マネジメント

今年3月にLINE社長を退任し、去就が注目されていた森川亮氏が選んだ道は、ネットベンチャーの起業だった。若い女性たちがファッション、メーク、ヘアースタイルなどを紹介するネット動画雑誌「C Channel(シー・チャンネル)」は、ハイペースでユーザーを増やしている。LINEで培ったユーザー獲得や海外展開のノウハウを武器に、新たな巨大メディアの創造に突き進む。

森川亮氏は語る 若い人たちが活躍しないと日本に未来はない

―― 新たなビジネスを始めるにあたって、えっと、動画ファッションサイトとでも呼べば良いんでしょうか? そこに着目した理由は何ですか。

森川 「動画ファッション雑誌」ですね。LINEを辞めて何をしようかとなった時に、日本のために何かやりたいなと思ったんですね。日本には少子高齢化をはじめ、教育、ヘルスケア、農業、エネルギーなどさまざまな課題があります。

 そこでいろいろ研究したんですが、僕自身の経験や市場環境を考えると、一番自分の力が生かせそうなのはメディアの事業かなと。平均年齢が上がっているので、メディアもどうしてもそういう人たち向けにならざるを得なくなっていて、若い人が活躍するメディアが減っています。でも若い人が活躍しないと日本の未来はないなと。

 だから、自分でメディアを作って、それをグローバルに持っていこうと。新しいことに対しては、男性よりも女性のほうが素直に受け入れる傾向があるので、まずは若い女性向けに動画サービスを展開することにしました。

―― 「食」も含まれていますよね。

森川 食べ物も動画で見たほうが臨場感がありますからね。動画の時間は長過ぎず、スマホで見やすいように映像は縦型にしています。

―― 動画を投稿する、クリッパーと呼ばれる方々が活躍していますね。

森川 「ビデオジャーナリスト」という言葉が以前はやりましたが、今はスマホで撮影できるようになって、撮影現場の革命が起きています。

 現在はiPhoneで撮ってもらった映像をこちらで編集してアップしていますが、iPhoneで編集もできるアプリが出てくるので、次のステージでは、クリッパーさんが撮って編集してアップできる、いわば1つの放送局みたいになっていきます。

―― クリッパーさんたちはどこから集めてきたんですか。

森川 タレントさんもいますが、事務所に所属せずに、学生やOLをしながらたまにモデル活動する読者モデルの人たちが多いです。

 プロの人たちはどうしてもカメラを向けられると本気になってしまいますが、あまり本気過ぎると若い人たちは引いてしまう場合もあります。最近の若い人たちには押しつけがましいものよりは自然なものが好まれます。

 だから読者モデルの方たちが、何となく自分たちの好きなものを紹介するほうがリアリティーがあるんです。

―― クリッパーさんは現在100人ですが、増やす予定はないですか。

森川 ないですね。いろんな方に話を聞くと、「8:2の法則」というのがあって、重要なのは2割の人たち。それ以上増やしても効果は出ないので、どう人を入れ替えていくかが重要ですね。

 そもそも世の中に影響力がある人はそんなにいないので、育てるほうが大事です。100人の質を高めたり、外国人を入れたりしていきます。

―― アップする動画の基準はどう設けているのですか。

森川 まずはファッション、メーク、ヘアーのカテゴリに合う物。そしてワクワクするような情報。新たな店のオープンとか、人気のお店とか、自分の好きな服など、みんなが見たくなるものを送ってくださいと伝えています。どこそこに行ってくださいと、こちらから口出すことはないです。

―― クリッパーさんの報酬は。

森川 多少お支払しています。ただ、それで食べていけるようになると本気になってしまって、目つきが嫌らしくなりますので(笑)、小遣い稼ぎくらいの緩い感覚がちょうどいいんですよ。

 結果的にカリスマクリッパーが出てくるのはいいんですが、あんまりギラギラしないほうがいいみたいです。

 原宿界隈の人たちに話を聞くと、あんまり「良い」とか「安い」とかを押し出さずに、カフェでお茶を飲んでいたら、たまたまいいものが見つかったみたいな感じが好まれるらしいです。

森川亮氏の戦略 スピード感を持って一気に拡大

―― 収益モデルは広告ですよね。現在のPVはどれくらいですか。

森川 まだ開始して1カ月ですが、月間100万くらいです(注・取材は15年5月半ば)。海外からのアクセスも増えています。夏には英語版も出しますし、6月からは海外のクリッパーさんも入って、世界中から動画をアップする体制になります。

