国際

政治色が強い伊藤忠の中国投資

 伊藤忠商事が、業務提携したタイのチャロン・ポカパン(CP)グループと一緒に中国中信集団(CITIC=国有企業)の中核企業「中国中信」へ1兆2000億円を共同出資し、同集団の20%株を取得すると1月20日に発表した。

 多くの日系企業が経済的低迷に陥った中国から撤退する中、同社は勇気ある決断を行った。

 伊藤忠は1972年(日中国交正常化直前)、総合商社として、初めて中国から友好商社に指定された。また、同社出身の丹羽宇一郎は民間の中国大使(2010年6月から2012年12月)を務めている。伊藤忠もCPグループもどちらも習近平政権に近いという。そのため、今回のCITICへ思い切った投資は政治色が強いと見られる。 
 実は、香港最大の企業集団・長江実業グループ会長の李嘉誠は、昨年2月、すでに中国国内の株をすべて売却した。さらに、最近、李は香港、長江基建集団の株も売却したと伝えられている。伊藤忠は李嘉誠と真逆の道を行く。はたして、今後、同社は中国で利益を確保できるのだろうか。

中国経済の減速が鮮明の中、伊藤忠の判断は吉と出るか

 周知のように、昨年、中国のGDPは7.4%へ下落し、経済の減速が明らかになっている。以下、具体的に詳しく見てみよう。
 第1に、中国国内の不動産価格は、8ヶ月連続で下落(2014年5月~12月)している。これが単なる価格調整であれば良いが、“不動産バブルの崩壊”とも考えられる。

 ある研究によれば、2009年~2013年の5年間に、中国では多くの無駄なプロジェクト投資が行われ、6.8兆米ドル(約800兆円)浪費したという。毎年、約160兆円もの浪費である。中国各地至る所にゴーストタウン(鬼城)が増え続けているゆえんだろう。

  第2に、中国貿易総額の伸長が鈍化している。2014年は、4兆3030億米ドル(約516兆円)で、前年比3.4%の伸びにとどまり、政府が掲げた7.5%の伸びを大きく下回った。世界的な経済減速、特にEU経済低迷の影響を受けている。

 第3に、昨今、中国からキャピタルフライト(外資逃避)が起きている。『サーチナ』によれば、2014年、米国の対中投資額は163億6000万元(約3070億円)で、前年比20.6%減だったほか、EU28ヶ国による対中投資額は420億7000万元(約7900億円)で同5.3%減、ASEAN諸国は399億8000万元(約7500億円)で同23.8%減だった。日本からの対中投資(265億7000万元<約5083億円>)も前年比38.8%減と大きく落ち込んだ。

 日系企業では、パナソニック・ホンダ・ダイキン等が生産の一部を中国から日本国内へ回帰している。中国国内の賃金上昇で生産コストが増大したことに加え、「チャイナ・リスク」を避ける意味合いがあるのだろう。

 第4に、中国はエネルギー消費量が減少している。同国は、エネルギーを石炭に約7割も依存しているので、当然、石炭生産量も落ちている。同様に、工業生産に必要な銅の消費量も減っている。

 第5に、近頃、中国では消費者物価指数がほとんど上昇せず、デフレ傾向にある。習近平政権の行っている「贅沢禁止令」の影響が見て取れる。

 もし、成長を優先させるならば、党・政府の役人等は、“贅沢三昧”にカネを使った方が良い。だが、その禁止令のため、彼らは自由にカネを使えなくなった。景気後退期に、緊縮財政的施策を行うのは、景気を更に冷え込ませるだろう。

 第6に、中国政府は環境汚染対策にようやく重い腰をあげた。例えば、当局は、20年間で大気汚染を一掃し、空をクリーンする政策を打ち出した。しかし、それには、莫大な対策費用がかかる。すると、すでにGDPの200%を超すと目される財政赤字が、一段と拡大するかもしれない。同時に、習政権は、関係が冷え込んでいる環境対策先進国、日本に技術支援を頼る必要が出てくるだろう。

 第7に、地方政府の融資平台(地方政府傘下にある投資会社。資金調達とデベロッパーの機能兼備)には、約7兆元(約140兆円)の負債があると見積もられている。経済減速で、更なる負債が顕在化する可能性もある。

 以上のように、厳しい中国経済状況の中、伊藤忠の果断は吉と出るのだろうか。それとも凶と出るのだろうか。今後の成り行きを見守りたい。

 

【伊藤忠】関連記事一覧はこちら

【国際】の記事一覧はこちら

 

雑誌「経済界」定期購読のご案内はこちら

経済界電子版トップへ戻る

関連記事

好評連載

グローバルニュースの深層

一覧へ

習近平政権下の中国経済と新時代の到来

[連載] グローバルニュースの深層

グローバルニュースの深層

[連載] グローバルニュースの深層

原油事情に関するロシアの分析

[連載] グローバルニュースの深層

プーチン露大統領の内外記者会見

[連載] グローバルニュースの深層

中間選挙後の米国を展望する

[連載] グローバルニュースの深層

中国を制するものは世界を制す

変貌するアジア

一覧へ

鴻海によるシャープ買収のもう1つの狙い

[連載]変貌するアジア(第37回)

変貌するアジア

[連載]変貌するアジア(第36回)

