テクノロジー

 2014年は、ロボットスーツを手掛けるサイバーダインが株式上場を果たし、ソフトバンクがコミュニケーションロボットを発表するなど、ロボットへの期待が高まった年だった。ますます加速する少子高齢化への対応をも睨み、近未来に向けてロボットの適用範囲は広がっていくと思われる。本企画では、「人のパートナーとしてのロボット」「人の作業を補助するロボット」「人ができないことをするロボット」の3つの観点で、それぞれの動向や今後のビジネスの可能性を探る

従来のロボットとは違うパートナーロボット「Pepper(ペッパー)」

 日本のロボットの開発にはいくつかのターニングポイントがあるが、2014年はそのうちの1つに数えられる年だったと言ってよいだろう。3月にはロボットスーツ「HAL(ハル)」を手掛けるサイバーダインが株式上場を果たし、6月にはソフトバンクがパーソナルロボット「Pepper(ペッパー)」を発表。ロボットがより身近なものになろうとしている。さらに安倍晋三首相が定めた新成長戦略の中に「ロボット革命」が掲げられ、ロボットが国を挙げた施策ともなった。

14年9月の「iPhone6」発売イベントではソフトバンクショップでPepperも接客。ロボットが身近になる

14年9月の「iPhone6」発売イベントではソフトバンクショップでPepperも接客。ロボットが身近になる

 こうした注目の話題の中でも大きなブレークスルーとなる可能性があるのが、ソフトバンクのPepperだろう。Pepper本体の基本的な機能は、音声認識技術および画像認識技術により、人を区別し、なおかつ感情を認識するもの。そして、音声合成技術により人と会話する。これらの機能は、精度の差はあれ、決して新しいものではなく、近いものは10年以上前にNECのパーソナルロボット「PaPeRo」のプロトタイプでも実現されていた。

 では、Pepperは従来のロボットと何が違うのか。ひとつはクラウドに連携すること。Pepperはクラウドに接続する端末として機能し、ユーザーはアプリケーションを介してクラウド上のサービスを利用する。それゆえに20万円という「低価格」を実現した。従来の物づくりのメーカーがPepperと同等のロボットを作って売ろうとすると、ロボット単体で利益を上げ、開発費も回収するために、製品価格は100万円以上になると言われる。一方、ソフトバンクはPepperをあくまでプラットフォームとし、サービスで利益を上げようとしているため、ロボット単体の価格は抑えている。その意味でPepperのビジネスモデルは、冨澤文秀・ソフトバンクロボティクス社長も述べているように、スマートフォンに近い。

 今回のPepperは、ソフトバンクというサービスプロバイダーがロボットを出したことに意義があり、パソコンや携帯電話と辿ってきたITのコミュニケーションツールになる可能性を秘めている。現在はメールテキストや画像を送っているコミュニケーションが、ロボットのモーションやゼスチャーなどの動作を加えたコミュニケーションになり得る。

 ソフトバンクはまず市場を開拓し、新たなコミュニケーションツールを確立しようとしている。Pepperが成功すれば、ロボットがより身近のものとなり、人間の生活を支援するパートナーとなってくる。

ロボットが使いやすくなる環境作り

 一方で、ロボットは社会の要請でもある。他の先進国でも類をみないペースで少子高齢化が進む日本では、生産年齢人口の減少に伴う労働力不足で、生産現場における効率化や省力化が必須となる。そのため、人の作業の補助、人ができない領域での作業にロボット技術の導入が求められており、安倍政権の成長戦略にも盛り込まれた。

 具体的には、省人化が進む労働現場で力仕事で負担を軽減するため、人の力を補助するパワーアシストスーツの検討・開発が進んでいる。高齢化に対しては、高齢者の健康寿命を延ばす観点から、さまざまなセンサ技術を駆使して、住宅そのものが健康管理を行う1つのロボットのように機能するようになる。さらに高齢者の移動を補助したり、介護現場での負担を軽減したりするためにパワーアシスト系の技術の導入が進んでいる。

 人がなかなかできない領域の作業については、3Kの作業現場での労働をロボットに置き換えることが検討されている。また、災害現場での捜索・復旧作業や、老朽化が進む交通インフラの点検・補修作業にもロボットの導入が進められている。

 ロボット技術はこれから人間の生活や労働の現場により身近になると期待される。しかし、安易にロボットが普及すると考える風潮に警鐘をならすのが、古田貴之・千葉工業大学未来ロボット技術研究センター(fuRo)所長だ。古田氏は「ロボットを使ってどんな社会になるのか」というビジョンがあまり見えていないと指摘。そして、ロボットで重要なことは、「ものづくり」を使ったサービス、生活スタイルを実現し、文化として根付かせる「ものごとづくり」だと語る。fuRoでそれを実践した成功例が、福島第一原発の事故処理に活躍した「Quince(クインス)」である。

 ロボットだけでなく先端技術全般に言えることだが、新技術は使ってこそ意味がある。例えば、どんなに凄いパワーアシストスーツが開発されても、使い勝手が悪ければ役に立たない。ロボットが人間を助ける存在になるためには、ロボットそのものの進化だけでなく、ロボットを使いやすくなる環境を整備することが重要だ。

 新成長戦略ではロボット市場を20年に現在の3倍の2・4兆円まで拡大させるというが、ロボットが本当に「使われる技術」となってこそ意味のある規模だろう。

(文=本誌/村田晋一郎)