―― PR活動はどのように。

森川 僕がいろんなところに出たり(笑)、あとはタレントさんがツイッターで紹介したり。ネット検索で引っ掛かるか、ソーシャルメディアで拡散するか、あとは取材を受けて記事がネットに出るかの3つですね。その3つを徹底してやりました。

―― 最初に一気に広げることが肝心なんでしょうね。

森川 そうですね。日本人向けにカスタマイズしてしまうと海外に展開しにくくなっちゃうので、最初から外国人も入れて、ごった煮のような形で外に持っていくようにしたいと。今後は会員登録をして年齢や好みなどに応じて、その人が好きな動画だけがタイムライン上に出てくるようにして、自分だけの動画雑誌ができる感じですね。今はブラウザ対応だけですが、アプリでも展開します。これら第1弾のステップが夏までに完了する見通しです。

―― スピード感がすごいですね。

森川 さすがに会社をつくってすぐにサービスをリリースしたので、もうバタバタです(笑)。

―― C Channelという社名はどこから。

森川 映像系をやるということで、「チャンネル」がいいかなと。それでコミュニケーションの「C」を付けて。全くの偶然なんですが、「Cチャンネル」で検索すると同じ名称の建築資材が出てくるらしいです。最初バタバタしてまして、それを知らなかった(笑)。

―― ベンチャーらしい逸話ですね。

森川 かなり短い時間で会社をつくって、資金調達して、社員を採用して、サービスを立ち上げてメディアにも出て。構想が浮かんでから立ち上げまで、3カ月で全部行いました。構想段階から今まで4カ月しかたっていませんが、夏には海外展開ですから。

―― 早過ぎませんか?(笑)

森川 社員はみんな怒ってると思いますよ(笑)。

森川亮氏の思い 失敗して叩かれても死ぬわけじゃない

―― サイトのデザインなどに関しても、森川さんのこだわりが反映されているのですか。

森川 デザインそのものというより、デザインが重要だという考え方の部分でのこだわりはあります。だから、ある程度デザイナーに権限を与えることを重要視しています。僕の言うことを聞かない人もいますし(笑)。

―― 森川さん自身のファッションへの想い入れは。

森川 あんまりないです。以前手掛けていたゲームも最初はそんなに好きではなかったんですが、分からないほうがタブーを壊せますよね。あまり好き過ぎるとそれしか目に入らないですが、今は客観的に見られる良さがあります。

―― 社長がその世界をよく分からないぐらいがちょうどいいんですかね。

森川 中途半端に分かっているよりは、全然分からないか、すごく分かってるかのどちらかがいいんじゃないでしょうか。

―― カリスマブロガーなどを集めたメディアはほかにもありますが、成功するための鍵は何だと考えますか。

森川 まずはスターを生み出すこと。そして、海外展開を最初から狙うことが重要じゃないでしょうか。あとはスピード。特にファッションの世界はトレンドの変化が早いですから。

―― 最終的にはどれくらいの規模感を想定していますか。

森川 目指したいのはMTVです。若い人たちが憧れて、そこに出たいと思うようなブランドにしたいです。

―― 森川さんは有名人なので、失敗したら目立っちゃうリスクもありますよね。

森川 亮(もりかわ・あきら) 1967年生まれ。神奈川県出身。89年筑波大学卒業後、日本テレビ放送網入社。その後、ソニーを経て2003年ハンゲームジャパン(現LINE)入社、07年社長に就任。15年3月、社長を退任し、アドバイザーとして顧問に就任。同年4月にC Channelを立ち上げ、社長に就任。

森川 亮(もりかわ・あきら) 1967年生まれ。神奈川県出身。89年筑波大学卒業後、日本テレビ放送網入社。その後、ソニーを経て2003年ハンゲームジャパン(現LINE)入社、07年社長に就任。15年3月、社長を退任し、アドバイザーとして顧問に就任。同年4月にC Channelを立ち上げ、社長に就任。

森川 まあ、失敗して叩かれても死ぬわけではないですから。ただ、社員のためにも失敗するわけにはいきません。現状の数字を見ていると、大失敗はしないと思いますよ。少なくとも今回資金調達した以上の価値にはなりそうです。

―― ベンチャーの経営者として新たな発見はありますか。

森川 やっぱり、世の中はベンチャーに冷たいですよね。単純に社名だけ出すと金融機関などの審査も通らないけど、僕の名前を出してやっと通るなんてこともあります。そういう意味でも、ゼロからつくるのは本当に大変です。

(聞き手=本誌編集長/吉田 浩 写真=幸田 森)

動画はソーシャル上で楽しむ流れに(森川亮)

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