文化・ライフ

 2014年はベンチャー企業の上場が続出した1年でした。若くて優秀な経営者が増え、環境は10年前とは大きく変化したように思います。そんな当時、活躍していたベンチャー経営者の1人に宋文洲さんが挙げられるのではないでしょうか。今は経営を退き、経営コンサルタント、経済評論家として活動されています。宋さんは今年で来日30年。日本での30年間の日々を振り返っていただきました。

来日30年を迎えた宋文洲氏が思うこと

宋 文洲

宋 文洲(そう・ぶんしゅう)
1985年北海道大学大学院に国費留学。天安門事件で帰国を断念し、札幌の会社に就職するが、倒産。学生時代に開発した土木解析ソフトの販売を始める。92年にソフトブレーンを創業。2000年東証マザーズに上場。04年経済界大賞「青年経営者賞」を受賞。05年東証1部上場を果たし、業界最大手に成長。06年同社会長退任、経営から退く。現在は経営コンサルタント、経済評論家として北京と東京を行き来する。

佐藤 最近、若い世代に優秀な人材、経営者がどんどん育っていますね。まだ日本も捨てたもんじゃないと思います。経営コンサルタントとして多くのベンチャー経営者ともお付き合いされてきた宋さんは、最近の情勢をどのように見ていらっしゃいますか。

 まだまだ可能性はありますよ。先日東証マザーズに上場したオプティムの菅谷俊二社長や、社会学者の古市憲寿さんなど、20〜30代に面白い人がたくさんいます。彼らは自分の意見を持っていて、これからが楽しみです。

佐藤 日本社会はどうしても閉塞的で、若い人を伸ばす環境が不足しているように感じます。

 そういう環境も、時間はかかるかもしれないけれど、変わっていきますよ。中国には「30年河東、30年河西」ということわざがあります。これは30年前に川の東にあった町が30年後は川の西になる、つまり30年で世の中は大きく変わるという意味です。日本もそうだと思いますよ。

佐藤 30年と言えば、宋さんは、今年で来日30周年ですね。

 そういえばそうですね。

佐藤 振り返ると、ご苦労も多かったのではないでしょうか。

 よくそういった質問を受けるのですが、実はそんなに苦労と思ってなくて、質問者をがっかりさせてしまうことがあるんです(笑)。もちろん文化の違いで誤解されたこともありますが、迫害や差別を受けたこともありませんし、借金をしたり、仕事で追い詰められたりしたこともありません。人間関係でうまくいかないことはありましたが、それは誰でもあることです。

佐藤 確かに、おっしゃるとおりです。それでも就職先が入社されて3カ月で倒産するなど、劇的な展開は多かったように思います。

 そういう見方も、育った文化の違いかもしれない。僕は新卒で入社した企業が倒産した時、ちっとも自分の人生に影響があると思わなかったのです。ほかの社員は「お前のせいで路頭に迷う」と社長をののしっていましたけど、日本では失業保険も出る。半年以内に再就職すればいいだけですし、その間遊べるじゃないですか。

宋文洲氏が語る中国人の強みとは

佐藤 そういった考えは新鮮に感じます。

 中国人ならではの考え方かもしれません。それに、僕はその会社に一生勤めるつもりもありませんでした。うまくいけば長く勤めたかもしれませんが、合わなければ明日辞めるかもしれない。合意して就職したのだから、倒産してもそれはその道を選択した自分の責任です。それなのに、みなさんは「安定」を求めているようでした。

対談の様子佐藤 日本で人材の流動性が欠けているのも、そのせいかもしれません。

 そのとおり。私が来日してから印象に残っていることの1つに、山一証券の倒産があります。友人が勤めていたのですが、倒産した時に心配で電話をしてみると「人生終わりだ」と嘆いているのです。

佐藤 そんなことはないのですけどね。

 日本社会は安全、安心、安定では世界一のレベルに達しましたが、それだけ流動性がなく、自立心やチャレンジ精神のない社会になっているとも言えます。例えば、中国にはコンビニなどがない地域もあり、いつ食べ物にありつけるか分からないようなときがあります。海外ではそういった不確定要素は必ずあり、その中で対応する力が身に付けています。そのあたりは、日本人に欠けているのかもしれないですね。

創業者 宋文洲氏が会長職を退いた理由とは

宋 文洲

宋 文洲(そう・ぶんしゅう)
1985年北海道大学大学院に国費留学。天安門事件で帰国を断念し、札幌の会社に就職するが、倒産。学生時代に開発した土木解析ソフトの販売を始める。92年にソフトブレーンを創業。2000年東証マザーズに上場。04年経済界大賞「青年経営者賞」を受賞。05年東証1部上場を果たし、業界最大手に成長。06年同社会長退任、経営から退く。現在は経営コンサルタント、経済評論家として北京と東京を行き来する。

佐藤 宋さんは、ソフトブレーンを上場させてすぐに会長職を退かれました。社内でも惜しまれたでしょうし、創業者としての思い入れもあって大きな決断だったのではないでしょうか。

 これもなかなか理解していただけないのですが、中国人の中には「ある程度稼げたら早く辞めたい」という人がいます。私もそういった考えを持っていましたので、上場前から退職することは狙っていました。

佐藤 そうだったのですか。

 日本でこれを言うと「勝ち逃げ」と言われるんですよ。でも、僕はそういった考えがありません。タイミングを見計らって辞めようと思った理由は、自分の才能の限界を知っているからです。経営者になった時、多くの先輩経営者にお会いしました。間近で話を聞くたびに、彼らの経営への情熱や能力を思い知らされ、僕はそういう人間ではないと自覚しました。それに、もともと営業も苦手でしたからね。

佐藤 営業支援システムを提供する会社を創業したのに、営業が苦手とは意外です。

 苦手だからこそ、根性で営業しなくてもいいソフトをつくりたいと考えました。人間には向き、不向きがあります。創業に向く人と、会社を大きくすることに向く人がいますから。

佐藤 よく分かります。2代目経営者の私も、創業者の父とは維持継続していく役割が違いますから、比べることはできません。

 そのとおりです。両方やれるという人は珍しいです。僕は創業者タイプで、役割を果たしたから退くことにしたのです。今後もアイデアが生まれ、創業したいという思いが強まれば実行するかもしれないです。

宋文洲氏が考える創業者に必要なこととは

対談の様子佐藤 日本では隙間産業がまだあるように思います。創業するために必要なアイデアはたくさん転がっていますよね。

 そのとおりです。一方で、起業したいという意欲があるにもかかわらず、進出が狙える市場に気付けていない人もいるように感じます。

佐藤 そういう「隙間」を見つけるためには何が必要なのでしょうか。

 これは、賢い人が見つけるわけではありません。意識して見れば自然と見つけられます。例えば、妊娠すると街に妊婦が多いように感じたりしますよね。

佐藤 同じ境遇の人は興味を感じますからね。

 それは意識しているから見えているのです。海外に行くと日本の便利さに気付くこともあります。これも意識があるからです。こういった見方が起業には必要です。これを身に付けるには、異文化の人や異なる世代の人とかかわって養うことが大切です。


対談を終えて対談を終えて

宋さんとは年も近く、以前から親しくさせていただいていましたが、あらためてお話を聞くと文化の違いや日本人ならではの考え方などを思い知らされ、有意義な時間となりました。今後も若手経営者に刺激を与える存在として活躍されることを期待しています。

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