マネジメント

(もとえ・たいちろう)
1998年慶応義塾大学法学部法律学科卒業。01年弁護士登録(第二東京弁護士会)、アンダーソン・毛利法律事務所(現アンダーソン・毛利・友常法律事務所)勤務を経て、05年法律事務所オーセンスを開設。同年、法律相談ポータルサイト弁護士ドットコムを開設。代表取締役社長兼CEOを務める。

 

 

社内における私用メールがもたらす問題

 ビジネスツールとしてすっかり定着したメールですが、一般化するにつれ「社内メールの私的利用」が問題となっています。多くの企業では、履歴の保存やモニタリング等の対策が講じられているようです。しかし、メールの内容を監視されるというのは、従業員にとって気分のいいものではありません。最近ではプライバシー侵害を理由とする訴訟なども提起されています。今回は、社内メールの管理方法について解説します。

 もし電子メールの私的利用が無制限に認められるとなると、さまざまな弊害が想定されます。私用メールによる誹謗中傷問題をめぐって訴訟に至ったケースで、東京地裁が私用メールのもたらす弊害について以下のように判示しています。

 「私用メールは、送信者が文書を考え作成し送信することにより、送信者がその間職務専念義務に違反し、かつ、私用で会社の施設を私用するという企業秩序違反行為を行うことになることはもちろん、受信者に私用メールを読ませることにより受信者の就労を阻害することにもなる」

 このように、私用メールは送信者だけでなく受信者の就労を阻害する要因にもなることから、多くの場合、企業にとっては弊害となるでしょう。さらに、従業員間での誹謗中傷等が行われてしまうと、業務効率の低下や、離職率の増加など、さまざまな二次的被害を招きかねません。こうした二次的被害を防ぐためにも、企業としては電子メールの私的利用に規制をかける必要があるといえるのです。

 では、どのような規制をかければよいのでしょうか。多くの企業が採用する(1)送受信履歴の保存・閲覧と(2)利用状況のモニタリングについて、ケースごとに見てみましょう。

(1)送受信履歴の保存・閲覧

 この方法については、東京地裁の判示が参考になります。事案の概要は、会社内でのメールによる誹謗中傷が問題となったことから、会社が従業員の送受信履歴の調査を行ったところ、その調査が従業員の許可なくされていたことから、従業員がプライバシー侵害を理由に会社を訴えたというものです。東京地裁は、送受信履歴の保存・閲覧について概ね次のように述べています。

(1)会社が行った調査は、業務に必要な情報を保存する目的で会社が所有し管理するファイルサーバー上のデータの調査であり、かつ、このような場所は、会社に持ち込まれた私物を保管させるために貸与されるロッカー等のスペースとは異なり、業務に何等かの関連を有する情報が保存されている。

(2)ファイルの内容を含めて調査の必要が存する以上、その調査が従業員のプライバシーを侵害した違法な行為であるとはいえない。

(3)事前の継続的な監視とは異なり、既に送受信されたメールを特定の目的で事後に調査するものであることからすると、不当なこととは言えない。

重要なポイントは傍線部のとおりです。特に(2)の「ファイルの内容を含めて調査の必要が存する」かどうかという点は、会社の責任の有無を分ける大きなポイントとなります。

(2)利用状況のモニタリング

 この方法は「送受信履歴の保存・閲覧」よりも管理監督しやすい方法ですが、閲覧される従業員のプライバシーにはより慎重な配慮が必要です。「送受信履歴の保存・閲覧」と同じく、「内容監視の必要性」が必要不可欠であることはもとより、手続的な配慮も必要となります。前述の事件とは別事件の東京地裁の判示が参考になります。

 「監視する職務上の合理的必要性が全くないのに専ら個人的な好奇心等から監視した場合あるいは社内の管理部署その他の社内の第三者に対して監視の事実を秘匿したまま個人の恣意に基づく手段方法により監視した場合など、……プライバシー権の侵害となる。(中略)当初、独自に自己の端末から……電子メールを閲読したその方法は相当とはいえないが、3月6日以降は、担当部署に依頼して監視を続けており、全く個人的に監視行為を続けたわけでもない」

