政治・経済

 「来年度、実質1・5%成長、政府経済見通し、今年度はマイナス」

 政府は7日、2015年度の経済見通しで示す経済成長率を名目で2・7%程度、物価上昇分を差し引いた実質で1・5%程度とする方針を固めた。14年度は実質で5年ぶりのマイナス成長を見込む。落ち込んだ個人消費や設備投資が15年度には持ち直すとみる。原油価格の下落も企業の収益改善などの追い風になる見込みだ。(中略)円安の効果で輸出企業を中心に収益が改善しており、設備投資も伸びるとみる。原油価格の下落も企業の調達コストの負担軽減につながる。一方で、原油安や消費税率引き上げの延期で物価上昇が抑えられるため、名目の成長率は昨年の試算より下がる。(日本経済新聞2015年1月8日)

2015年の経済見通し① 原油価格急落が景気の神風となる可能性

 昨年の日本経済を一言で表現すると、アベノミクスによって15年ぶりの賃上げという形でようやく好循環が動き出したが、消費税率の引き上げによりその好循環が遮断されたということだろう。

 今年の景気を占う上でも経済対策が大きなカギを握っている。アベノミクスの大胆な金融緩和というのは、市中に大量のお札を供給することを通じて円安・株高を演出する。株高は民間部門の金融資産を拡大させるが、円安は、輸入依存度の高い中小企業や地方経済には負担増という形で副作用ももたらす。既にドル円レートは適正水準を上回る1ドル=120円台後半となっているため、日本も円安対策をしなければならない。

 原油価格下落の効果も、やはり大きい。原油価格の指標を見ると、ドバイ原油は昨年夏のピークから5割近く下落している。円がドルに対して2割近く下落しているので、円建てでは3割程度の下落だが、これだけで年間の原油輸入金額を約5兆円程度押し下げるインパクトはあるので、日本経済にとって大きな負担軽減になると思われる。幸いなことに、天然ガスの輸入価格も原油価格に連動する。これでさらに天然ガスの輸入金額を3兆円以上押し下げるため、負担軽減はトータルで8兆円規模になる。さらに、原油を大量に輸入するアジア諸国の景気押し上げもそれなりに期待できる。原油価格の先行きは不透明ではあるものの、今年の日本経済を押し上げる可能性は高いと思われる。加えて、原油価格の下落はインフレ率を押し下げる要因にもなる。したがって、日銀の追加緩和を促す可能性もあるだろう。結果として、原油価格の下落は、産油国にとってはリスク要因になるとしても、日本経済には援軍となる可能性が高いだろう。

 この背景には、サウジアラビアと米国が結託してイランとロシアに圧力をかけようとしているという見方もあるが、基本的には欧州の景気低迷や新興国の景気もたつきにより需要が減少する一方、米国のシェール革命による増産等に伴う供給増加により、需給バランスが崩れていることがある。こうした状況下では当面、原油価格は低位で推移すると予想される。原油価格の急落は2015年の景気の神風となる可能性を秘めている。

 確かに、ユーロ圏や中国の政策対応の遅れによる景気低迷は懸念材料だが、日本における所得の海外流出を主導してきた原油価格が低下することは、家計や企業の購買力低下を緩和し、駆け込み需要の反動減の影響を徐々に緩和することが期待される。今年は景気の反転を確認する指標が増えてこよう。

2015年の経済見通し② 1980年代後半との類似点と相違点

 こうした中、14年の日本経済については1986年との類似点を見いだすことができる。

 背景には85年のプラザ合意に伴う円高不況がある。そもそも、プラザ合意に伴う事実上の通貨切り上げは、それまで外需主導で成長してきた日本経済に円高不況をもたらした。これを受けて、日本の政策当局は内需主導の経済成長を促すために積極的な財政・金融政策を実施した。また、当時は原油価格が3分の1近く下がり、結果的に旧ソ連崩壊に伴う東西冷戦終結に結び付いた。こうした積極的な金融財政政策と原油安により日本経済は長期的な景気回復を実現するとともに、株式市場や不動産市場に過剰な資金が流入することでバブルを引き起こした。

 今回も状況は似ている。消費税率引き上げ直後に、景気後退局面入りしたことを受けて、予定されていた消費税率の再増税を17年4月に先送りすることを余儀なくされたが、逆に積極的な財政・金融政策が実施される可能性が高まっている。

 そして、今回も原油価格が急落するなど、86年当時の状況と類似する点が多い。一方で80年代後半との相違点としては、土地神話が既に崩壊していることや、生産年齢人口が減少に転じている点などが挙げられる。従って、80年代後半ほどはバブル発生の可能性が高いとは言えないが、さまざまな資産の価格の動きには注意していく必要があるだろう。いずれにせよ、短期的には日本経済における良い環境が期待できると判断できる。

 少なくともいえることは、00年代以降でここまで経済の好循環が実現したのは、初めてである。こうした実績と自信を梃に、15年はアベノミクスの進捗が加速されることを期待したい。

 

