政治・経済

アウトインM&Aで躍進した中外製薬

 2000年代以降、日本の製薬企業の多くが慢性的な新薬不足に悩む中で、例外的なポジションに立つのが中外製薬だ。同社は、伸び盛りの抗がん剤分野で新薬を定期的に上市し続けており、がん領域で国内トップシェアを誇る。

 契機となったのが、01年に踏み切った、スイス製薬大手ホフマン・ラ・ロシュとの「戦略的アライアンス」だった。

 02年10月、ロシュの日本支社は中外と統合。新生・中外は、ロシュが持ち分の50%超を保有する連結子会社となった。上場は維持しつつも、実質的な外資系メーカーに生まれ変わった中外は快進撃を続け、昨年、国内売上高は約4400億円(薬価ベース)、武田薬品工業、アステラス製薬、第一三共というビッグスリーに次ぐ4位につけるまでの急成長を遂げた。

 中外の武器は、最新のバイオ医薬品である。乳がんなどの治療薬として知られる「ハーセプチン」、大腸がんをはじめさまざまながんに使われる「アバスチン」といった、同社が誇るバイオ医薬品は、その多くがロシュを通じて国内販売権を提供されたもの。そして、これらの新薬の多くは、中外と同じくロシュ傘下にある米バイオ医薬品大手ジェネンテックが創製したものだ。

 いずれにせよ、中外が収めた成功のほとんどは、ロシュの資本を受け入れてこそなしえたもの。その意味で、この緩やかな経営統合は大成功だったと言える。

 01年当時、中外は日本市場で売上高10位前後の中堅企業という立ち位置にあった。大手として確固たる地位を築いていたわけではないが、海外資本が救済合併しなければ立ち行かないほどの窮状でもない。そんな「茹でガエル」さながらの状況で、ロシュ・グループ入りという英断を下したのが、当時の永山治社長(現会長兼CEO)だ。

 国際派として知られた永山社長には、ロシュのフランツ・フーマーCEO(当時)と長年の知己があり、これが縁で、中外とロシュの経営統合に向かったとされる。以来13年間、中外はロシュの日本市場に対する橋頭堡として機能しており、昨年、ロシュ取締役会議長を退いたフーマー氏は、依然として中外の社外取締役に名を連ねている状況だ。

 こうした蜜月を10年以上続けてきた両社だが、ロシュによる中外の完全子会社化の噂は絶えない。ロシュは08年に中外への出資比率を約60%に引き上げている。昨年8月、中外はロシュとの契約の一部を変更し、中外製品の海外事業化に関する条項を見直したが、その際も、ロシュがおよそ1兆円で中外の保有株式を買い取るのではないかという観測が流れた。

 09年に468億ドルを投じ、ジェネンテックを100%子会社化したように、ロシュが中外の完全支配に全く興味を持っていないはずはない。ただし、経営のグリップをすべて奪うやり方が、日本企業に対するアウトインとして、果たして「最適解」なのかは、疑問の余地は残る。

製薬業界のアウトインM&Aが有効に機能されていない事例とは

 と言うのも、製薬業界を見る限り、外資メーカーによる日本企業の完全子会社化は、あまり有効に機能しているとは思えない事例が散見されるからだ。

 例えば、11年にイスラエルのテバ・ファーマシューティカル・インダストリーズが大洋薬品工業を買収したケース。テバは、新薬の特許切れ後に製造可能な安価なジェネリック医薬品の分野で、世界最大手である。しかし、ほかの多くの外資ジェネリック医薬品大手と同様、同社も日本市場では細々と合弁事業を展開しているのみで、対日戦略はうまくいっていなかった。

 そんなテバが当時、売上高約500億円、名古屋を地盤に、日本のジェネリック医薬品企業としては沢井製薬や日医工に次ぐ規模を誇っていた大洋薬品(非上場)の発行済み株式のほぼすべてを、約740億円で買収。同社を子会社化すると同時に、興和との合弁事業を解消して、日本におけるテバの売上高は一気に700億円規模となった。

 しかし、大型買収から丸4年。日本のジェネリック医薬品市場は、薬剤費削減を目指す国の政策誘導から活況を呈しているのに、12年4月に「テバ製薬」と名前を変えた大洋薬品のプレゼンスは、逆に薄れつつある。

 日本のジェネリック医薬品市場において、欠品問題は命取りだ。一度供給が滞ると途端に信用を失い、医療機関からそっぽを向かれてしまう。ところが、スケールメリットなら国内企業など歯牙にもかけないはずのテバも、日本の商慣習に対する理解が足りなかったのか、新しい経営陣はさっそく一部製品で需要を読み誤って品切れ状態を招き、シェアの伸び悩みに直面した。結果、同社の売上高は、12年から尻すぼみの状況が続いている。

 確かに新薬とジェネリックでは、同じ医薬品でもビジネスの在り方が異なる。旧大洋薬品が非上場の同族企業で、買収直前に品質問題を起こしていたことも尾を引いているようだ。

 それでも、日本においては経験的に、外資の完全グリップはリスクが大きいと言えるのではないか。やはり、日本市場を理解しているかどうかに、アウトインの成功は懸かっている。

(文=ジャーナリスト/小山 進)

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