政治・経済

「ついに、あなたの家へ。」というキャッチフレーズで、ソフトバンクがパーソナルロボット「Pepper」の一般販売を開始した。利用料金の総額を考えると購買層はまだ限られるが、次のコミュニケーションプラットフォームのデファクトスタンダードを狙う。

トータルの利用料金は100万円を超える

 昨年のお披露目から約1年、ソフトバンクはパーソナルロボット「Pepper」の一般向け販売を開始した。既に開発者向けには2月に発売していたが、遅れること4カ月、ついに一般向けの販売となった。

 販売開始にあたって開催した発表会で孫正義社長が強調したのが、Pepperの進化だ。この1年で、感情機能を強化し、「ロボット自らが感情を持つ」とアピールした。

 今回強化した感情機能とは、人間のホルモンと感情のバランスをモデル化したもので、子会社のCOCORO SBが開発を進めてきた。

 人間の脳からは、五感から受け取る外部刺激に対して、セロトニン、ドーパミン、ノルアドレナリンの3つのホルモンが分泌され、感情を形成する。Pepperではこの仕組みを疑似的に実現。各種センサーから得た情報を元に3つのホルモンの要素のパラメータを処理して感情を生成する。Pepperが喜怒哀楽を表現することで、人間とのコミュニケーションがより深いものとなる。

 本体価格は税込みで21万3840円。ただし、こうした感情機能や各種アプリなどをクラウドで利用するためには、月々1万5984円×36カ月の基本プランへの加入が必要となる。

 また、故障した際などにサポートを受けられる保険パックが月々1万584円×36カ月となる。そのほかにロボット手続き手数料1万584円が掛かる。さらにWiFiを介してネットに接続するため、使用する際にはWiFi環境の整備が必要となる。このため、利用代金の総額は100万円を超える。

左からフォックスコンCEOのテリー・ゴウ氏、ソフトバンク社長の孫正義氏、アリババ会長のジャック・マー氏(2015年6月18日)

左からフォックスコンCEOのテリー・ゴウ氏、ソフトバンク社長の孫正義氏、アリババ会長のジャック・マー氏(2015年6月18日)

 昨年のPepper発表の際には、21万3840円という本体価格が注目された。現在でもこの本体価格は原価割れだというが、ハイエンドPC並みの値段に抑えたことで購買層が広がるとの見立てだった。昨年の発表時に指摘されたのは、ソフトバンクはPepperで携帯電話やゲーム機のようなビジネスモデルを展開するため、ロボット本体は低価格で提供することで普及を促し、アプリケーションで利益を上げようとしているということ。

 仮に、既存のモノづくりのメーカーがPepperと同等のロボットを作ってビジネスを展開しようとすると、開発費を回収するため、製品価格は100万円以上になると見られている。

 しかし今回、明らかになったPepperの利用代金の総額はモノづくりメーカーのロボットビジネスと同等になる。孫社長は、ロボット事業について「最初の4〜5年は研究開発期間と位置付け、5年後ぐらいに収益が上がればよい」と語ったが、現時点でも赤字覚悟のビジネスではなさそうだ。

 6月20日の販売開始にあたって用意した1千台はわずか1分で完売。関心の高さがうかがえた。利用コストまでを考えると決して安い買い物ではないだけに、現時点で購買層は限られてくるだろう。

 また、7月には主に接客業向けにPepperの「人材派遣」事業を開始。時給1500円でティッシュ配付や受付などの業務に派遣する。

 さらに今秋にはビジネス用途の法人向けに専用アプリやサポートを備えた「Pepper for Biz」を展開するが、ビジネス向けは利益が上がる料金体系を適用するという。

合弁事業で世界市場を一気に攻める

 孫社長は「30年後にはロボットの数が、地球上の人口を超える可能性があると思っている」と語った。その頃にはロボット事業が中核事業の1つになると期待を寄せており、そのための布石を着々と打っていく。7月、8月の生産体制は未定だが、今後は早い段階で月産1千台体制を構築する方針。

 さらに世界展開を視野に入れ、ロボット事業をグローバルでの合弁事業とする。ソフトバンクのロボット事業を統括するソフトバンクロボットティクスホールディングスに台湾フォックスコン・テクノロジー・グループと中国アリババグループが株式の20%にあたる145億円をそれぞれ出資する。

 もともとフォックスコンにはPepperの製造を委託しているが、出資を受け事業を合弁とすることで、その結び付きをさらに強化。量産体制の拡充や生産技術の革新を進める。さらにアリババも加わることで、アリババを介してワールドワイドで多くのデベロッパーを巻き込もうとしている。

 まだ日本の市場すら立ち上がったとは言えない状況での世界展開は、次のコミュニケーションプラットフォームとしてのロボットのデファクトスタンダードをグローバルで取りにいこうとする本気度がうかがえる。

 Pepperのグローバルでの流通量を増やして、市場開拓に先鞭をつける構えだ。合弁事業の具体的なスケジュールはまだ決まっていないが、年内に実験的に海外進出を検討するという。

 Pepperの発表会には、フォックスコンCEOのテリー・ゴウ氏とアリババ会長のジャック・マー氏も登壇。「2人がこの場にいることが、強いコミットメントの証しだ」と孫社長は胸を張った。世界同時展開で一気呵成に攻めていく。

(文=本誌/村田晋一郎)

 

【ソフトバンク】関連記事一覧はこちら

 
経済界 電子雑誌版のご購入はこちら!
雑誌の紙面がそのままタブレットやスマートフォンで読める!
電子雑誌版は毎月25日発売です
Amazon Kindleストア
楽天kobo
honto
MAGASTORE
ebookjapan
 

