マネジメント

プロ野球史上初の女性オーナーとなった南場智子氏。野球に大きな感動をもらったことが幾度かあり、小さい頃読んだ、広島カープの高橋慶彦選手をモデルにした村上龍氏の小説『走れ!タカハシ』が「マイ・ベストブックの1つ」という。インタビューを通じて野球に対する熱い思いが伝わってきた。

南場智子氏は語る やっぱり球団を持って良かった

南場智子(なんば・ともこ)新潟市生まれ。1986年、津田塾大学卒業後、マッキンゼー・アンド・カンパニー入社。99年同社を退社後、ディー・エヌ・エー(DeNA)を設立。2011年、社長兼CEOを退任し取締役となる。15年1月、横浜DeNAベイスターズ球団オーナーに就任。同年6月DeNA取締役会長に就任。

南場智子(なんば・ともこ)新潟市生まれ。1986年、津田塾大学卒業後、マッキンゼー・アンド・カンパニー入社。99年同社を退社後、ディー・エヌ・エー(DeNA)を設立。2011年、社長兼CEOを退任し取締役となる。15年1月、横浜DeNAベイスターズ球団オーナーに就任。同年6月DeNA取締役会長に就任。

―― ベイスターズを買収した2011年当時は、球団を持つことに慎重でしたね。

南場 そうですね。大反対ではなかったですが、「えー」みたいな。ウチは派手なことをあまりする会社ではないので。

―― とはいえ、DeNAは目立つ会社だと思うんですが。

南場 意外と経営は堅実なんですよ。本業をしっかりと堅実にやるというポリシーからは、ちょっとジャンプしている感があるなと思ったのは確かです。

―― 現在、その認識は変わりましたか。

南場 やっぱり球団を持って良かったと思います。まず会社の知名度が上がりました。私たちは消費者向けにサービスを提供しているので、知名度はすごく大事。いろんな意味でのPR効果、マーケティング効果になっていると思います。

 もうひとつは生身のユーザーを目にする機会が増え、会社として大人になるというか、地域経済への貢献など、要するに社会との接点が増えたということですね。社会の中でのDeNAの在り方というのを、今まで以上に考えられるようになったと思います。

―― 球団経営に関して、親会社は広告宣伝費と割り切って赤字でも気にしない風潮が野球界にはあったと思います。その点についてはどう考えていますか。

南場 球界全体の認識については分かりませんが、プロ野球それ自体で産業として成り立つようにするのが重要だと思うんですね。野球という最も人気のあるスポーツにおいて、それ自体で経営が成り立たないのは良くないです。所詮スポーツってそういうものだと思われてしまいます。

 スポーツはコンテンツとしても最高ですし、素晴らしいものですから、しっかりと収益を上げる仕組みにしていくことは重要です。

―― 野球との接点は昔から結構あったのですか。

南場 はい、テレビで毎日見ていました。わが社が球団を持つようになってからは相当スタジアムに足を運ぶようになりましたし、昨年はキャンプにも行きました。

―― 素晴らしいコンテンツを収益に結び付けるには、どうすれば良いのでしょうか。

南場 あらゆる局面で努力が必要と考えています。それは前オーナーの春田(真)が礎を築いてくれたんですが、やはり観客動員数をどれだけ上げていくのかということ。それから広告、グッズ、放映権と収入源はいろいろありますが、ファンの期待に応えられるゲームをするということが最も大切です。

―― 球団経営はまだ赤字とはいえ、3年間で赤字額が半減し、観客動員数も増えています。

南場 精いっぱい補強を行い、良いゲームをして、もともとファンだった人にカムバックしてもらったり、横浜を盛り上げるためにイベントを催したり、観客席に趣向を凝らしたり、さまざまなチケットを出したりといったことを総合的にやってきました。

 他の球場を見させていただくと、例えば家族ぐるみで見に来れたり、大勢でバーベキューしながら見られるような趣向を凝らした席があったり。そういう例を参考に、新しいこともやっていきたいですね。

