国際

 すでに旧聞に属するが、今年3月5日、ソウル市内の世宗文化会館で、韓国人、キム・ギジョン(金基宗)がマーク・リッパート駐韓米国大使を襲撃する事件が起きている。

 2010年7月、キム・ギジョン容疑者は、重家俊範駐韓大使に対して、10cm大のコンクリートの破片を投げつけた過去がある。日本大使は難を逃れたけれども、同行していた堀江麻友巳外務省書記官が手を負傷した。しかし、キムは同事件で懲役2年執行猶予3年の判決を受けたが、収監されていない。 キム・ギジョンは前科6犯で7回北への渡航歴がある。なぜか韓国政府は、キム容疑者が代表を務める「従北」(北朝鮮に追従する人)市民団体に、計3200万ウォン(約344万円)の支援金を支給していたという。

 さて、「リッパート大使襲撃事件」に関しては2つの重要な伏線があった。

 第1に、今年 1月、著名な米経済学者、ロバート・シャピロ(クリントン政権時代の商務省次官)が、朴槿恵大統領へビデオ・メッセージを送っている。 その主な内容は、

①韓国で「報道の自由」を保障せよ(具体的には、産経新聞の加藤達也前ソウル支局長の拘束を解く)
②日本はかつて韓国に8億米ドルという賠償金を支払った。
③ベトナム戦争時、韓国はベトナムと戦ったが、それを棚上げして両国は和解している。
④怨念をこえて、韓国は日本と仲良くすべきだ、と朴大統領に対し率直に提言している。

 第2に、翌2月27日、シャーマン米国務次官がワシントンで講演し、「ナショナリスト的な感覚で敵をけなすことは、国の指導者にとって安っぽい称賛を浴びる容易な方法だが、それは感覚が麻痺するだけで、進歩はうまない」と発言し、婉曲的に日中韓の各指導者に自制を求めたのである。

 この発言に対し、韓国側はアメリカが一方的に同国を非難し「日本に味方」したと捉えた。そして、この約1週間後に、リッパート大使襲撃事件が起きたのである。

 当日、キム・ギジョン容疑者は招待状を持たないにもかかわらず、リッパート大使の朝食会に忍び込んだ。その日、韓国側の警備体制が手抜きされていた疑いがある。

 突然、キム容疑者はリッパート大使に突進し、隠し持っていた25cmの果物ナイフで、大使の右顔面を長さ11cm、深さ3cmにわたり切りつけた。そのため、大使は80針を縫う重傷を負ったのである。キム容疑者は、その場で取り押さえられた。すぐに大使は車で病院へ運ばれたが、幸いにも命に別条はなかった。だが、傷がもう少し深ければ、キムの凶刃によって生命を落としていたかもしれない。

 リッパート大使は、オバマ大統領の親しい友人であり、民主党のホープである。将来の大統領候補とも言われる。この“政治テロ”は米国へ対するテロと見なされても仕方ない。  韓国警察は大使の警備は必ずしも同国側が行うべきものではないと、責任逃れをしている。だが、韓国警察の警備の甘さが今回の事件につながったことは間違いない。キム・ギジョンをしっかりマークしておかなかっただけでも、韓国側に非があるだろう。

 実は、リッパート大使は愛犬家として知られる。だが、一人の韓国人が精力をつけるためとして犬肉を持参し、リッパート大使が入院する病院(ソウル新村セブランス病院)に現れたのである。その男性に悪気はないのだろうが、さすがに大使側は受け取りを拒否している。  また、リッパート大使の入院先の病院前では、大使の全快祈願をする女性たちがチマチョゴリをまとい、一心不乱に扇をかざして舞った。他方、朴槿恵大統領の義弟、申東旭(シン・ドンウク)は、病院前で“ハンガー・ストライキ”を決行した。普通、“ハンガー・ストライキ”は政府等に抗議のため行うものである。大使は回復が早く、5日後の10日に退院した。

 事件当時、朴槿恵大統領は中東歴訪中だった。しかし、大統領は(外遊を切り上げず)予定をすべて終えてから帰国し、9日、リッパート大使を見舞っている。その際、朴大統領は大使に一切謝罪をしなかったと言われる。朴大統領は、自分も暴漢に顔面を切られたことがあると自らの辛い経験を大使に披露しただけだった。  そして、朴大統領は、リッパート大使に「早く全快して韓国とアメリカの発展のために一緒に歩みましょう」と述べた。これに対し大使は、「米韓関係の発展のため最善を尽くしたい」と応じたという。

 事件後、一時30%を切っていた朴大統領の支持率が、急に40%台へ回復した。さすがに、米韓同盟の瓦解を危惧する保守系の人々が、朴槿恵支持にまわったと思われる。

 その後の調べで、キム容疑者は、ネット上でオバマ大統領とリッパート大使が一緒に写った写真を検索し、大使の身長を把握していたことがわかった。用意周到である。結局、韓国検察は、キム容疑者を殺人未遂罪で起訴した。今後の公判が待たれる。

 以上のように、日本人の感覚からすれば、韓国人や朴槿恵大統領等の行動様式は理解しがたい点が多い。

 

