
アギーレ監督は八百長疑惑を全面否定
日本代表がアジア杯連覇に向け、好スタートを切った。
オーストラリア・ニューカッスルでのグループリーグ初戦、日本代表は格下のパレスチナ代表相手に4対0で完勝した。
その数日後のことである。八百長疑惑の渦中にいるハビエル・アギーレ監督に対するスペイン検察当局の告発がバレンシア裁判所に受理された。これによりアジア杯後の進退問題は避けられない見通しとなってきた。

八百長疑惑の渦中にあるハビエル・アギーレ監督(Photo:時事)
事の発端は昨年9月のスペイン紙アスの報道だった。八百長の告発対象となった試合は2011年5月21日のリーガ・エスパニョーラ1部、最終節のサラゴサ対レバンテ戦。アギーレが指揮を執るサラゴサは2対1で勝利し、1部残留を決めた。
だが、スペイン検察庁によると試合前にアギーレやサラゴサの選手たちの口座に、クラブから合計96万5千ユーロ(約1億4千万円)が振り込まれ、その後、ほぼ同額がそれぞれの口座から引き出されていたという。
検察当局はこれらの行為からサラゴサがレバンテに賄賂を支払ったとみており、昨年12月15日に両クラブの選手、そしてアギーレやサラゴサの幹部ら41人をバレンシアの裁判所に告発した。
もちろん、アギーレは八百長疑惑を全面的に否定している。
「私はスペインサッカーの正直さとクリーンさを信じている。12年間、スペインリーグで指揮を執っていたが、(その間に)プロフェッショナリズムに反するものを私は認識していない」(昨年12月27日の記者会見)
降って湧いたような八百長疑惑に頭を抱えているのは日本サッカー協会である。
果たして八百長疑惑の渦中にある人物に指揮を執らせていいものか。といって、解任した場合、億単位の違約金が発生しかねない。無実であれば名誉棄損で訴えられるリスクもある。
ある協会幹部は、神妙な面持ちで応えた。
「一番心配なのは、選手に影響を与えないかということ。アジア杯で結果を出せなかった場合、八百長疑惑は別にして責任を取ってもらう必要がある。
問題は連覇を達成した場合。少なくとも手腕を解任の理由にはできなくなる。
協会の中には、イメージダウンを恐れる声もある。日本代表はキリンをはじめ多くのスポンサーに支えられている。スポンサー筋から、そのことを突っ込まれると、正直言ってつらい。
しかし、うかつに〝解任する〟などと言い出せば、どれだけ違約金を求められるか分からない。
ひとつの節目としては、起訴された時点だろう。しかし日本と違ってスペインでは起訴された場合の有罪率は、そう高くないという。とはいえ裁判になると長期化する恐れがある。進むも地獄、退くも地獄といった心境ですよ」
アギーレ監督起訴で問われるサッカー協会の責任
この幹部に「監督を打診する前に〝身体検査〟が必要だったのでは?」と問うと、小さく首を振った。
「それは無理。こっそりやると、向こうではプライバシーの侵害で訴えられるリスクもある。それに〝身体検査〟をやったところで、どこまで本当のことが分かるのか……。結局、性善説で監督を選ぶしかない」
ちなみに有罪が決定した場合、半年から4年の禁固刑、または最高550万ユーロ(約8億2500万円)の罰金が科されるとみられる。
もしアギーレが起訴されれば、協会幹部の任命責任は免れまい。多少、気の毒な面はあるものの、誰かが責任を取らないことには収まらないだろう。
それでなくても、グループリーグ敗退に終わったブラジルW杯の総括が十分だったという声は、残念ながらサッカーサークルからは聞こえてこない。
先にも述べたように、この原稿はパレスチナ戦直後に書いている。連覇を達成するのかしないのか、仮に負けたとしてもファイナルまでいった場合とベスト4とでは、印象も随分、違ってくる。
もちろん内容も問われる。ザックジャパンと比べて、どこがどう変わったのか。それをしっかりと示さなければならない。
再び先の幹部。
「正直言って、八百長問題なんて“対岸の火事”だと思っていた。しかし、今回の一件で、日本だけが無関係でいられないことがよく分かった。これを教訓にして、有罪になった場合はもちろん、起訴された場合でも解任できる条項を設けるなど、契約書を見直さなければならない。余計な混乱を招かないためにも」
いずれにしても協会は高い授業料を払うことになりそうだ。
(にのみや・せいじゅん)1960年愛媛県生まれ。スポーツ紙、流通紙記者を経て、スポーツジャーナリストとして独立。『勝者の思考法』『スポーツ名勝負物語』『天才たちのプロ野球』『プロ野球の職人たち』『プロ野球「衝撃の昭和史」』など著書多数。HP「スポーツコミュニケーションズ」が連日更新中。最新刊は『広島カープ最強のベストナイン』。
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