政治・経済

今国会では、安全保障関連法案ばかりが連日報道されて注目を浴びている。しかし、その陰で多くの重要法案が審議され、いくつかは可決している。労働者派遣法改正もその1つ。実際、ビジネス界にとっては、安保法制より労働法制のほうが切実な問題のはずだ。

労働者派遣法改正案と労働基準法改正案の2つが成立確実

 今国会で審議されてきた労働法案の大きな柱は、労働者派遣法改正案と労働基準法改正案の2つ。このうち前者は6月19日の衆院本会議で可決した。国会は2カ月超延長されているので、成立は確実だ。

 今回の改正案のポイントは、派遣期間の制限見直し。現行は、企業が同じ職場で雇える期間は事務や製造などの一般業務で最長3年、秘書や通訳など専門26業務で無期限。改正案では業務による区分をなくし、どの業務も最長3年とし、企業が労働組合から意見を聞き、働く人を交代させれば、同じ職場でずっと使えるようにする。

 民主党や社民党は3年ルールの強化と順守によって、派遣社員を正社員化できると主張してきた。しかし、実際は派遣社員が減った代わりに、増えたのはパートやアルバイトだった。厚生労働省の研究会では「派遣労働だけ規制しても意味がない」と総括している。ただ、3年ルールの規制緩和がなされると、派遣労働の固定化が進むおそれがあるという主張はもっともだ。

 派遣やアルバイトなどの非正規労働が問題視されるのは、日本に「同一労働・同一賃金」の原則がないからだ。欧州や米国では、多くの専門職で、フルタイムの人もパートタイムの人も時給換算では同じ賃金をもらっている。こんな当たり前の原則がいまだ日本にはないのだ。

 日本で同一労働・同一賃金が進まない理由として、経営者にとっては現在の制度のほうが使い勝手が良いことが挙げられる。経営者は業務命令という形で正社員には何かと無理を言いやすい。労働組合は、建て前では同一労働・同一賃金に賛成しているが、本音は微妙だ。導入されれば、正社員の賃金レベルが下がる可能性が高いからだ。民主党政権下で同一労働・同一賃金が全く進まなかったのは、その証明だ。

改正労働基準法は「残業代ゼロ法案」だとして激しく反発

 大きな柱のもう1つ、労働基準法改正案については、内閣は4月に閣議決定し、国会に提出している。しかし、安保法案の影響を受け、7月初めの時点では審議入りが見通せない状況だ。

 厚生労働委員会に所属する自民党の大岡敏孝衆議院議員は労基法改正の必要性をこう語る。

 「社会が成熟し、働き方が多様化してきた。予測のできない景気変動により正社員だって身分は安泰ではない。管理職や正社員の働き方も見直さざるを得なくなっている」

 今回の労基法改正のポイントは2つ。「高度プロフェッショナル制度(ホワイトカラー・エグゼンプション)」と「企画業務型裁量労働制の拡大」だ。前者は、金融商品の開発や市場分析、研究開発など、成果と労働時間の関連性が低い職種については残業代を支払わないという制度だ。

 「労働市場に出てくるのは、低スキル・低賃金の人たちが中心で、高スキル・高賃金の人たちの流動性はとても低い。高スキルの人たちも労働市場に出てくれば、その人たちの本当の価値が見えるようになるし、成長産業への流動化も高まる」と大岡氏はその意義を強調する。

 一方、労働組合などは「残業代ゼロ法案」だとして激しく反発しているが、この制度が適用されるのは年収1075万円以上の高度人材であり、当面の影響は限定的かもしれない。

 これに対し、民主党政権で厚生労働大臣政務官を務めた山井和則衆議院議員は「初めは年収1075万円以上でも、法改正すれば年収要件は簡単に下がる」と反論する。実際、塩崎恭久厚労大臣は4月、日本経済研究センターの社長朝食会で「小さく産んで大きく育てるので、ぐっと我慢して取りあえず通す」と発言したと報道された。これは「1075万円は高過ぎるけれども我慢してほしい」という趣旨だと取られている。

 山井氏はさらに「本丸は企画業務型裁量労働制のほうだ」と労基法改正案に強く反対する。

 「企画業務型のほうには年収要件がなく、営業職に拡大されれば20代の若者にも適用され、裁量労働制という名のもとに、事実上の残業代ゼロ制度が300万人に拡大される。そうなれば、ますます長時間労働が増えるのは間違いない。残業代ゼロ制度は、経団連の長年の悲願。人件費を抑制するのに一番手っ取り早いのが残業代を払わなくすることで、この実現のために多額の政治献金を自民党にしている」

 労基法が改正されて長時間労働が増えれば、過労死する人が増加する不安もある。昨年11月施行の「過労死等防止対策推進法(過労死防止法)」は超党派議員連盟の活動によって可決成立したものだが、代表世話人を務めたのは自民党の馳浩衆議院議員だった。馳氏はこう話す。

 「(過労死した人の遺族から)労基法改正に反対という声明は届いている。私は『過労死防止を考える議員連盟』の座長として今も活動している。多様な働き方を容認するという法案の中身については全面的に賛成しているが、法律の運用段階で、労働者に無理がかかるといけないと思っている」

 労基法改正案は今国会で成立すれば、来年4月1日に施行となる。国会内では、安保法案の行方次第という見方が強い。

(文=ジャーナリスト/横山 渉)

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