関連記事

好評連載

グローバルニュースの深層

一覧へ

習近平政権下の中国経済と新時代の到来

[連載] グローバルニュースの深層

グローバルニュースの深層

[連載] グローバルニュースの深層

原油事情に関するロシアの分析

[連載] グローバルニュースの深層

プーチン露大統領の内外記者会見

[連載] グローバルニュースの深層

中間選挙後の米国を展望する

[連載] グローバルニュースの深層

中国を制するものは世界を制す

変貌するアジア

一覧へ

鴻海によるシャープ買収のもう1つの狙い

[連載]変貌するアジア(第37回)

[連載]変貌するアジア(第36回)

SDRの一翼を担う人民元への不安

[連載]変貌するアジア(第33回)

開催意義不明の日中韓首脳会議

[連載]変貌するアジア(第32回)

朱立倫の総統選出馬と台湾海峡危機

津山恵子のニューヨークレポート

一覧へ

CESの姿が変わる花形家電よりもネットワークに

[連載] 津山恵子のニューヨークレポート(第20回)

津山恵子のニューヨークレポート

[連載] 津山恵子のニューヨークレポート(第19回)

米・キューバ国交回復のインパクト

[連載] 津山恵子のニューヨークレポート(第18回)

クリスマス商戦に異変! 店舗買いが消え行く

[連載] 津山恵子のニューヨークレポート(第17回)

格差問題が深刻化する米国―教育の機会格差解消にNY市が動き出す

[連載] 津山恵子のニューヨークレポート(第16回)

米中間選挙で共和党が圧勝 16年大統領選はどうなる!?

ビジネストレンド新着記事

注目企業

一覧へ

刺激を浴びて徹底的に考え抜くことで自らを変革する―― 鎌田英治 グロービス 知命社中代表

「創造と変革」を掲げリーダー教育事業を展開しているグロービス。未来が予見しづらい混迷の時代を迎え、まさに新たな時代を切り拓いていくリーダーが求められている。そのような状況を受けて、グロービスは昨年、新たに執行役員以上に限定したエグゼクティブ向けのプログラム「知命社中」を開設した。[PR]次世代を担う経営リーダ…

ワンストップで手厚くサイトの売却をサポートするサイトマ――中島優太(エベレディア社長)

「支持政党なし」をつくった男のユニークな発想とビジネス――佐野秀光(情報通信ネットワークグループ社長)

新社長登場

一覧へ

メディカル事業を横串にすることでシナジーを発揮し、顧客満足度向上へ 伏見有貴(リゾートトラスト社長)

会員制ホテルなどを展開するリゾートトラストは4月1日付でトップが交代し、創業者の1人である伊藤與朗会長は代表取締役ファウンダーグループCEOに就いた。共同創業者の伊藤勝康社長は代表取締役会長CEOとなった。伏見有貴副社長は代表取締役社長COOとなり、創業45年で初めて代表取締役3人体制となった。聞き手=榎本正…

新事業の芽を伸ばすことでさらに大きな個性的な会社を目指す――日髙祥博(ヤマハ発動機社長)

「技術立脚の理念の下、付加価値の高い香料を開発します」――高砂香料工業社長 桝村聡

イノベーターズ

一覧へ

老舗コニャックメゾンがブランド強化で日本市場を深耕――Remy Cointreau Japan代表取締役 宮﨑俊治

フランスの大手高級酒グループ、レミー・コアントロー社の日本法人。18世紀から愛飲されてきた名門コニャックの「レミーマルタン」や世界有数のリキュール「コアントロー」をはじめ、スピリッツやウイスキーなど戦略的なラインアップを日本市場で展開している。同社の宮﨑俊治代表取締役に事業展開について聞いた。 &nbs…

リグナ社長 小澤良介 家具のEC販売から様々な展開へ

内装空間の総合プロデュースで想いをカタチに創り上げる――ユニオンテック社長 大川祐介

大学の挑戦

一覧へ

専門分野に特化した“差別化戦略”で新設大学ながら知名度・ブランド力向上を実現――了徳寺大学・了徳寺健二理事長・学長

2000年設立で、了徳寺大学が母体のグループ法人。医療法人社団了徳寺会をグループ内に持つ。大学名の「了」は悟る、了解する、「徳」は精神の修養により、その身に得た優れた品性、人格を指す。「了徳寺」は人間としての品性、道を論す館の意味を込めた大学名だ。 聞き手=本誌/榎本正義 、写真/佐々木 伸教育部…

大学の挑戦

創立100周年、西南学院大学・K.J.シャフナー学長「世界に貢献しインパクトを与える人材を育てる」〜国際交流・就職支援・インターネット出願〜 

「“STAND BY YOU”のスローガンの下、学生一人ひとりに寄り添う教育を」――中央学院大学・佐藤英明学長

経済界からのお知らせ

最新号のご案内

経済界2018年12月号
[特集]
平成 ランキングで振り返る“時代”の経営者

  • ・バブル破裂で顔ぶれ一新 平成人気経営者の系譜
  • ・次の時代を創るリーダーとは?

[Special Interview]

 榊原定征(2025日本万国博覧会誘致委員会会長)

 「誘致決定まで1カ月 大阪万博を日本経済の起爆剤に」

[NEWS REPORT]

◆コンビニ軽減税率適用で激化する「外食VS中食」の戦い

◆「液晶のシャープ」が有機ELスマホを発売 初の国産パネルで攻勢をかける

◆「世界一高い」と認定された日本の携帯料金のこれから

◆チャネル政策を見直すトヨタ自動車の危機感

[特集2]

 北海道・新時代の幕開け

ページ上部へ戻る