国際

中国経済に多大な影響を与えたリーマン・ショック

 6月27日(土)、隣国から我が国へ驚くべきニュースが飛び込んできた。

 中国人民銀行(中央銀行)が、翌28日(日)から“1年モノ”預金金利と“1~5年モノ”貸出金利を0.25%ずつ引き下げると発表したのである。タカが0.25%と考えてはならない。この0.25%には、重大な意味が隠されているからである。

 以前から、われわれが主張しているように、中国版「公定歩合」(今の日本では使用されなくなった貸出・預金金利。とりわけ貸出金利が重要である)の推移を見れば、同国の景気動向が一目瞭然である。北京政府の発表する(あてにならない)GDPなどと違って、こればかりは一点の曇りもない。

 世界で大半の政府は景気が良ければ、金利を上げる。景気が悪ければ、金利を下げる。景気が過熱しないように、あるいは、景気が落ち込まないよう金利でコントロールする。

 さて、中国では、1996年以後、2002年2月の“1~3年モノ”貸出金利5.49%が最低だった(ちなみに、同期“1年モノ”預金金利は1.98%である。この2%を切る預金金利は、96年以降、今もなお経験していない)。

 中国の預金・貸出金利の推移〔Ⅰ〕(96年5月~07年9月まで)

 

 

 2008年9月15日、世界を揺るがす「リーマン・ショック」が起きた。直後、胡錦濤政権(当時)は、翌日16日から同年12月23日まで矢継ぎ早に、5回の中国版「公定歩合」引き下げを行った。景気後退期なので、時宜を得た金融政策だったと言えよう。

 同年12月、“1~3年モノ”貸出金利は、ついに5.40%まで下がった。この貸出金利は、1996年以来、最低である(ただし、“1年モノ”預金金利は2.25%)。いかに「リーマン・ショック」が中国経済に多大なる影響を与えたのかがわかるだろう。

 そして、2008年12月から2010年10月まで、この金利は続いた。その後、中国の景気は徐々に回復し、それに従って金利は上昇している。2011年7月7日、“1~3年モノ”貸出金利が6.65%でピークとなった(“1年モノ”預金金利は3.50%)。だが、これを境にして、中国経済は緩やかな下降線を描く。

 2014年、中国は景気が落ち込んだ。そこで、同年11月以来、習近平政権は、続けざまに4度の利下げを行なったのである。そのため、今年(2015年)5月11日の利下げで、“1~5年モノ”貸出金利が5.50%まで下がった(“1年モノ”預金金利は2.5%)。

リーマン・ショックを超える最悪期を迎えた中国経済

 けれども、数字はマジックである。以前、中国では、貸出金利の“1~3年モノ”と“3~5年モノ”は峻別され、金利が異なっていた(普通、後者の金利が高い)。だが、昨年来、なぜか習近平政権は、貸出金利“1~3年モノ”と“3~5年モノ”を“1~5年モノ”へと一括にしたのである。

 実は、今年5月の貸出金利(5.50%)だが、“1~3年モノ”に関しては、2008年12月の貸出金利(5.40%)よりも高い。ところが、“3~5年モノ”については、08年12月の金利(5.76%)より低いのである。つまり、今年5月には、すでに中国経済が、08年12月の最悪期と同レベルか、それより悪くなったと考えられる。

 しかし、6月28日、中央銀行による金利の更なる引き下げで、“1~5年モノ”貸出金利が5.25%となった( “1年モノ”預金金利は2.25%)。この数字は、1996年以降、誰がどう見ても“1~3年モノ”にせよ“1~5年モノ”にせよ、貸出金利が最も低い。

 中国の預金・貸出金利の推移〔Ⅱ〕(07年12月~15年6月)

 と言うことは、96年以来、中国経済は、最悪の時期を迎えていると言っても過言ではない。それにもかかわらず、習近平政権は、「新常態」(「ニュー・ノーマル」)を唱え、しっかりした景気対策を打っていない。アジア・インフラ投資銀行(AIIB)にしても「一帯一路」の「新シルク構想」にしても、現在の中国の不況を救えるのか、疑問符が付く。

 結局、習近平政権は、景気回復の手立てがないのか、それとも「反腐敗運動」(反腐敗に名を借りた政敵打倒政策)が忙しくて、経済対策に手が回らないかのどちらかに違いない(無論、両方ということもあり得る)。

 「グローバル化」した現在、世界第2位の経済大国、中国の景気後退は世界に及ぼす影響は決して小さくないだろう。さらに、危惧すべきは、中国経済の悪化は、失業者を増やす。それが社会的不安増大(集団的騒乱事件の増加)につながる恐れもある。中国経済からは目が離せない。

 

筆者の記事一覧はこちら

【国際】の記事一覧はこちら

 

経済界電子版トップへ戻る

関連記事

好評連載

グローバルニュースの深層

一覧へ

習近平政権下の中国経済と新時代の到来

[連載] グローバルニュースの深層

グローバルニュースの深層

[連載] グローバルニュースの深層

原油事情に関するロシアの分析

[連載] グローバルニュースの深層

プーチン露大統領の内外記者会見

[連載] グローバルニュースの深層

中間選挙後の米国を展望する

[連載] グローバルニュースの深層

中国を制するものは世界を制す

変貌するアジア

一覧へ

鴻海によるシャープ買収のもう1つの狙い

[連載]変貌するアジア(第37回)