チームはすごくいい状況にあると語る南場智子氏

―― 球団オーナーの中には現場にどんどん介入する方もいますが、南場さんはどうですか。

南場 野球のことは口出ししません。ただ、補強の予算など枠の管理は自分で定めます。その中で、いくらぐらい誰に使うのかと聞かれてもゼネラルマネジャーに任せて私は判断しないことにしています。

 企画については細かいことよりも大きい指摘にしたいと思います。思いつきのアイデアを言って、気を遣わせるのは会社の経営でも嫌なんですよね。誰よりも私が野球を良く知っているなら別ですが、私はずっとインターネットのサービスカンパニーをやってきたので、野球について突然指示を出して売り上げを伸ばす才覚はありません。たまに細かいアイデアを出すときもありますが、そこは社長の池田(純)に取捨選択してもらっています。

 ただ、そうやって私がときどき気軽に意見を出すのを見て、球団社員が自分も意見を言おうという姿勢になっているみたいなので、それは良かったなと。

 例えばトイレが汚いのが絶対許せないとか、サービスを見てもこんなに分かりにくいのは絶対にダメとか、経営として重要と思うところに関しては、細かく入っていくところはあります。でも思い付きで現場を翻弄することはないようにしています。

 あと、私は負けず嫌いなんですが、シーズンを通して観ないといけないので、1試合1試合の悔しさや喜びは、オーナーになったからには抑え目にしないといけないなと。

―― チームを見て改善点などはありますか。

南場 すごく良い状況です。球団を会社として見ても、組織としてどんどん良くなっていると思います。ひいき目に見ていますが、10点以上の差をひっくり返すなど、ベイスターズの野球は一番感動できますね。スポーツなので勝ち負けは重要ですが、ファンを大切にする意識が監督や選手の中で徹底できていると感じます。

 球団スタッフも、ミーティングで選手を前にして、ファンあっての球団だと堂々と発言します。これは、3年前から春田前オーナーと池田と高田繁GMと中畑清監督の良い関係の中で築いてきたものだと思います。

南場智子氏の思い 野球に感動をもらって救われる

―― ファンが南場さんに期待している部分も大きいのでは。

南場 女性初のオーナーとよく言われて、苦労して女性になったわけではないので、ピンとこないんですが(笑)、それも1つの発信力になるのかなと。かたくなに肩肘張るつもりもないですが、話題にしていただけるならプラスにしていきたいなと。

―― 女性ファンが増えている感触はありますか。

南場 私がオーナーになる前からありますよ。女性ってやっぱりカッコイイ男の人が好きじゃないですか(笑)。女性がスタジアムに応援に来れば男性も付いてきますし、家族連れのためのスペースも作りましたし。

 あと、女性だけでなく子どもに野球の素晴らしさを知ってもらいたいなと思ってるんですよね。野球って応援しているチームが劇的なサヨナラ勝ちをした時などの感動はすごいし、エラーした選手がバッターボックスでそれをリカバリーしようと構えた時の必死な顔とか、ホームランを打ってみんなに迎えられるところとか、ドラマがあって素晴らしい力があると思うんですね。

―― 物語性の部分ですよね。

南場 そうですね。私自身も何度か野球に感動をもらって救われているんです。落ち込んでいた時、私が球場を去る寸前にサヨナラホームランを打ってくれて、気持ちが明るくなったこともありました。

 ウチの旦那は元野球部なんですが、病気をした後、初めて外出したのがジャイアンツの試合だったんです。その時にエキサイティング・シートのチケットを頂いて、フラフラの旦那が「なんか元気が出た」と言っててすごくうれしかったですね。

―― 野球好きでしたら、オーナーの立場に就いたことはラッキーだと思いますか。

南場 いやいやいや(笑)。これは仕事上の役割分担ですから。春田がやるのが一番良かったんですが、代わりに「やれ」って言われた時は、今さら自分でいいのかなと正直思いました。

―― いちファンとして楽しんでいたほうが気楽ですしね。

南場 三度の飯より野球が好きな人が、現場に口を出せないのはキツイでしょう。だから、私ぐらいの好きさ加減がちょうどいいんじゃないですか(笑)。

(聞き手=本誌編集長/吉田浩 写真=幸田 森)

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