SDRの一翼を担う人民元への不安

[連載]変貌するアジア(第33回)

開催意義不明の日中韓首脳会議

[連載]変貌するアジア(第32回)

朱立倫の総統選出馬と台湾海峡危機

津山恵子のニューヨークレポート

一覧へ
無農薬野菜

[連載] 津山恵子のニューヨークレポート(第20回)

CESの姿が変わる花形家電よりもネットワークに

[連載] 津山恵子のニューヨークレポート(第19回)

米・キューバ国交回復のインパクト

[連載] 津山恵子のニューヨークレポート(第18回)

クリスマス商戦に異変! 店舗買いが消え行く

[連載] 津山恵子のニューヨークレポート(第17回)

格差問題が深刻化する米国―教育の機会格差解消にNY市が動き出す

ビジネストレンド新着記事

注目企業

一覧へ

売上実績トップ企業に聞く「住宅リフォームの最新トレンドと課題」―榎戸欽治・ニッカホーム会長

素人にはなかなか分かりにくい住宅リフォームの世界。最近の業界動向と事業戦略について、売り上げ規模で全国ナンバーワンを誇るニッカホーム創業者の榎戸欽治会長に聞いた。(聞き手=吉田浩)榎戸欽治氏プロフィールリフォーム業界におけるニッカホームの競争力水廻りと木工事を絡めた中型リフ…

榎戸欽治・ニッカホーム会長

家族葬のファミーユが目指す「生活者目線で故人に寄り添う」葬儀の形

不動産のノウハウや技術を生かしサステナブルインフラへ―いちご

新社長登場

一覧へ

カリスマ創業者の後任として描く「新しいマネックス証券像」― マネックス証券社長 清明祐子

2019年4月、国内インターネット専業証券で初の女性社長が誕生した。創業者であり、カリスマ社長と呼ばれた松本大前社長から後任を託されたのが清明祐子氏。清明氏は09年にマネックスグループに入社し、子会社社長やグループ役員を経て、マネックス証券の社長に就任した。清明社長はカリスマの後任としてどんな会社をつくってい…

マネックス証券社長 清明祐子

「若者需要の開拓でビール市場を盛り上げていく」塩澤賢一(アサヒビール社長)

「事業部門の連携を活性化させ営業利益100億円を目指す」 内藤宏治(ウシオ電機社長 )

イノベーターズ

一覧へ

シリコンバレーへの挑戦が生んだ「起業家と投資家が待ち望んだサービス」― 戸村光・ハックジャパンCEO

起業家のスタンスとして、画期的な技術やビジネスモデルを社会で活かすことを目的としたイノベーション先行型もあれば、社会課題解決を最優先とし、そこに必要な技術やノウハウを当てはめていくやり方もある。ハックジャパンCEOの戸村光氏の場合は後者。対象となる課題は「身の周りの気付いたことすべて」だ。(取材・文=吉田浩)…

戸村光・ハックジャパンCEO

「測量美術」が起こす道路工事のイノベーション―草木茂雄・エムアールサポート社長

IT化で変革する産業廃棄物処理の世界―福田隆(トライシクルCEO)

大学の挑戦

一覧へ

専門分野に特化した“差別化戦略”で新設大学ながら知名度・ブランド力向上を実現――了徳寺大学・了徳寺健二理事長・学長

2000年設立で、了徳寺大学が母体のグループ法人。医療法人社団了徳寺会をグループ内に持つ。大学名の「了」は悟る、了解する、「徳」は精神の修養により、その身に得た優れた品性、人格を指す。「了徳寺」は人間としての品性、道を論す館の意味を込めた大学名だ。 聞き手=本誌/榎本正義 、写真/佐々木 伸 …

大学の挑戦

創立100周年、西南学院大学・K.J.シャフナー学長「世界に貢献しインパクトを与える人材を育てる」〜国際交流・就職支援・インターネット出願〜 

「“STAND BY YOU”のスローガンの下、学生一人ひとりに寄り添う教育を」――中央学院大学・佐藤英明学長

経済界からのお知らせ

最新号のご案内

経済界2019年12月号
[特集] 沸騰する食ビジネス!!
  • ・食ビジネスが熱い!! 未来型食品が社会課題を解決する
  • ・市場規模70兆円! 食ビジネスが過熱するわけ
  • ・完全バランス栄養食で誰もがラクして健康になれる
  • ・人工光型植物工場で世界の食と農に新しい常識を
  • ・宇宙食ビジネスで勝ちに行く 10年後に5千億円市場創出へ
  • ・“大人の給食”で栄養の基盤をつくる
  • ・人工肉で糖質制限者に無制限のおいしさを
  • ・テクノロジーで高品質なジビエ調達が可能に
  • ・昆虫食ビジネスの時代到来
[Special Interview]

 伊藤秀二(カルビー社長)

 掘り出そうカルビーの未来

[NEWS REPORT]

◆エンジニアへの高額給与で 富士通は生まれ変われるか

◆豊田章男・自工会会長が挑む東京モーターショー100万人

◆消費増税で現金主義は終焉 キャッシュレス時代が到来した

◆加速するeスポーツ市場! インテルが東京で世界大会を開催

[総力特集]

経済界創刊55周年記念 新しい日本のかたち

東京1964からの55年と東京2020以降の日本の姿

ページ上部へ戻る