社内メールの管理体制を今一度確認すべき

 この東京地裁の判示を前提とすれば、モニタリング業務については、原則としてネットワークシステム管理などの担当部署に依頼すべきでしょう。もし仮に、自分の端末から直接監視できるようにする場合でも、担当部署の手続を経ることによって「個人的・恣意的な監視行為ではないこと」を確実に裏付けることが必要です。

 最近ではクラウド型ビジネスフォンなどの新しいビジネスツールが登場しつつあります。こうした新しいビジネスツールに対応するためには、まずは先例の枠組みをしっかりと把握しておくことが大切です。

 そのためにも、あらためて社内メールの管理体制が整っているか、今一度確認することをお勧めします。

筆者の記事一覧はこちら

【マネジメント】の記事一覧はこちら

 

経済界電子版トップへ戻る

関連記事

好評連載

銀行交渉術の裏ワザ

一覧へ

融資における金利固定化(金利スワップ)の方法

[連載] 銀行交渉術の裏ワザ(第20回)

銀行交渉術の裏ワザ

[連載] 銀行交渉術の裏ワザ(第19回)

定期的に銀行と接触を持つ方法 ~円滑な融資のために~

[連載] 銀行交渉術の裏ワザ(第18回)

メインバンクとの付き合い方

[連載] 銀行交渉術の裏ワザ(第17回)

銀行融資の裏側 ~金利引き上げの口実とその対処法~

[連載] 銀行交渉術の裏ワザ(第16回)

融資は決算書と日常取引に大きく影響を受ける

元榮太一郎の企業法務教室

一覧へ

社内メールの管理方法

[連載]元榮太一郎の企業法務教室(第20回)

企業法務教室

[連載]元榮太一郎の企業法務教室(第19回)

タカタ事件とダスキン事件に学ぶ 不祥事対応の原則

[連載] 元榮太一郎の企業法務教室(第18回)

ブラック企業と労災認定

[連載] 元榮太一郎の企業法務教室(第17回)

電話等のコミュニケーション・ツールを使った取締役会の適法性

[連載] 元榮太一郎の企業法務教室(第16回)

女性の出産と雇用の問題

本郷孔洋の税務・会計心得帳

一覧へ

税務は人生のごとく「結ばれたり、離れたり」

[連載] 税務・会計心得帳(最終回)

税務・会計心得帳

[連載] 税務・会計心得帳(第18回)

グループ法人税制の勘どころ

[連載] 税務・会計心得帳(第17回)

自己信託のススメ

[連載] 税務・会計心得帳(第16回)

税務の心得 ~所得税の節税ポイント~

[連載] 税務・会計心得帳(第15回)

税務の心得 ~固定資産税の取り戻し方~

子育てに学ぶ人材育成

一覧へ

意欲不足が気になる社員の指導法

[連載] 子どもに学ぶ人材マネジメント(第20回)

子どもに学ぶ人材マネジメント

[連載] 子どもに学ぶ人材マネジメント(第19回)

子育てで重要な「言葉」とは?

[連載] 子どもに学ぶ人材マネジメント(第18回)

女性社員を上手く育成することで企業を強くする

[連載] 子どもに学ぶ人材マネジメント(第17回)

人材育成のコツ ~部下の感情とどうつきあうか~

[連載] 子どもに学ぶ人材マネジメント(第16回)

人材育成 ~“将来有望”な社員の育て方~

ビジネストレンド新着記事

注目企業

一覧へ

葬儀業から脱皮しライフイベントのプラットフォーム運営企業へ―ライフアンドデザイン・グループ

古い体質が残り実体が見えにくい葬儀業界の中で、「パッケージ化された分かりやすいサービス」「家族葬など小規模葬儀に特化」「低価格だが高品質のおもてなし」「出店スピードの速さ」等を強みに事業拡大。人生の終末や死別後に備えた事前準備を行う。文=榎本正義 村元 康・ライフアンドデザイン・グループ社長…