関連記事

好評連載

エネルギーフォーカス

一覧へ

緑の経済成長とエネルギー

[連載] エネルギーフォーカス

Energy Focus

[連載] エネルギーフォーカス

今後、10年後の電力業界の様相(2)

[連載] エネルギーフォーカス

発電単価から既存原発の経済性を考える

テクノロジー潮流

一覧へ

科学技術開発とチームプレー

[連載] テクノロジー潮流

テクノロジー潮流

[連載] テクノロジー潮流

エボラ出血熱と情報セキュリティー

[連載] テクノロジー潮流

21世紀の日本のかたち 農電業と漁電業

[連載] テクノロジー潮流

工学システムの安全について

[連載] テクノロジー潮流

エネルギー移行と国民の価値観の変化

ビジネストレンド新着記事

注目企業

一覧へ

上場して分かったTOKYO PRO Marketのメリット―前田浩・ニッソウ社長に聞く

多くの経営者が目標とする株式上場。しかし、上場に掛かるコストや時間、その他諸々の条件を考慮して、「上場は到底無理」と諦めてしまうケースも少なくない。そんな経営者にとって有力な選択肢となるのが東京証券取引所の運営する第五の市場TOKYO PRO Marketへの上場だ。2018年に同市場に上場を果たした、株式会…

前田浩氏

未来のモビリティ社会実現に向け日本と欧州の懸け橋に―シェフラージャパン

日本一歴史の長い女性用化粧品会社が挑む「革新と独創」―伊勢半

新社長登場

一覧へ

地域に根差した証券会社が迎えた創業100周年―藍澤卓弥(アイザワ証券社長)

中堅証券会社のアイザワ証券は今年7月、創業100周年を迎えた。この記念すべき年に父からバトンを受け継ぎ新社長となったのが、創業者のひ孫にあたる藍澤卓弥氏。地域密着を旗印に掲げてここまで成長してきたアイザワ証券だが、変化の激しい時代に、藍澤社長は何を引き継ぎ、何を変えていくのか。聞き手=関 慎夫 Photo:西…

メディカル事業を横串にすることでシナジーを発揮し、顧客満足度向上へ 伏見有貴(リゾートトラスト社長)

新事業の芽を伸ばすことでさらに大きな個性的な会社を目指す――日髙祥博(ヤマハ発動機社長)

イノベーターズ

一覧へ

佐藤輝英・BEENEXTファウンダーに聞く「起業家から投資家に転身した理由」

Eコマースを中心に成長を続けるBEENOS。その創業者である佐藤輝英氏は、5年前に社長を退任。4年前には取締役を辞任し、経営から退いた。それまで起業家として生きてきた佐藤氏が次に選んだのは起業家支援。BEENEXTを設立し、新しいイノベーションを起こそうとしている起業家への投資を始めた。その中でも投資の中心と…

チェ・ゲバラに憧れた10代起業家が目指す「働き方革命」― 谷口怜央・Wakrak(ワクラク)社長

ペット仏具の先駆企業が「ペットロスカフェ」で目指す癒しの空間づくり

大学の挑戦

一覧へ

専門分野に特化した“差別化戦略”で新設大学ながら知名度・ブランド力向上を実現――了徳寺大学・了徳寺健二理事長・学長

2000年設立で、了徳寺大学が母体のグループ法人。医療法人社団了徳寺会をグループ内に持つ。大学名の「了」は悟る、了解する、「徳」は精神の修養により、その身に得た優れた品性、人格を指す。「了徳寺」は人間としての品性、道を論す館の意味を込めた大学名だ。 聞き手=本誌/榎本正義 、写真/佐々木 伸 …

大学の挑戦

創立100周年、西南学院大学・K.J.シャフナー学長「世界に貢献しインパクトを与える人材を育てる」〜国際交流・就職支援・インターネット出願〜 

「“STAND BY YOU”のスローガンの下、学生一人ひとりに寄り添う教育を」――中央学院大学・佐藤英明学長

経済界からのお知らせ

最新号のご案内

経済界2019年7月号
[特集] 素材の底力〜世界をリードする素材産業〜
  • ・素材のイノベーションが日本経済をリードする
  • ・化学工場 企業ごとの特色も鮮明に存在感増す化学素材
  • ・電気自動車普及が始まる車載バッテリーの覇権戦争
  • ・炭素繊維 市場を開拓してきた日本が技術的優位を保ち続ける法
  • ・「鉄は国家なり」の時代を経て問われる「日の丸製鉄」の競争力
  • ・経産省 日本の素材産業が世界をリードするための3つの課題
  • ・就職人気は下位に低迷でも焦らない素材メーカー
[Special Interview]

 日覺昭廣(東レ社長)

 「長期的視点で開発するのが素材企業のDNA」

[NEWS REPORT]

◆営業利益率10%突破 ソニーならではの「儲けの構造」

◆日本初の民間ロケットが宇宙空間に到達

◆携帯参入まであと4カ月 国内4番手「楽天」の勝算

◆日産・ルノーが直面する「経営統合問題」長期化の落とし穴

[Interview]

 「君は生き延びることができるか」──ガンダム世代が歩んだ40年

 常見陽平(評論家・労働社会学者)

ページ上部へ戻る