変貌するアジア

[連載]変貌するアジア(第36回)

SDRの一翼を担う人民元への不安

[連載]変貌するアジア(第33回)

開催意義不明の日中韓首脳会議

[連載]変貌するアジア(第32回)

朱立倫の総統選出馬と台湾海峡危機

津山恵子のニューヨークレポート

一覧へ
無農薬野菜

[連載] 津山恵子のニューヨークレポート(第20回)

CESの姿が変わる花形家電よりもネットワークに

[連載] 津山恵子のニューヨークレポート(第19回)

米・キューバ国交回復のインパクト

[連載] 津山恵子のニューヨークレポート(第18回)

クリスマス商戦に異変! 店舗買いが消え行く

[連載] 津山恵子のニューヨークレポート(第17回)

格差問題が深刻化する米国―教育の機会格差解消にNY市が動き出す

ビジネストレンド新着記事

注目企業

一覧へ

葬儀業から脱皮しライフイベントのプラットフォーム運営企業へ―ライフアンドデザイン・グループ

古い体質が残り実体が見えにくい葬儀業界の中で、「パッケージ化された分かりやすいサービス」「家族葬など小規模葬儀に特化」「低価格だが高品質のおもてなし」「出店スピードの速さ」等を強みに事業拡大。人生の終末や死別後に備えた事前準備を行う。文=榎本正義 村元 康・ライフアンドデザイン・グループ社長…

人材領域で培ったテクノロジーを活用し社会課題を解決する―ビズリーチ

上場して分かったTOKYO PRO Marketのメリット―前田浩・ニッソウ社長に聞く

新社長登場

一覧へ

地域に根差した証券会社が迎えた創業100周年―藍澤卓弥(アイザワ証券社長)

中堅証券会社のアイザワ証券は今年7月、創業100周年を迎えた。この記念すべき年に父からバトンを受け継ぎ新社長となったのが、創業者のひ孫にあたる藍澤卓弥氏。地域密着を旗印に掲げてここまで成長してきたアイザワ証券だが、変化の激しい時代に、藍澤社長は何を引き継ぎ、何を変えていくのか。聞き手=関 慎夫 Photo:西…

メディカル事業を横串にすることでシナジーを発揮し、顧客満足度向上へ 伏見有貴(リゾートトラスト社長)

新事業の芽を伸ばすことでさらに大きな個性的な会社を目指す――日髙祥博(ヤマハ発動機社長)

イノベーターズ

一覧へ

「測量美術」が起こす道路工事のイノベーション―草木茂雄・エムアールサポート社長

経済界が主催するベンチャー企業支援企画「金の卵発掘プロジェクト2018」でグランプリを受賞した草木茂雄・エムアールサポート社長。建設・土木というガテン系の領域でイノベーションを起こすための挑戦を追った。(吉田浩)草木茂雄・エムアールサポート社長プロフィール 測量とアートが結び付く「測量美術」とは何…

IT化で変革する産業廃棄物処理の世界―福田隆(トライシクルCEO)

再エネ時代到来に向け、大石英司・みんな電力社長が目指す「顔の見える」世界

大学の挑戦

一覧へ

専門分野に特化した“差別化戦略”で新設大学ながら知名度・ブランド力向上を実現――了徳寺大学・了徳寺健二理事長・学長

2000年設立で、了徳寺大学が母体のグループ法人。医療法人社団了徳寺会をグループ内に持つ。大学名の「了」は悟る、了解する、「徳」は精神の修養により、その身に得た優れた品性、人格を指す。「了徳寺」は人間としての品性、道を論す館の意味を込めた大学名だ。 聞き手=本誌/榎本正義 、写真/佐々木 伸 …

大学の挑戦

創立100周年、西南学院大学・K.J.シャフナー学長「世界に貢献しインパクトを与える人材を育てる」〜国際交流・就職支援・インターネット出願〜 

「“STAND BY YOU”のスローガンの下、学生一人ひとりに寄り添う教育を」――中央学院大学・佐藤英明学長

経済界からのお知らせ

最新号のご案内

経済界2019年8月号
[特集] SDGsは江戸にある
  • ・「仁義道徳」 経済人に必要な「利益」と「倫理」
  • ・「利他」 「気候変動に具体的な対策を お金の流れが意識を変える」
  • ・「善の巡環」 高邁な理想を支える創意工夫と挑戦
  • ・「才覚、算用、始末、商人倫理」 SDGsの精神宿る江戸商人
  • ・「国利民福」 国が栄えれば人々も幸福になる
  • ・「先も立ち、我も立つ」 石田梅岩と商人道徳
  • ・「気丈」 学問は「治安」「エンタメ」「立身出世」──江戸庶民の教育事情
  • ・「心田開発」 二宮尊徳の報徳思想
[Special Interview]

 里見 治(セガサミーホールディングス会長グループCEO)

 日本初のIR事業への参入はエンターテインメント事業の集大成

[NEWS REPORT]

◆メガバンクからの陥落目前 みずほ銀行の昨日・今日・明日

◆巨大ドラッグストアチェーン誕生か 業界再編はココカラ始まる

◆カリスマ・鈴木修会長に陰り? ピンチを迎えたスズキの前途

◆G20農相会合で見えてきたスマート農業の未来像

[特集2]

 AI時代に稼げる資格

 今必要な資格、将来必要な資格はこれだ!

ページ上部へ戻る