広告掲載
経営者に愛読される雑誌に記事を掲載しませんか?

2020年東京オリンピックに向け新国立競技場設計が迷走、巻き込まれた大手ゼネコン

ニュースレポート

2020年東京五輪・パラリンピックの主会場となる新国立競技場の設計案が迷走の末、現行デザインのまま建設されることになった。招致活動の象徴だったこのデザインに対して、大手ゼネコンは当初から懸念を示していたが、“責任者不在”は問題をさらにこじれさせた。

新国立競技場の建設、ゼネコン業界から実現性を疑う声

 「あんな奇怪な建物なんかできるわけがない」「いや、日本の技術なら可能だ。ただ、お金と時間が足らない」。

 2012年秋に設計案が決まって以来、新国立競技場の建設をめぐって、ゼネコン業界からはその実現性を疑う声が一斉に上がった。

 火種となったのは、開閉式の屋根を支える2本の「キールアーチ」、つまり巨大な橋だ。鋼鉄製で長さは1本370メートル、鋼材の使用量は約2万トンに上る。そもそも本来は建物に使う技術でなく、当初から難工事は必至とされた。ある一級建築士は「これは建築工事ではない。橋やトンネルと同じ土木工事だ」と指摘する。

 設計案を決めるコンペは、文部科学省の外郭団体である日本スポーツ振興センター(JSC)が実施した。10人で構成される審査委員会には建築や都市工学などの専門家を呼び寄せ、委員長には日本を代表する建築家である安藤忠雄氏が就いた。

 そして12年秋、紆余曲折の末に最優秀賞に選ばれたのはイラク出身の建築家、ザハ・ハディド氏の案だ。

 ハディド氏のデザインは奇抜過ぎて実際につくることが難しく、お蔵入りとなったものも多く、「アンビルド(実現が難しい建築)の女王」との異名を持つ。しかし、安藤氏は審査講評の中で「日本の閉塞的状況を打ち破れる」と高く評価。その上で「相当な技術力が必要」と付け加え、技術やコスト面での問題も指摘していた。

 結局、当初デザインでの建設費は約3千億円にも上った。さすがにこれはカネが掛かり過ぎだと見直されることになり、14年5月の基本設計案の発表時には、規模を縮小するなどとして1625億円まで圧縮された。だが、JSCは最大の難題だった開閉式の屋根にこだわり続けた。

 今回、JSCは実施設計から業者を参加させるプロポーザル方式を採用している。実績を重視してスタンド部分は大成建設、屋根部分は竹中工務店の協力を得た。

 だが、実際には14年秋ごろから両社はJSCに対して「この額では設計通りには建たない」と訴え続けてきた。そうした訴えがJSCや文科省の幹部の耳に届くまでには、相当の時間がかかった。

 さらに、世界的建築家である槙文彦氏らのグループは今年6月、「アーチをやめるべき。屋根は客席だけを覆えば十分だ」とコストや工期を圧縮した代替案を提示した。

 一方で下村博文文部科学相は「白紙になれば、国際的な信用を失う」とこれ以上の見直しを拒否。文科省も「コストを削れば、19年9月開催のラグビーワールドカップ(W杯)に間に合わない」との主張を続けた。

 結局、ゼネコン側の見積もりでは建設費は3千億円を超えた。“八方ふさがり”の状況に追い込まれたJSCなどは開閉式の屋根の設置を五輪後に先送りした上、座席の一部を仮設にすることでコストを削減する案を表明。建設費を2520億円に抑えることになった。

新国立競技場の前例のない建設費、コストを減らせないゼネコン側の事情

 なぜ、建設費は減らなかったのか。そこには「値引き」が難しいゼネコン側の事情がある。

 業界内では震災復興や都心の再開発の盛り上がりなどによる人手不足に伴って、労務費の上昇や鋼材など資材価格の高騰が続いている。

 かつて、ゼネコンは大型競技場や超高層ビルなどの「ランドマーク」を受注する場合は、“実績作り”を重視して採算度外視で引き受ける傾向があった。だが、人件費高騰など厳しい経営環境の中で、多くのゼネコンは受注案件を厳しく見極めているのが実情だ。

 しかも設計案のゴタゴタだけでなく、解体工事をめぐる入札不調などもあって、工事の開始は大幅に遅れている。ラグビーW杯に間に合わせるには、作業員を大量に動員する必要があり、必然的にコストはかさんでいく。要は「遅れれば遅れるほどカネが掛かる」(関係者)のだ。

 そもそも2520億円という建設費は破格中の破格だ。1千億円を超える競技場は世界でもほとんど前例がなく、横浜市の日産スタジアムは約600億円、「鳥の巣」として知られる北京五輪スタジアムも500億円程度だ。国民負担に頼ることを考えると、当初の設計案にこだわり続けたことへの代償は極めて大きい。

 「JSCから『コストを減らせ』と突きつけられ、何度も設計変更を強いられた。大変なことに巻き込まれてしまった、という思いだ」

 ゼネコン関係者らはこう嘆く。完成時期は当初予定から2カ月遅れの19年5月末で、W杯に間に合うには「ギリギリ」(下村文科相)のラインだ。

 責任者不在のツケはさまざまなところに回っている。

(文=ジャーナリスト/近藤一樹)

 

【政治・経済】の記事一覧はこちら

 
経済界 電子雑誌版のご購入はこちら!
雑誌の紙面がそのままタブレットやスマートフォンで読める!
電子雑誌版は毎月25日発売です
Amazon Kindleストア
楽天kobo
honto
MAGASTORE
ebookjapan
 

雑誌「経済界」定期購読のご案内はこちら

経済界電子版トップへ戻る