境を整え、それを涵養する里山の保全活動が重要」と話す。1日に500グラムもの餌を食べるだけに、広大な餌場環境の再生が必要という。

コウノトリが舞う環境づくりへ。魚道などの整備が進む(越前市で)

コウノトリが舞う環境づくりへ。魚道などの整備が進む(越前市で)

 スタッフの藤長裕平さんは「水田に魚や小動物を呼び戻す魚道づくりや堰上げ水路の整備、生き物が暮らすビオトープづくりに努めている」と話を引き継ぎ、15年度までに魚道40カ所とビオトープ5ヘクタールを整備するのが目標だと説明した。

 親鳥の飼育現場に近い水田を見学すると、藤長さんが突然、堰上げ水路にかがみ込み、たも網を水中に入れた。網の中にはドジョウやカニ、小魚が入っており、水辺環境の再生ぶりを実感できた。

 官学民が協力してドジョウの養殖事業も行っている。市と大学がドジョウの幼魚を育て、それを地元住民が養殖するもので、14年度の養殖数は1万匹に達する。これも水辺環境の再生事業の一環だ。

有機栽培米をブランド化名物イベント「ごはん塾」

 2つ目は生き物と共生する環境調和型農業の展開だ。農薬を50%以上減らし化学肥料を使わないなどの認証米は14年度に市全体で440ヘクタールに上り、エコファーマーは2400人を超す。冬に水を張って生き物を育む「冬水たんぼ」は365ヘクタールに及び、県内シェア56%と第1位を占める。

 白山地区の水田では地元農家が無農薬無化学肥料の有機栽培「コウノトリ呼び戻す農法」に力を注いでいる。労力がかかるのが難点とはいえ、09年に4人の農家が2・4ヘクタールで始めたこの農法が14年度には23人、12ヘクタールに広がった。

 長年の繁殖活動でコウノトリの野生数が80羽を超す兵庫県豊岡市の中貝宗治市長は、「コウノトリは地域経済を支える」が持論だ。その根拠として、(1)環境配慮型稲作の広がりと高値取引(2)観光客の増加──などによって年10億円以上の経済効果が生まれていると指摘する。同様の効果を越前市も期待している。

 既に「コウノトリ呼び戻す農法米」をブランド化したほか、有機農業米で作った純米吟醸酒や羽二重モチなどの新商品も開発済みだ。JAなど経済界は、農産物のブランド化を急ぐことで地域経済を潤したいと意欲を燃やす。

 第3は環境教育の推進だ。小学校への出張講座、里山の生き物調査、稲作の体験、ふるさとを描く図画コンクールなどが催され、住民と消費者の交流会もよく開かれる。

 4、5歳児と保護者を対象に各地区で開く「ごはん塾」は、かまどでご飯を炊きつつ、食育に役立てるイベントだ。毎回、100人以上が参加する名物イベントに育ってきた。

 白山地区を舞台に活動する市民らの支援の輪が、ここへきて一段と広がってきた。「水辺と生き物を守る農家と市民の会」、「田んぼファンくらぶ」、「コウノトリ見守り隊」などの活動がそれだ。自然と地域文化を守り、小さくともピカリと光る里山づくりがコウノトリを核に盛り上がる。

 

【地域が変えるニッポン】の記事一覧はこちら

雑誌「経済界」定期購読のご案内はこちら

経済界電子版トップへ戻る

関連記事

好評連載

深読み経済ニュース

一覧へ
一般社団法人かぎろい出版マーケティング代表 西浦孝次氏

[連載] 深読み経済ニュース解説

2015年の経済見通し

[連載] 深読み経済ニュース解説

再デフレ化に突入し始めた日本経済

[連載] 深読み経済ニュース解説

消費税率引き上げ見送りの評価と影響

[連載] 深読み経済ニュース解説

安倍政権が解散総選挙を急ぐ理由

実録! 関西の勇士たち

一覧へ

稀有のバンカー、大和銀行・寺尾威夫とは

[連載] 実録! 関西の勇士たち(第20回)

実録! 関西の勇士たち

[連載] 実録! 関西の勇士たち(第17回)

三和銀行の法皇・渡辺忠雄の人生

[連載] 実録! 関西の勇士たち(第14回)

住友の天皇・堀田庄三の人生

[連載] 実録! 関西の勇士たち(第11回)

商売の神様2人の友情 江崎利一と松下幸之助

[連載] 実録! 関西の勇士たち(第7回)

