政治・経済

 昨年6月上旬の就任以来、榊原定征経団連会長は着実に地歩を固めている。今春には2009年に閉鎖した米ワシントン事務所を再開するなど海外の情報網を強化する方針だ。安倍晋三政権と二人三脚で日本経済の再生を目指す考えだが、成果は得られるのか。

海外情報網強化に乗り出す榊原定征経団連会長

 年明け早々の1月6日、安倍晋三首相は都内のホテルで行われた経済3団体の新年祝賀パーティーで挨拶し「今年も経済最優先。3本の矢の政策を大胆にスピーディーに政策を前に進めていく」と表明した。

 これに対し経団連の榊原定征会長は、まず昨年暮れの総選挙で自民党と公明党の連立与党が3分の2以上の議席を獲得して大勝したことに触れ「国民がアベノミクスを初めとする安倍政権の政策を支持し、継続を求め、成果に期待することの表れだ」と持ち上げた。

榊原定征・経団連会長

榊原定征・経団連会長

 その上で「経済界は成長戦略の主役。デフレ脱却と経済の好循環の2巡目を回すために、積極経営を通じて企業収益を拡大し、設備投資や雇用の増加や、賃金の引き上げにつなげたい」と強調した。

 「今年のキーワードは飛翔の〝翔〟だ。私はひつじ年(1943年)生まれだが、羊に羽がついて飛ぶようにアベノミクスによって日本経済が力強く翔び立つ年にしたい」と話した。

 榊原氏は今年1月1日、30年に向けた長期ビジョンを発表した。この「榊原ビジョン」は日本が目指すべき国家像として①豊かで活力ある国民生活の実現②人口1億人を維持し、魅力ある都市・地域を形成する③成長国家としての強い基盤を確立する④地球規模の課題を解決し、世界の繁栄に貢献する――と4点を列挙。これを実現するため、政府や企業が取り組むべき28項目の政策課題を提示し、ほとんどに「数値目標」を掲げて実行を促している。

 「経団連は民主導の成長実現に向けて、経済界全体の進むべき方向性を示し、企業の積極果敢な行動を先導していく」と表明。ここでも「経済の再生には民間企業みずからが積極的な役割を果たすべきだ」と持論を強調している。

 その持論の現れのひとつが米ワシントン事務所の再開だ。近く人事を発表し、4月1日付で発足する。米大使館による査証の発行などを経て遅くとも6月には開設にこぎつけたい考えだ。事務所長は経団連の職員のうち国際畑に近い部長クラスが就任。会員企業からも出向者を出し、陣容を整える方針だ。

 経団連はかつて02年から09年までホワイトハウス近くの中心部にワシントン事務所を置いて活発に活動していた。前身はニューヨークにあった経団連の関連機関、経済広報センターの米国事務所で、97年にワシントンに移転した。

 90年代はじめの日米貿易摩擦に対応するため、国務省や商務省、財務省、通商代表部(USTR)など米国の中央官庁の幹部や議会関係者らと頻繁に意見交換したり、全米を巡回する講演会などを通じて在米の企業人との交流にも取り組んでいた。セミナーや昼食会を通して、アジア・太平洋地域での自由貿易協定(FTA)や日米経済連携協定(EPA)に対する日本経済界の考え方を米国関係者に直接伝えることが重要な役割だった。

 ワシントンDCは国際政治の中心地だ。ホワイトハウスに米国議会、中央官庁のほか、世界銀行や国際通貨基金(IMF)の本部もある。各国の官民はこの地に事務所を構えてロビー活動に注力している。

榊原定征経団連会長は就任2年目の飛翔を目指す

 ところが、リーマンショック後の世界的金融危機で経団連はワシントン事務所を09年3月末限りで閉鎖してしまった。この間、日本の経済界が情報戦で他国に後れを取ったことは言うまでもない。

 榊原経団連はまた、12年4月に開所した、現在のところ経団連唯一の海外事務所である中国の北京事務所も拡充する。前会長の米倉弘昌氏の出身企業である住友化学中国法人の事務所の一部を間借りし、所長が1人で駐在して活動していたが、今後は新たに事務所を設置して活動を強化する。同様にロンドンの大使館にも経団連からアタッシェ(外交協力職員)を常駐させる方針だ。

 日本は経済再生のほかにも震災復興の加速、財政再建、社会保障制度改革、人口問題への対応、地方創生、エネルギー問題、環太平洋戦略的経済連携協定(TPP)の早期妥結など山積する課題に直面している。これらは常におなじみの課題で目新しいものはほとんどない。言い換えれば課題解決がほとんど進んでいないということだ。経団連の海外情報網強化は、TPPをはじめ、これらの課題解決へ向けた一歩を目指したものだ。

 年初のパーティー会場を埋めたのは政財官の約1700人。公式発表は「昨年並み」だったが、アベノミクスによる株価の急騰で会場に高揚感が漂っていた昨年より熱気が冷めた印象は否めない。同日の東京市場の株価終値は前日比525円安の1万6833円。金融市場はその後もイスラム過激派のテロや原油価格の急落を背景に不安定な動きを続けている。

 「企業が自らグローバル競争に打ち勝つ革新を起こし、従業員が本当に働きやすい環境を整え、疲弊する地方の課題解決にできることを実践していく必要があります。政府に対して厳しい注文もつけなければなりません」と語る榊原氏。就任2年目の飛翔はできるのか。

(文=ジャーナリスト/梨元勇俊)

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