雑誌「経済界」定期購読のご案内はこちら

経済界電子版トップへ戻る

関連記事

好評連載

深読み経済ニュース

一覧へ
一般社団法人かぎろい出版マーケティング代表 西浦孝次氏

[連載] 深読み経済ニュース解説

2015年の経済見通し

[連載] 深読み経済ニュース解説

再デフレ化に突入し始めた日本経済

[連載] 深読み経済ニュース解説

消費税率引き上げ見送りの評価と影響

[連載] 深読み経済ニュース解説

安倍政権が解散総選挙を急ぐ理由

実録! 関西の勇士たち

一覧へ

水辺に都市が栄える理由と開発の事例を探る

[特集 新しい街は懐かしい]

水辺に都市が栄える理由と開発の事例を探る

[連載] 実録! 関西の勇士たち(第20回)

稀有のバンカー、大和銀行・寺尾威夫とは

[連載] 実録! 関西の勇士たち(第17回)

三和銀行の法皇・渡辺忠雄の人生

[連載] 実録! 関西の勇士たち(第14回)

住友の天皇・堀田庄三の人生

[連載] 実録! 関西の勇士たち(第11回)

商売の神様2人の友情 江崎利一と松下幸之助

ビジネストレンド新着記事

注目企業

一覧へ

総合事業プロデューサーとして顧客と共に成長する―中尾賢一郎(グランドビジョン社長)

広告やマーケティング、ブランディングを事業プロデュースという大きな枠で捉え、事業が成功するまで顧客と並走する姿勢が支持されているグランドビジョン。経営者の思いを形にしていく力で、単なる広告代理店とは一線を画している。 中尾賢一郎・グランドビジョン社長プロフィール &nb…

中尾賢一郎(グランドビジョン社長)

人材戦略を経営の核に成長する駐車場ビジネスのプロ集団―清家政彦(セイワパーク社長)

「PCのかかりつけ医」として100年企業への基盤構築を進める―黒木英隆(メディエイター社長)

新社長登場

一覧へ

森島寛晃・セレッソ大阪社長が目指すクラブ経営とは

前身のヤンマーディーゼルサッカー部を経て1993年に創設されたセレッソ大阪。その25周年にあたる2018年12月に社長に就任した森島寛晃氏は、ヤンマー時代も含めて通算28年間セレッソ一筋、「ミスターセレッソ」の愛称を持つ。今も多くのファンに愛される新社長が目指すクラブ経営とは。聞き手=島本哲平 Photo=藤…

カリスマ創業者の後任として描く「新しいマネックス証券像」― マネックス証券社長 清明祐子

「若者需要の開拓でビール市場を盛り上げていく」塩澤賢一(アサヒビール社長)

イノベーターズ

一覧へ

20歳で探検家グランドスラム達成した南谷真鈴さんの素顔

自らの手で未来をつかみ取る革新者たちは、自分の可能性をどう開花させてきたのか。今回インタビューしたのは、学生でありながら自力で資金を集め、世界最年少で探検家グランドスラムを制した南谷真鈴さんだ。文=唐島明子 Photo=山田朋和(『経済界』2020年1月号より転載)南谷真鈴さんプロフィール&nbs…

南谷真鈴

シリコンバレーへの挑戦が生んだ「起業家と投資家が待ち望んだサービス」― 戸村光・ハックジャパンCEO

「測量美術」が起こす道路工事のイノベーション―草木茂雄・エムアールサポート社長

大学の挑戦

一覧へ

専門分野に特化した“差別化戦略”で新設大学ながら知名度・ブランド力向上を実現――了徳寺大学・了徳寺健二理事長・学長

2000年設立で、了徳寺大学が母体のグループ法人。医療法人社団了徳寺会をグループ内に持つ。大学名の「了」は悟る、了解する、「徳」は精神の修養により、その身に得た優れた品性、人格を指す。「了徳寺」は人間としての品性、道を論す館の意味を込めた大学名だ。 聞き手=本誌/榎本正義 、写真/佐々木 伸 …

大学の挑戦

創立100周年、西南学院大学・K.J.シャフナー学長「世界に貢献しインパクトを与える人材を育てる」〜国際交流・就職支援・インターネット出願〜 

「“STAND BY YOU”のスローガンの下、学生一人ひとりに寄り添う教育を」――中央学院大学・佐藤英明学長

経済界からのお知らせ

最新号のご案内

経済界2020年1月号
[特集] 新しい街は懐かしい
  • ・「街の記憶」で未来をリノベーション
  • ・日本橋が「空を取り戻す」水辺と路地がつながる街へ
  • ・水辺はエンタメの宝庫だ 大阪が目指す観光客1300万人
  • ・街の誇りを取り戻せ 名古屋・堀川復活プロジェクト
  • ・なぜ水辺に都市が栄えるのか
  • ・2020以降は海と川がさらに面白くなる
  • ・「住む」と「働く」両方できるが求められている(たまプラーザ)
  • ・「土徳」が育む一流の田舎(南砺市)
  • ・音楽ファンが集う街づくり
[Special Interview]

 辻 慎吾(森ビル社長)

 東京が世界で勝ち抜くために必要なこと

[NEWS REPORT]

◆飛びたくても飛べないスペースジェットの未来

◆エンタメが街を彩る 地方創生に挑むポニーキャニオン

◆問題噴出のコンビニをドラッグストアが抜き去る日

◆始まった自動車世界再編 日本メーカーはどう動く?

[特集2]

 経済界福岡支局開設35周年記念企画

 拓く!九州 財界トップが語る2030年のかたち

ページ上部へ戻る