
(もとえ・たいちろう)
1998年慶応義塾大学法学部法律学科卒業。01年弁護士登録(第二東京弁護士会)、アンダーソン・毛利法律事務所(現アンダーソン・毛利・友常法律事務所)勤務を経て、05年法律事務所オーセンスを開設。同年、法律相談ポータルサイト弁護士ドットコムを開設。代表取締役社長兼CEOを務める。
不祥事対応の原則 その1 タカタ事件の例
最近、タカタの米国子会社が製造したエアバッグに不具合が見つかり、極めて深刻なリコール問題へと発展しつつあります。
この不具合でリコール対象になった自動車の台数は、日本国内だけで319万台強に上り、日米欧全メーカーのリコール対象台数は3千万台にも及ぶとされています。ではなぜ、事態はここまで大きな騒動に発展してしまったのでしょうか。
まずは、この事例を踏まえながら、不祥事対応の在り方について考察します。
タカタ社は、今回の一連の騒動が起きた当初、米国運輸省・高速道路交通安全局に対して、「リコールは自動車メーカーが実施すべき」との書簡を送付したと言われています。要するに、同社は、不祥事発覚後すぐに、「自らリコールを実施しないことに関して法的な責任を負わない」と明言したわけです。
確かに、日本法上、リコールの実施責任は自動車製作者等にあるとされ、その観点から言えば、タカタの主張は正当と言えます。
ただし、同社のやり方で問題だったのは、書簡を送った時点では、自社製品の不具合に関する原因を突き止めていなかったということです。つまり、問題に関する十分な事実調査をせずに、「リコールの実施には関与しない」とのスタンスを示してしまったということです。
これは、たとえ法的に正当な行為であっても、リスク・マネジメントの観点からすると少々危険な行動です。
なぜならば、この種の不祥事対応は、消費者から「無責任で、保身的」と見なされ、反感を買う恐れが強く、不買運動にもつながりかねないからです。事実、タカタ事件においても、不買運動が起こりつつあるとの報道が散見されています。
ですから、不祥事を起こした企業の経営者は、法令のみならず、社会的要請にもしっかりと従うことを忘れてはならないのです。
また、事実調査の徹底によって、自社が負うべき責任の範囲はどこか、あるいは、どの程度の損害賠償責任を負わされる可能性があるかなど、今後の行動の指針になる情報が把握できます。その意味でも、不祥事の発生時には、まずは事実調査を徹底的に行うことが肝心なのです。
不祥事対応の原則 その2 ダスキン事件の例
もっとも、事実調査の徹底と言っても、「果たして、どのような調査を行えばいいのか」で迷うことがあるかもしれません。
それを考える上で参考になるのが、ダスキン事件における大阪高裁の判決です。
この事件では、ダスキンがフランチャイズ経営するミスタードーナツにおいて、未認可食品添加物の混入した「肉まん」が販売されていたことが判明。それに対する役員の事後対応が問題になりました。
大阪高裁は、役員の事後対応について次のように指摘しています。
「(前略)『大肉まん』はミスタードーナツでは元来は蒸した状態で販売される商品であり、販売後長期間消費者の手元で保管される可能性は少ないと考えられる。(中略)被告が本件混入や本件販売継続の事実を知った時点では、もはやその回収の可能性は少なかったとも考えられる」
「しかし、被告は、その時点で、実際にTBHQ混入の『大肉まん』がいつ販売され在庫が残っていないかどうかなどを正確に調査した上で販売中止や回収等の対応策の要否を検討した訳ではない。事業本部長らは混入を知った後にも販売店の混乱等を回避するため違法に販売を継続させていたというもので、事柄の重大性の認識に全く欠けていることが明らかなのであるから、ダスキンとしてはその報告だけで販売中止の必要性や回収の可能性がないなどと速断することは許されない」
この判示からも明らかなように、不祥事が起きたときの事実調査は、あらゆる角度から徹底的に原因を究明するものでなくてはなりません。
実際、ダスキン事件では、事実調査のために調査委員会が設置されていましたが、主たる役割は担当者の処分と今後の方針等について検討することであり、消費者への対応のあり方や今後会社が被る恐れのある信用失墜への対策、マスコミへの公表の要否等については議論されていませんでした。
さらに、大阪高裁は、「事実関係を徹底的に調査し、早期に適切な対応を取っていたとしたら、その後、消費者やフランチャイジーからの信頼を決定的に失うという最悪の事態は、相当程度回避できたものと考えられる」としています。
この指摘には、「企業の役員には最悪の事態を想定しつつ、原因究明作業の音頭を取ることが現実に期待される」という不祥事対応に必要なエッセンスが詰まっていると言えるでしょう。
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