
会社の経営に携わるようになってから四半世紀を越えるが、中期計画というようなものをつくったことがない。無論、中期5カ年計画というようなものをつくって経営を進めておられる会社と経営者を批判しようというものではない。ただ、概して中期計画は、つくるのに莫大な時間と労力、そしてお金が掛かる割にうまくいっても最初の1年だけ、3年もたつと忘れ去られてしまう。
日々変化する世界の中にあって、私には経営者として今から1年後の世界を予測する能力はない。ましてや5年後の世界、日本、産業、会社を予測・予知する能力は断じてない。今年の日経ダウ平均や外国為替など、正直言って競馬の予想以上に当てる自信はない。しかし、会社の経営という責任を担っているわけだから全く無責任でいられるはずはない。したがって、今年度および次年度の計画とその達成には大いにこだわっている。5年前、カルビーの会長に就任した直後、従来あった複雑怪奇、実現不可能な中期計画をお蔵入りさせ、新しく始めたのが〝Dreams Come True!〟。以降、毎年5月に2日間かけて楽しくやっている。
事前準備は一切不要。あえて言うなら、頭をフレッシュにして参加することが条件。場所は社外。経営層と若手、女性など参加者は50〜60人。テーマは〝7年後のカルビーの夢は?〟。昨年度カルビーは売り上げで2千億円、営業利益率がやっと10%。しかし、7年後の未来を語ってその実現の方策を考える2日間の会だ。
1日目は根拠もなく、ただこうなったらいいなあ、という夢を語り合う。夢は、「7年後に売り上げ1兆円、営業利益2千億円」。無論、そんな数字が簡単に達成できるはずはないが、達成できないということも誰も言えない。むしろその大きな夢がどうすれば達成できるかをみんなで考える環境づくりを心掛けている。売り上げ2千億円の会社を7年後に1兆円に……今の成長が順調に進んでもいいとこ4千億〜5千億円だ。1兆円との大きなギャップは全く白紙。その白紙をホワイトスペースと称し、それを何で埋めるかに後半の1日を費やしている。
長い不況・低成長のトンネルの中で、ほらとも思える大きな夢を語り、かつそれを実現されている名経営者がいる。日本電産の永守重信さん、ソフトバンクの孫正義さん、セブン&アイ・ホールディングスの鈴木敏文さん、ユニクロの柳井正さんなどだ。この方たちの共通点は創業者もしくは実質的創業者だが、やはり創業者としての情熱を感じ尊敬している。
世の経営者がどのように未来を語り、その具体的計画をつくっているかは知る由もないが、企業経営というものは、「この指止まれ!」で同志を募り、集まった人たちと夢を語り、それを創り、皆で実現し、その実現が世の為・人の為となり、すべてのステークホルダーを喜ばせるというシンプルなことではないか? 数字だけにこだわるいわゆる「ロシア式5カ年計画」をつくり、結果としてステークホルダーを失望させることでは決してないと思う。
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