雑誌「経済界」定期購読のご案内はこちら

経済界電子版トップへ戻る

関連記事

好評連載

深読み経済ニュース

一覧へ
一般社団法人かぎろい出版マーケティング代表 西浦孝次氏

[連載] 深読み経済ニュース解説

2015年の経済見通し

[連載] 深読み経済ニュース解説

再デフレ化に突入し始めた日本経済

[連載] 深読み経済ニュース解説

消費税率引き上げ見送りの評価と影響

[連載] 深読み経済ニュース解説

安倍政権が解散総選挙を急ぐ理由

実録! 関西の勇士たち

一覧へ

水辺に都市が栄える理由と開発の事例を探る

[特集 新しい街は懐かしい]

水辺に都市が栄える理由と開発の事例を探る

[連載] 実録! 関西の勇士たち(第20回)

稀有のバンカー、大和銀行・寺尾威夫とは

[連載] 実録! 関西の勇士たち(第17回)

三和銀行の法皇・渡辺忠雄の人生

[連載] 実録! 関西の勇士たち(第14回)

住友の天皇・堀田庄三の人生

[連載] 実録! 関西の勇士たち(第11回)

商売の神様2人の友情 江崎利一と松下幸之助

ビジネストレンド新着記事

注目企業

一覧へ

次なるステージを駆け上がる日本電子「70年目の転進」–日本電子

 最先端の分析機器・理科学機器の製造・販売・開発研究等を手掛ける日本電子(JEOL)は、ノーベル賞受賞者を含むトップサイエンティストや研究機関を顧客に、世界の科学技術振興を支えてきた。足元の業績は2019年3月期で連結営業利益、同経常利益、同最終利益がいずれも過去最高を更新。かつては技術偏重による「儲からない…

独自開発のホテル基幹システムで業務効率化と顧客満足度を向上–ネットシスジャパン

逆転の発想で歴史に残る食パンを 生活に新しい食文化をもたらす–乃が美ホールディングス

新社長登場

一覧へ

森島寛晃・セレッソ大阪社長が目指すクラブ経営とは

前身のヤンマーディーゼルサッカー部を経て1993年に創設されたセレッソ大阪。その25周年にあたる2018年12月に社長に就任した森島寛晃氏は、ヤンマー時代も含めて通算28年間セレッソ一筋、「ミスターセレッソ」の愛称を持つ。今も多くのファンに愛される新社長が目指すクラブ経営とは。聞き手=島本哲平 Photo=藤…

森島寛晃・セレッソ大阪社長

カリスマ創業者の後任として描く「新しいマネックス証券像」― マネックス証券社長 清明祐子

「若者需要の開拓でビール市場を盛り上げていく」塩澤賢一(アサヒビール社長)

イノベーターズ

一覧へ

非大卒就職マーケットの変革に挑む元教師の挑戦―永田謙介(スパーク社長)

日本企業の年功序列と終身雇用が崩壊に向かう中、制度を支えてきた大学生の新卒一括採用の是非もようやく議論されるようになってきた。一方、高校卒業後に就職する学生のための制度は旧態依然とし、変化の兆しがほとんど見えない。こうした現状を打ち破るべく、非大卒就職マーケットの改革に挑戦しているのがSpark(スパーク)社…

起業家にとって「志」が綺麗ごとではなく重要な理由―坂本憲彦(一般財団法人立志財団理事長)

勉強ノウハウと法律知識で企業の「働き方改革」を促進する―鬼頭政人(サイトビジット社長)

大学の挑戦

一覧へ

専門分野に特化した“差別化戦略”で新設大学ながら知名度・ブランド力向上を実現――了徳寺大学・了徳寺健二理事長・学長

2000年設立で、了徳寺大学が母体のグループ法人。医療法人社団了徳寺会をグループ内に持つ。大学名の「了」は悟る、了解する、「徳」は精神の修養により、その身に得た優れた品性、人格を指す。「了徳寺」は人間としての品性、道を論す館の意味を込めた大学名だ。 聞き手=本誌/榎本正義 、写真/佐々木 伸 …

大学の挑戦

創立100周年、西南学院大学・K.J.シャフナー学長「世界に貢献しインパクトを与える人材を育てる」〜国際交流・就職支援・インターネット出願〜 

「“STAND BY YOU”のスローガンの下、学生一人ひとりに寄り添う教育を」――中央学院大学・佐藤英明学長

経済界からのお知らせ

最新号のご案内

経済界2020年5月号
[特集] 巻き込む力
  • ・高岡浩三(ネスレ日本社長兼CEO)
  • ・唐池恒二(九州旅客鉄道会長)
  • ・河野 仁(防衛大学校教授)
  • ・入山章栄(早稲田大学大学院・ビジネススクール教授)
  • ・出口治明(立命館アジア太平洋大学学長)
  • ・中竹竜二(日本ラグビーフットボール協会理事)
  • ・時代も国境も超えた普遍のリーダーシップを学べるベストブックス
[Special Interview]

 小林喜光(三菱ケミカルホールディングス会長)

 イノベーションを起こすために「人間とは何か」を問う

[NEWS REPORT]

◆零細企業でも活用できるインターネットM&A最前線

◆業界再編はあるのか 日本製鉄、巻き返しへの一手

◆技術研究所を解体してホンダは何を目指すのか

◆新型コロナウイルス治療薬 なぜ日本企業は創れないのか

[特集2]

 経営者に贈る「イロとカネの危機管理」

ページ上部へ戻る