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筆者プロフィール
(よねやま・きみひろ)作家、医師(医学博士)、神経内科医。聖マリアンナ大学医学部卒業。1998年2月に同大学第2内科助教授を退職し、著作活動を開始。東京都あきる野市にある米山医院で診察を続ける一方、これまでに260冊以上を上梓。講演会、テレビ・ラジオ出演、テレビ番組企画・監修も行っている。NPO日本サプリメント評議会代表理事、NPO日本プレインヘルス協会理事。
薬の副作用① 高齢になると……
70歳を超えると、高血圧症や糖尿病、高尿酸血症、脂質異常症などがあり、1回に10種類近くの薬を飲んでいるケースが少なくない。このように、たくさんの薬を同時に服用していると、副作用が出たときに、病気による症状との判別が難しくなる場合がある。そこで今回は、「見落としやすい薬の副作用」をいくつか挙げてみたい。
薬の副作用② 脚がむくむ
降圧薬の「カルシウム拮抗薬」という種類の薬では、副作用で脚のむくみが出る場合がある。仮に、脚のむくみが、こうした薬の副作用であるならば、薬を切り替えることで問題は解決する。だが、一般の内科診療では、診療のたびに脚がむくんでいるかどうかは調べないし、患者本人も多少のむくみがあっても医師に言うことはあまりない。また、たとえ医師に伝えたとしても、「年齢的なものですかね」(つまり原因不明)と言われ、そのままにされてしまうこともある。そのため、脚のむくみは薬の副作用として見落とされるケースが少なくないのだ。
薬の副作用③ 下痢になる
胃炎や胃潰瘍、そして逆流性食道炎といった病気には、「PPI」と呼ばれる種類の抗潰瘍薬が使用される。
仮に、PPIの服用後に下痢の症状が現れたとしても、医師は、胃薬であるPPIを飲んで下痢になるとは思わず、大腸に病気があるのではないかと検査を繰り返すことになる。だが、薬の服用でこれまでにない症状が現れた場合には、まずは飲んでいる薬の副作用を疑うべきなのだ。
薬の副作用④ 尿が出ない
高齢の男性は、前立腺肥大になっても、あまり症状がはっきりしないので、そのまま症状を放っておく場合がある。そのようなときに、風邪薬を飲むと、尿閉(尿が出なくなること)が起きる。尿閉は非常に辛い症状で、救急病院で膀胱まで管を差し入れ、尿を出すしか治療法はない。よって、高齢者は安易に風邪薬を飲まないほうがいい。
薬の副作用⑤ あごの痛み、不正出血
骨粗鬆症の薬である「ビスホスホネート」という系統の薬を使っていると、骨壊死のリスクが高まり、顎の関節痛が起きる場合がある。いったんこの症状が起きると、非常に治りにくく、薬を中止するしか治療の方法はない。
この副作用は非常に有名だが、患者が骨粗鬆症の薬を飲んでいることを忘れていることもあり、副作用が見落とされたり、副作用に気付くのが遅れたりする場合がある。
一方、高齢の女性が不正出血を起こし、婦人科で診察を受けたところ、子宮がんによるものと診断され、他の病院に手術目的で回されたが、その病院でも手に負えず、さらに別の病院に回されたところ、そこの医師が骨粗鬆症の治療薬による副作用と気付き、誤った手術にならずに済んだという事例がある。このように、医者がすべての薬の副作用を理解しているとは限らないので注意が必要だ。
薬の副作用⑥ 幻覚、発作的睡眠
認知症の患者が風邪をひき、予防的な投薬として抗菌剤を投与され、幻覚が引き起こされる場合がある。抗潰瘍薬も同様の副作用があるが、幻覚は認知症の合併症としても多く見られる。そのため、医師が薬の副作用に気付かず、投薬を続けてしまったり、幻覚を抑える薬を追加で処方したりする危険性があるのだ。
一方、パーキンソン病の患者で症状が悪化すると、さまざまなタイプのパーキンソン病治療薬が追加される。だが、パーキンソン病の治療薬は副作用が出ることが多く、副作用による症状なのか、それとも病気の進行によるものかの診断に迷う場合が少なくない。
したがって、担当医師は、「薬を追加してから寝てばかりいるんです(発作的睡眠の症状)」といった家族の言葉を真摯に受け止め、副作用を見逃がさないようにするのが大切だ。
薬の副作用⑦ 下痢止めによるショック
これは、実際に起きた症例だが、牛乳アレルギーの患者が下痢止めの「タンニン酸アルブミン」を飲み、ショック症状を起こしたケースがある。タンニン酸アルブミンに含まれるタンパク質は牛乳に含まれるカゼインと同じだ。そのため、牛乳アレルギーがある人は、この種類の下痢止めには注意が必要なのである。
以上に示した副作用は、決して特殊な症状ではなく、同様の症状が出ても、薬の副作用だと気付かれない場合がまだまだ多い。
新たに処方された薬を飲み、いつもと異なる症状が出た際には、すぐに主治医に相談すべきである。
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