人材領域で培ったテクノロジーを活用し社会課題を解決する―ビズリーチ

上場して分かったTOKYO PRO Marketのメリット―前田浩・ニッソウ社長に聞く

新社長登場

一覧へ

地域に根差した証券会社が迎えた創業100周年―藍澤卓弥(アイザワ証券社長)

中堅証券会社のアイザワ証券は今年7月、創業100周年を迎えた。この記念すべき年に父からバトンを受け継ぎ新社長となったのが、創業者のひ孫にあたる藍澤卓弥氏。地域密着を旗印に掲げてここまで成長してきたアイザワ証券だが、変化の激しい時代に、藍澤社長は何を引き継ぎ、何を変えていくのか。聞き手=関 慎夫 Photo:西…

メディカル事業を横串にすることでシナジーを発揮し、顧客満足度向上へ 伏見有貴(リゾートトラスト社長)

新事業の芽を伸ばすことでさらに大きな個性的な会社を目指す――日髙祥博(ヤマハ発動機社長)

イノベーターズ

一覧へ

「測量美術」が起こす道路工事のイノベーション―草木茂雄・エムアールサポート社長

経済界が主催するベンチャー企業支援企画「金の卵発掘プロジェクト2018」でグランプリを受賞した草木茂雄・エムアールサポート社長。建設・土木というガテン系の領域でイノベーションを起こすための挑戦を追った。(吉田浩)草木茂雄・エムアールサポート社長プロフィール 測量とアートが結び付く「測量美術」とは何…

IT化で変革する産業廃棄物処理の世界―福田隆(トライシクルCEO)

再エネ時代到来に向け、大石英司・みんな電力社長が目指す「顔の見える」世界

大学の挑戦

一覧へ

専門分野に特化した“差別化戦略”で新設大学ながら知名度・ブランド力向上を実現――了徳寺大学・了徳寺健二理事長・学長

2000年設立で、了徳寺大学が母体のグループ法人。医療法人社団了徳寺会をグループ内に持つ。大学名の「了」は悟る、了解する、「徳」は精神の修養により、その身に得た優れた品性、人格を指す。「了徳寺」は人間としての品性、道を論す館の意味を込めた大学名だ。 聞き手=本誌/榎本正義 、写真/佐々木 伸 …

大学の挑戦

創立100周年、西南学院大学・K.J.シャフナー学長「世界に貢献しインパクトを与える人材を育てる」〜国際交流・就職支援・インターネット出願〜 

「“STAND BY YOU”のスローガンの下、学生一人ひとりに寄り添う教育を」――中央学院大学・佐藤英明学長

経済界からのお知らせ

最新号のご案内

経済界2019年8月号
[特集] SDGsは江戸にある
  • ・「仁義道徳」 経済人に必要な「利益」と「倫理」
  • ・「利他」 「気候変動に具体的な対策を お金の流れが意識を変える」
  • ・「善の巡環」 高邁な理想を支える創意工夫と挑戦
  • ・「才覚、算用、始末、商人倫理」 SDGsの精神宿る江戸商人
  • ・「国利民福」 国が栄えれば人々も幸福になる
  • ・「先も立ち、我も立つ」 石田梅岩と商人道徳
  • ・「気丈」 学問は「治安」「エンタメ」「立身出世」──江戸庶民の教育事情
  • ・「心田開発」 二宮尊徳の報徳思想
[Special Interview]

 里見 治(セガサミーホールディングス会長グループCEO)

 日本初のIR事業への参入はエンターテインメント事業の集大成

[NEWS REPORT]

◆メガバンクからの陥落目前 みずほ銀行の昨日・今日・明日

◆巨大ドラッグストアチェーン誕生か 業界再編はココカラ始まる

◆カリスマ・鈴木修会長に陰り? ピンチを迎えたスズキの前途

◆G20農相会合で見えてきたスマート農業の未来像

[特集2]

 AI時代に稼げる資格

 今必要な資格、将来必要な資格はこれだ!

ページ上部へ戻る