政治・経済

寺尾威夫氏の人生と大和銀行

 寺尾威夫というバンカーがいた。元大和銀行(現在のりそなホールディングス)頭取である。

 関西を中心としたリテール活動と全国展開の信託業務を核とする地域密着型経営を展開した唯一の都市銀行。昭和40年代末期にグループの総資金量は50兆円に達し、スーパー・リージョナル・バンクを目指す勢い。それは寺尾の信念の賜物と言えた。

 しかし、寺尾の死後、起きた政府主導の金融再編成の嵐の中で大和は公的資金を導入、メガバンクへの道を断たれたままの推移を余儀なくされている。

 寺尾は旧姓が北村で奈良県吉野郡十津川村生まれ。大阪の名門・北野中学︱三高︱東大法科卒後、大和銀行の前身である野村銀行に入り、45歳で頭取になった人物。幕末の十津川史によると、十津川は神武天皇を熊野から案内した八咫烏(やたがらす、武津身之命)を祖先とし、後醍醐天皇の南朝に忠誠をつくし、幕末には中山忠光を主将とする『天誅組』に参加したとか。だから徳川時代にも郷士の待遇を与えられ、年貢を免除されていたという。

 「僕は寺尾家の婿養子になったが、実家の北村家は林業の兄が64代目だから、十津川村でも古い家柄。しかし、親父は厳しい教育家で、なぜか僕の教育に熱意を示し、地元の小学校六年の時に大阪の豊中市に移住、克明小学校に転校してエリート教育を受けている。ただ、1929年の卒業時、景気が悪く、いわゆる世界恐慌が始まり、就職問題で頭を悩ました時代でもありました。そこで僕は野村銀行に入り、バンカーの第一歩を踏み出しました」

 「永遠の謎。寺尾さんなら引く手あまただったと思えるのに、なぜ、野村銀行だったのか?」

 現在、92歳の元大和の頭取・安倍川澄夫がかつて筆者に語った疑問符は、過日、寺尾の次女が嫁いだ大西正文(元大阪ガス社長・会長、大阪商工会議所会頭)を偲ぶ会でも話題になったが、誰一人、知る由もなかった。

 明確なのは、日露戦争たけなわの05年に生まれた寺尾が歴史に詳しかったこと。また、日本の近代化の現場ともいえる金融界に籍を置き、ひたすら黙々と自ら現場を体感した〝生き証人〟であった。

 

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