関西財界の歴史―関経連トップに君臨した芦原義重の長期政権

ビジネストレンド新着記事

注目企業

一覧へ

売上実績トップ企業に聞く「住宅リフォームの最新トレンドと課題」―榎戸欽治・ニッカホーム会長

素人にはなかなか分かりにくい住宅リフォームの世界。最近の業界動向と事業戦略について、売り上げ規模で全国ナンバーワンを誇るニッカホーム創業者の榎戸欽治会長に聞いた。(聞き手=吉田浩)榎戸欽治氏プロフィールリフォーム業界におけるニッカホームの競争力水廻りと木工事を絡めた中型リフ…

榎戸欽治・ニッカホーム会長

家族葬のファミーユが目指す「生活者目線で故人に寄り添う」葬儀の形

不動産のノウハウや技術を生かしサステナブルインフラへ―いちご

新社長登場

一覧へ

カリスマ創業者の後任として描く「新しいマネックス証券像」― マネックス証券社長 清明祐子

2019年4月、国内インターネット専業証券で初の女性社長が誕生した。創業者であり、カリスマ社長と呼ばれた松本大前社長から後任を託されたのが清明祐子氏。清明氏は09年にマネックスグループに入社し、子会社社長やグループ役員を経て、マネックス証券の社長に就任した。清明社長はカリスマの後任としてどんな会社をつくってい…

マネックス証券社長 清明祐子

「若者需要の開拓でビール市場を盛り上げていく」塩澤賢一(アサヒビール社長)

「事業部門の連携を活性化させ営業利益100億円を目指す」 内藤宏治(ウシオ電機社長 )

イノベーターズ

一覧へ

シリコンバレーへの挑戦が生んだ「起業家と投資家が待ち望んだサービス」― 戸村光・ハックジャパンCEO

起業家のスタンスとして、画期的な技術やビジネスモデルを社会で活かすことを目的としたイノベーション先行型もあれば、社会課題解決を最優先とし、そこに必要な技術やノウハウを当てはめていくやり方もある。ハックジャパンCEOの戸村光氏の場合は後者。対象となる課題は「身の周りの気付いたことすべて」だ。(取材・文=吉田浩)…

戸村光・ハックジャパンCEO

「測量美術」が起こす道路工事のイノベーション―草木茂雄・エムアールサポート社長

IT化で変革する産業廃棄物処理の世界―福田隆(トライシクルCEO)

大学の挑戦

一覧へ

専門分野に特化した“差別化戦略”で新設大学ながら知名度・ブランド力向上を実現――了徳寺大学・了徳寺健二理事長・学長

2000年設立で、了徳寺大学が母体のグループ法人。医療法人社団了徳寺会をグループ内に持つ。大学名の「了」は悟る、了解する、「徳」は精神の修養により、その身に得た優れた品性、人格を指す。「了徳寺」は人間としての品性、道を論す館の意味を込めた大学名だ。 聞き手=本誌/榎本正義 、写真/佐々木 伸 …

大学の挑戦

創立100周年、西南学院大学・K.J.シャフナー学長「世界に貢献しインパクトを与える人材を育てる」〜国際交流・就職支援・インターネット出願〜 

「“STAND BY YOU”のスローガンの下、学生一人ひとりに寄り添う教育を」――中央学院大学・佐藤英明学長

経済界からのお知らせ

最新号のご案内

経済界2019年12月号
[特集] 沸騰する食ビジネス!!
  • ・食ビジネスが熱い!! 未来型食品が社会課題を解決する
  • ・市場規模70兆円! 食ビジネスが過熱するわけ
  • ・完全バランス栄養食で誰もがラクして健康になれる
  • ・人工光型植物工場で世界の食と農に新しい常識を
  • ・宇宙食ビジネスで勝ちに行く 10年後に5千億円市場創出へ
  • ・“大人の給食”で栄養の基盤をつくる
  • ・人工肉で糖質制限者に無制限のおいしさを
  • ・テクノロジーで高品質なジビエ調達が可能に
  • ・昆虫食ビジネスの時代到来
[Special Interview]

 伊藤秀二(カルビー社長)

 掘り出そうカルビーの未来

[NEWS REPORT]

◆エンジニアへの高額給与で 富士通は生まれ変われるか

◆豊田章男・自工会会長が挑む東京モーターショー100万人

◆消費増税で現金主義は終焉 キャッシュレス時代が到来した

◆加速するeスポーツ市場! インテルが東京で世界大会を開催

[総力特集]

経済界創刊55周年記念 新しい日本のかたち

東京1964からの55年と東京2020以降の日本の姿

ページ上部へ戻る